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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第九章 ダンジョン

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鉱石スライム

 カツンコツンと音がする。

 普通のスライムが音もなく近づくのに比べて、鉱石スライムは初心者に優しいと言える。


 このフロアは、モンスターが二匹同時に出ることもある。

 ヒトスラユニ(ジャンケン)で、二人ずつの二チームに組み分けした。

 ルナとフォン、サァラと俺の組み合わせになった。



 ルナとフォンの闘いの邪魔にならないよう、俺たちは少し距離を取った。二匹目が出てくる可能性があるので、警戒も怠らない。


 フォンが、風魔法で鉱石スライムの周辺を取り囲む。

 結界というほど強くはないが、鉱石スライムの動きは鈍くなった。


 そこにルナが手斧を叩き込む。ガツンと硬質な音が響いた。

「も、いっちょう」

 ルナが声で景気をつけるように、二打目を叩き込む。

 鉱石スライムは破片になって飛び散った。


 俺たちの方にもこぶし大の破片が飛んできた。

 フォンが風魔法でそれを捕まえ、勢いを削いで落下させた。


「うわぉ。フォンありがと」

 サァラは顔を防御しようと上げた腕を降ろした。

「昔はこの破片が直撃したにゃ」

 サァラが俺の顔を見て、説明してくれた。


「私も日々進歩しているのよ」

 フォンが微笑んだ。昨日いじけていたのが嘘みたいな、いい笑顔だ。




 二層にもトロッコのレールが敷かれているので、それに沿って歩いた。

 だが、一層がもともと敷かれていたものに対して、二層はそれを模倣したもののようで、所々不自然だ。

 枕木とレールが一体化していたり、レールの幅が場所によって違う。


 そんなことを観察していたら、二匹目の鉱石スライムが現れた。


 動きは鈍いが、押しつぶされそうな迫力に、心が負けそうになる。

 攻撃を外してのしかかられたら、骨折する。足をやられても、ダンジョンの外まで自力で戻らなければいけない。


 俺は鉤棒を構えた。

 何度か鉱石スライムを突く。手に重さが伝わってきた。

 鉱石スライムのでこぼこした表面に引っかけられたので、上半身の勢いを乗せて一気に転がした。


 一見、上下など関係ないように思うが、ひっくり返すとしばらくは前進できないようなのだ。モゴモゴと動く様子は、ひっくり返した亀のようだ。


 そこにサァラが拳を叩き込む。

 今度は飛び散らずに、ウゴウゴと蠢いたあと、シュンと消えた。また、カランと魔石が転がる。




 チッとかすかに舌打ちが聞こえた気がした。

 振り返るとサァラが眉をひそめている。

 もっと遠くから聞こえたような気がしたが……。


 俺の戦い方がお気に召さなかったか? 

 でも、サァラならちゃんと言ってくれるはずだ。だったら、別のことだろう。

「大丈夫か? 怪我とか、何か気になることがあるのか?」

 

 硬くて重量のある鉱石スライムを叩いたのだから、手首を痛めてもおかしくない。

 気軽に訊けるような関係が、俺は少し嬉しかった。


 ちらっと、俺が勧めたグローブに不具合があったかと不安になる。


 実家では、父の舌打ちひとつで背筋が縮んだことをふと思い出した。自分が何か悪いことをしたのかと……怯えていた日々。

 もう、過去の話だ。



「今、舌打ちしたの、あたいじゃないにゃ」

 忌々しげな答えが返ってきた。


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