挑発
昼の休憩時、ミナスは俺たちの会話が聞こえる距離に腰を下ろした。
つい「一緒にどうぞ」と声をかける、料理人時代の習性が顔を出そうになる。駄目だ。
冒険者は自己責任。食料管理や食中毒の観点から、パーティー以外のメンバーに振る舞わない。
これが、ちょっと俺にはしんどいんだよな。
「美味しそう」と言われたら、分けて感想をもらうという「お裾分け文化」が身に染みついているんだ。
我慢、我慢。今の俺は料理人じゃなく、冒険者なんだから。
ちらりと横目でうかがうと、ミナスは硬そうなパンをかじっていた。何も載せず、ただの栄養補給なんだろうな。
チーズを載せるだけでも違うんだが。
少しだけ、胸が痛んだ。
俺は実家にいたころ、農作業の合間の休憩を家族から少し離れたところで取っていた。
なんとなく居心地が悪く、邪魔者にされているように感じていたから。
俺が離れたあとに、ドライフルーツが出されることがあった。
立ち上がってもらいに行く……それだけのことが、できなかった。
体が硬直したように動けなかった。団らんの様子を見ないようにして、休憩時間が過ぎていくのをじっと待っていた。
だから、近くに来るのは勇気がいるだろうなと思うのだ。
俺にはなかった勇気だから。
午後の組み分けで、ルナとサァラ、フォンと俺の組み合わせになった。
「ヒトスラユニ、やり直すかにゃ?」
「さすがに、この組み合わせは……」
ルナが腕を組んで考えている。
そう、俺とフォンだと決定打に欠けるのだ。今までも補助に回っていた。
「いえ、練習だからこそ挑戦する意味があると思うわ。今日はボウガンも持ってきているのだし」
「そうだよな。俺も何か身につけたい」
まだモンスターが弱く、集団で来ない二層だ。余裕があるのだから、実験してもいいだろう。
少し遠くから、ぷっと吹き出すのが聞こえた。
「今頃そういうこと言うレベルとか、ウケるんですけど~」
ミナスはBランクで俺たちより上だから、そう思うのかもしれない。
だが、やる気を削がれて、嫌な気分になる。
「部外者の声は気にしないよ」
ルナがパン、と手を叩いて、ふざけるように軽く命じた。
「そうね。雑音が耳に入っただけだわ」
上品に受け流すフォン。
「い、イライラするあたいは未熟者かにゃ」
サァラが頭を抱えた。
フォンが耳元で「ここはハグをしてあげる場面でしょ」と囁いた。
一瞬ぞわっとして、思わず耳を押さえてしまった。
いたずらっ子のようなウィンクを見て、俺は軽くフォンを睨んだ。
こほんと咳払いをする。
「ん」
両腕を開いてから、ぎゅむっとサァラをハグ。は、恥ずかしい。
「んにゃ~」
とサァラは俺にしがみつき、額をぐりぐりと俺に押しつけてくる。
何だコレは。
なんのご褒美だ。
あ、ダンジョン二日目で俺、臭くないか? お互い様だからいいのか?
俺はデレデレした顔を晒さないよう、サァラの髪に顔を埋めた。




