お嬢さんのための罠
タイトルを変更します。
「追放後にハーレムパーティーを組み、土下座されても戻らなかったが、なんか違う」から
「『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~」へ。
ハーレムに辿り着くまで時間がかかりすぎて、タイトル詐欺でしたよね。
お嬢さんから相談を受けた。
「あのさ、トーマくん。あたしのお風呂、覗いたり……してないよね?」
し、心臓が止るかと思った。
してないよ!
「してません! そんなことしたらオヤジさんに殺されます」
「そう、だよね。……なんか、最近、物音がしたり……ちょっと不気味でさ」
力なく笑って、空元気を見せる。
「えっと、じゃあ、夜、見張ってましょうか? あ、もちろん、中は見えない場所で」
お嬢さんは口に手を当てて少し考えた後、「お願いできる?」と上目遣いで言った。
また背が伸びて、俺はお嬢さんを追い越したんだよな。
頼りがいがあるお姉さんから、可愛いお嬢さんに変わっていくのが……嬉しいやら、シンドイやら。
こうやって、信頼されているのを喜ぶとしますか。
人目につかないように自分の部屋で罠を作る。
縄で輪っかを作って地面に隠す。その輪っかの中に足を踏み入れたら縄を引いて捕まえる、原始的な罠だ。
夜、お嬢さんが「今日はこれで終わりだよね。先にお風呂いただくね」と、少しわざとらしく大きめの声で言った。
……お嬢さん、女優にはなれそうもないな。そんな素朴なところも可愛いけど。
俺はさりげなく裏庭に回り、木の陰にしゃがみ込んだ。
手には縄の端を持っている。
ほどなく人影が現れた。
小さな木箱を踏み台にして、風呂場の窓枠に手をかけ……片手を股間に。
駄目だこれ。
この罠じゃ、立ち去る瞬間を狙うしかない。
お嬢さんの姿を堪能した後、ということになる。
石を拾って腰に下げた手ぬぐいで包み、数回振り回してから覗き魔に向けて石を投げた。
簡易投石器から放たれた石は、犯人の背中にヒット。
「うごっ」と野太い声があがる。
踏み台の上でよろけたところ、走り出て、踏み台を横から蹴って転ばせる。
地面に手をついたので、地面に仕掛けていた縄を手に取り、輪っかをかけて両腕を拘束することに成功。
戦闘スキルがあれば、石を足にぶつけたり、すぐに無力化したりできるんだろうな。
体格差もあるし、気絶させることもできないのが悔しい。
でも、逃がさず捕らえるのが第一目標だ。
「オヤジさん! 覗きです!」と声を上げる。
風呂場の窓からお嬢さんが顔を出した。
上気した顔。色っぽいからやめて。
ドタドタと足音が聞こえる。
覗き魔がはって逃げようとするから、手に持った縄を引っ張った。
「ほげ」っと汚い声が漏れる。うん、下手に逃げようとするなら、もっと絞めるぞ。
風呂場から漏れる明かりでは、犯人のシルエットしかわからない。
背中に乗っかっているから顔が確認できないというか……犯人の正体を知りたくない自分がいる。
なんかさぁ……体格といい、うめき声といい……知り合いが知り合いに痴漢行為をするとか最悪じゃん?
酒の臭いもしない。シラフでやってるんだ、こいつ。
オヤジさんは問答無用でこめかみに一撃を加えて無力化し、上腕部に掛かっている縄の残りを使って、手際よく縛り上げた。
一本の綱でヒヤヒヤしていた俺と違い、何重にも縛ってもう逃げられない安定感がある。
さすが、元冒険者は違うな。
気がついたら、宿泊客たちが上から見ていた。
「ひゅーひゅー、カッコいい」
「オヤジさん、ギューギューに痛めつけたれ」
「トーマ、次は捕縛術を教えてやるぞ」
オカミさんが持ってきた明かりで顔を確認したら……ボビーだよ。やっぱり、か。
犯人がわかった瞬間、笑いが消えた。
ここまでゲスだと知りたくなかった。
もう、さぁ……雇い主のお嬢さんに何してんの?