煩わしいもの
「小休止するにゃ」
舌打ちの件を曖昧にするように、珍しくサァラが率先して提案した。
直線の線路が続く、見通しのいい場所まで移動する。
俺は氷砂糖とハーブを配った。
氷砂糖は直接口に入れてもいいし、ハーブ水に沈めてもいい。
「ネズミがうろちょろしてるんにゃ」
サァラは氷砂糖をガリガリと噛みくだいた。
「ラグラット? 二層に出るのは不思議ではないでしょう」
フォンはハーブ水で喉を潤す。
「違う。鼠獣人。あの、絡んできたヤツ」
フォンがさっと風魔法を使う。
「あら、本当ね。今朝はいなかったと思うけれど」
「入り口からこのあたりまでは、簡単に来られるだろ。途中で討伐に時間をかけなければ」
ルナは立てた片足に、肘をつけて頬杖をついている。
「目的は何なんだろうな」
「パーティーに加わりたいって言ってたんだっけ?」
自分を売り込んできたような……ワイルドベアの討伐に行く前と後だよな。記憶があいまいになってきているが。
「冒険者ギルドからつけられている護衛も戸惑っているみたいだわ。今のところ、敵のような行動は見受けられないけれど……ワイルドベアの討伐って」
フォンは風魔法で盗聴しているらしい。護衛も俺たちが休憩してる間は雑談をするのか。
「え、護衛? どこにいるにゃ」
察知できないのが悔しいのか、サァラが周囲に注意を向けた。
「隠密スキルを持っていたら、見つけらんねぇぞ」
ルナが笑う。
「でも尾行が下手な人に付きまとわれると、気が散るわね。『ネズミ』をどうしましょうか」
「やあ、こんなところで休憩?」
わざとらしい。愛想笑いで鼠獣人のミナスが近づいてきた。
「こんなところで、何してるにゃ」
サァラは、猫がシャーっと威嚇するような雰囲気を出した。
「たまたま近くにいるだけじゃん。あたし、ダンジョン専門の冒険者なんだから。
ねぇ、そうだ。アドバイスしてあげるよ」
いいことを思いついたという素振りだ。
だが、今までの接触を振り返ると、純粋な善意で言っていると受け取ることができない。
「いらないにゃ。お断り!」
「心が狭いなぁ」
やれやれというように肩をすくめる。
「あなた、初級者向けの座学はどうしたの?」
「今さら、受ける必要ないもん」
「つまり、力が強ければいい、自分だけよければいいという考えのままなのね」
フォンは静かに怒っているようだった。
ミナスはルナに視線を向けた。
「ほら、その手斧。刃こぼれじゃなく、鉱石スライムに食われたんだよ」
「え」
「だから、鞘に入れたままぶっ叩いてみな」
分が悪いと思ったのか、ミナスはそれだけ言って離れていった。
空気を引っかき回されて、なんだか疲れた。
休憩を終える前に再びヒトスラユニをして、組み合わせを変える。
今度は、俺とルナの組み合わせだ。
俺は鉤棒で鉱石スライムを押しとどめた。
今度はうまく引っかからずにひっくり返せないのだ。
鉱石スライムが棒にのしかかり、折れないか心配になる。
目の端で、フォンが折れたらボウガンを渡そうと準備しているのに気づく。
棒を握れる幅がじりじりと狭くなり、力が逃げてしまう。
ルナが手斧で鉱石スライムを殴った。
鉱石スライムはルナの足を潰そうとするかのように、体を伸ばした。
鉱石スライムの意識がルナに向いている隙に、俺は鉤棒を持ち直して、構えた。
さっと鉱石スライムの後ろに回り込み、鉤の部分を引っかける。
「おりゃあ!」
ひっくり返せばこっちのもの。
ルナがすかさず、とどめの連打を繰り出した。
ガツ、ゴツッと重たい音が響く。
鉱石スライムは飛び散らずに、動かなくなった。
「あ、確かに……」
手斧は鞘をつけたまま。鈍器で殴る方が鉱石スライム退治にはいいようだ。
フォンが飛び散る破片を集めるために準備していた風を、ふわりと解いた。
「ね? あたしの博識、役に立つでしょ」
ミナスが得意げに手を振ってきた。
サァラはぶわっと毛を逆立て、彼女を睨みつけた。




