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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第九章 ダンジョン

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煩わしいもの

「小休止するにゃ」

 舌打ちの件を曖昧にするように、珍しくサァラが率先して提案した。

 直線の線路が続く、見通しのいい場所まで移動する。


 俺は氷砂糖とハーブを配った。

 氷砂糖は直接口に入れてもいいし、ハーブ水に沈めてもいい。


「ネズミがうろちょろしてるんにゃ」

 サァラは氷砂糖をガリガリと噛みくだいた。


「ラグラット? 二層に出るのは不思議ではないでしょう」

 フォンはハーブ水で喉を潤す。


「違う。鼠獣人。あの、絡んできたヤツ」


 フォンがさっと風魔法を使う。

「あら、本当ね。今朝はいなかったと思うけれど」


「入り口からこのあたりまでは、簡単に来られるだろ。途中で討伐に時間をかけなければ」

 ルナは立てた片足に、肘をつけて頬杖をついている。

「目的は何なんだろうな」


「パーティーに加わりたいって言ってたんだっけ?」

 自分を売り込んできたような……ワイルドベアの討伐に行く前と後だよな。記憶があいまいになってきているが。


「冒険者ギルドからつけられている護衛も戸惑っているみたいだわ。今のところ、敵のような行動は見受けられないけれど……ワイルドベアの討伐って」


 フォンは風魔法で盗聴しているらしい。護衛も俺たちが休憩してる間は雑談をするのか。


「え、護衛? どこにいるにゃ」

 察知できないのが悔しいのか、サァラが周囲に注意を向けた。

「隠密スキルを持っていたら、見つけらんねぇぞ」

 ルナが笑う。


「でも尾行が下手な人に付きまとわれると、気が散るわね。『ネズミ』をどうしましょうか」




「やあ、こんなところで休憩?」

 わざとらしい。愛想笑いで鼠獣人のミナスが近づいてきた。


「こんなところで、何してるにゃ」

 サァラは、猫がシャーっと威嚇するような雰囲気を出した。


「たまたま近くにいるだけじゃん。あたし、ダンジョン専門の冒険者なんだから。

 ねぇ、そうだ。アドバイスしてあげるよ」

 いいことを思いついたという素振りだ。

 だが、今までの接触を振り返ると、純粋な善意で言っていると受け取ることができない。


「いらないにゃ。お断り!」

「心が狭いなぁ」

 やれやれというように肩をすくめる。


「あなた、初級者向けの座学はどうしたの?」

「今さら、受ける必要ないもん」

「つまり、力が強ければいい、自分だけよければいいという考えのままなのね」

 フォンは静かに怒っているようだった。


 ミナスはルナに視線を向けた。

「ほら、その手斧。刃こぼれじゃなく、鉱石スライムに食われたんだよ」

「え」

「だから、鞘に入れたままぶっ叩いてみな」

 分が悪いと思ったのか、ミナスはそれだけ言って離れていった。



 空気を引っかき回されて、なんだか疲れた。

 休憩を終える前に再びヒトスラユニをして、組み合わせを変える。


 今度は、俺とルナの組み合わせだ。


 俺は鉤棒で鉱石スライムを押しとどめた。

 今度はうまく引っかからずにひっくり返せないのだ。

 鉱石スライムが棒にのしかかり、折れないか心配になる。

 目の端で、フォンが折れたらボウガンを渡そうと準備しているのに気づく。


 棒を握れる幅がじりじりと狭くなり、力が逃げてしまう。


 ルナが手斧で鉱石スライムを殴った。

 鉱石スライムはルナの足を潰そうとするかのように、体を伸ばした。


 鉱石スライムの意識がルナに向いている隙に、俺は鉤棒を持ち直して、構えた。

 さっと鉱石スライムの後ろに回り込み、鉤の部分を引っかける。

「おりゃあ!」


 ひっくり返せばこっちのもの。

 ルナがすかさず、とどめの連打を繰り出した。

 ガツ、ゴツッと重たい音が響く。



 鉱石スライムは飛び散らずに、動かなくなった。


「あ、確かに……」

 手斧は鞘をつけたまま。鈍器で殴る方が鉱石スライム退治にはいいようだ。

 フォンが飛び散る破片を集めるために準備していた風を、ふわりと解いた。



「ね? あたしの博識、役に立つでしょ」

 ミナスが得意げに手を振ってきた。


 サァラはぶわっと毛を逆立て、彼女を睨みつけた。


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