ダンジョンでお泊まり
退避エリアで夕食をとって、寝る。それが今日の残っている予定だ。
ベテラン冒険者は一層を素通りするため、ここで宿泊するのは駆け出しの冒険者と教場訓練の指導者くらいか。
ここにはモンスターが入ってこないと決まっている。
誰が決めたルールなのか。冒険者が安心してダンジョン攻略を進めるために、必要と思われる環境――。
今は、考察をやめよう。
俺は軽く頭を振り、夕食の準備に取りかかる。
数カ所に焚き火の跡があるので、その内の一つを利用することにした。
手早く火をおこし、湯を沸かす。
パンと硬いチーズの塊は、手分けして切ってもらう。
それぞれのお椀に乾燥野菜と干し肉を細かくしたものを入れてお湯を注いだ。干し肉の塩気が味付けになる。そこに軽くコショウを振った。
「はあ、温かいスープってだけで、染みるにゃ~」
サァラが上を向いて、ほおっと気の抜けた息を吐いた。
「トーマが加入するまで、面倒だと言ってスープを作ったりしなかったものね」
「女だから料理が得意ってことはないからな。うん、美味しい」
フォンとルナが口々に褒めてくれる。
「さて、今日のラグラット比べは……勝敗じゃなく、次に活かせるポイントを話し合おうか」
ルナがフォンの顔をちらりと見て言った。
また落ち込んでダンゴムシ状態になっても、いけないからな。
「フォンのウィンドボールは、耐えるより逃げ出したいと思う威力だった。
強弱をつけられるなら、足止めか方向誘導か作戦によって使い分けたい。その辺はどう?」
力加減ができるのかどうか。
「方向を誘導できるなら、仕掛けた罠にはめやすくなるな」
ルナがわくわくした口調になった。
「ルナがいる方向に行かせて、一刀両断にするのもかっこいいにゃ」
「それ、いいな。絶対に気持ちいいやつだ」
「ウィンドボール自体、先日の依頼で練習を始めたばかりだから、できるように頑張るわ」
フォンは期待の眼差しを受けて、微笑んだ。
「そうだったにゃ。なんか、昔から使いこなしているような気になってた」
サァラは、フォンにニパッと笑顔を向けた。
「格闘家のサァラは接近せざるを得ないから、怪我が心配だな。防御の装備を増やすか?」
先ほどの傷は塞がっているが、少し赤みが残っている。
「スピードが落ちるからイヤにゃ。ポーションをしっかり持って行けばいいん」
サァラは頬を膨らませた。
「その、『怪我をしても構わない』というのが、どうかと思うのよ。毒消しが効かない毒だったら困るわ」
「でも、多少の怪我は仕方ないだろ」
ビキニアーマーのルナは、サァラを援護する。下手したら、自分にも飛び火する話題だからな。
みんなが食べ終わったので、ハーブティーにして出す。昼間はハーブ水で飲んだものだ。
「この一杯があるかないかで、生活の質が大違いだわ」
「なんか、優雅な気分になるもんね」
爽やかな香りが漂う。
「俺とフォンは決定打に欠けるから、仕留めるのに時間がかかるんだよな。それを何とかしたい。
フォンはウィンドカッターとかできないのか?」
ウィンドボールを圧縮したらウィンドカッターになったりしないか?
「あれは相当魔力を消費するのよ。練習したけど、まだ成功したことがないわ。
できるようになったとしても、魔力枯渇で迷惑をかけそうな気がするわ。そんな状態では、一撃を外したら目も当てられないでしょう」
「そっか。魔法のことはよくわからなくて、ごめん」
「訊いてくれたら説明するから、遠慮なく質問して」
「ほら、ああやって反省会をするのよ」
あれ、なんか子どもたちのお手本にされてますかね?
そういえば、前のパーティーでは反省会とか、やったことなかったな。
一方的に俺だけダメ出しされて、あれはレベルアップのための振り返りではなく八つ当たりの……無駄な時間だった。
ハーブティーを飲みながら、思う。
今日は、褒められた言葉を胸に抱いて寝よう。




