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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第九章 ダンジョン

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挑発

 昼の休憩時、ミナスは俺たちの会話が聞こえる距離に腰を下ろした。


 つい「一緒にどうぞ」と声をかける、料理人時代の習性が顔を出そうになる。駄目だ。

 冒険者は自己責任。食料管理や食中毒の観点から、パーティー以外のメンバーに振る舞わない。


 これが、ちょっと俺にはしんどいんだよな。

「美味しそう」と言われたら、分けて感想をもらうという「お裾分け文化」が身に染みついているんだ。

 我慢、我慢。今の俺は料理人じゃなく、冒険者なんだから。



 ちらりと横目でうかがうと、ミナスは硬そうなパンをかじっていた。何も載せず、ただの栄養補給なんだろうな。

 チーズを載せるだけでも違うんだが。

 少しだけ、胸が痛んだ。



 俺は実家にいたころ、農作業の合間の休憩を家族から少し離れたところで取っていた。

 なんとなく居心地が悪く、邪魔者にされているように感じていたから。


 俺が離れたあとに、ドライフルーツが出されることがあった。

 立ち上がってもらいに行く……それだけのことが、できなかった。

 体が硬直したように動けなかった。団らんの様子を見ないようにして、休憩時間が過ぎていくのをじっと待っていた。


 だから、近くに来るのは勇気がいるだろうなと思うのだ。

 俺にはなかった勇気だから。




 午後の組み分けで、ルナとサァラ、フォンと俺の組み合わせになった。


「ヒトスラユニ、やり直すかにゃ?」


「さすがに、この組み合わせは……」

 ルナが腕を組んで考えている。


 そう、俺とフォンだと決定打に欠けるのだ。今までも補助に回っていた。


「いえ、練習だからこそ挑戦する意味があると思うわ。今日はボウガンも持ってきているのだし」


「そうだよな。俺も何か身につけたい」

 まだモンスターが弱く、集団で来ない二層だ。余裕があるのだから、実験してもいいだろう。



 少し遠くから、ぷっと吹き出すのが聞こえた。

「今頃そういうこと言うレベルとか、ウケるんですけど~」


 ミナスはBランクで俺たちより上だから、そう思うのかもしれない。

 だが、やる気を削がれて、嫌な気分になる。



「部外者の声は気にしないよ」

 ルナがパン、と手を叩いて、ふざけるように軽く命じた。


「そうね。雑音が耳に入っただけだわ」

 上品に受け流すフォン。


「い、イライラするあたいは未熟者かにゃ」

 サァラが頭を抱えた。



 フォンが耳元で「ここはハグをしてあげる場面でしょ」と囁いた。

 一瞬ぞわっとして、思わず耳を押さえてしまった。

 いたずらっ子のようなウィンクを見て、俺は軽くフォンを睨んだ。


 こほんと咳払いをする。

「ん」

 両腕を開いてから、ぎゅむっとサァラをハグ。は、恥ずかしい。


「んにゃ~」

 とサァラは俺にしがみつき、額をぐりぐりと俺に押しつけてくる。


 何だコレは。

 なんのご褒美だ。


 あ、ダンジョン二日目で俺、臭くないか? お互い様だからいいのか?


 俺はデレデレした顔を晒さないよう、サァラの髪に顔を埋めた。


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