ラグラット 四匹目
フォンには申し訳ないが、失敗してくれてありがとう。
「これで俺だけ討伐できなかったら……」というプレッシャーから解放された。
こんな卑怯なことを考えていることは、絶対に知られたくない。
俺は即席で罠を用意する。
ダンジョンの壁を掘り、太い釘を刺す。しばらくすると削ったはずの部分が修復される。すると、釘がしっかり壁に固定されるのだ。
それを通路の右壁と左の壁、それぞれ二点、合計四カ所に釘を打ちつけた。
次はそれにロープを絡ませる。
ラグラットが突進してきたら、ロープを引いて首か胴体を締めあげるのだ。
締めるためにロープの端を持ち、おびき寄せるためのリンゴをハンカチの上に置いた。直に置いたらダンジョンに吸収されてしまうからな。
「兄ちゃん、何やってんだ。邪魔だよ」
後ろから子どもの声がした。
冒険者になりたてといった雰囲気だ。
もう日帰りの冒険者たちが来る時間になっていたんだな。
ルナたちは、少し離れたところからこちらを見ている。
一応、刺客じゃないかと警戒はするが、「子どもを使う悪党」が敵じゃないことを願ってしまう。
「悪かったな。ロープをまたいで行ってくれるか?」
通行の邪魔なのは確かだ。謝って、先に進んでもらおう。
子どもといっても、十二歳のスキル判定は終わっているだろう。
別の子どもが俺に話しかけた。
「これは、何をやっているんですか?」
「ああ、ラグラットを罠にかけようと思ってさ」
「……見ててもいいですか?」
少し顔を赤くしながら、緊張した声で言う。
「いいよ。上手くいくかはわからないけど」
「ちょ、勝手に決めんなよ」
「あたし抜きで行っていいよ。これは、見ないと損する気がする」
「じゃあ、俺も見てく」
「お前らー!」
子どもたちが坑道の中央で騒ぎ出す。
「そこの子たち。見学するならこっち来い」
ルナが声をかけた。
「え、仲間? そんなに離れて……喧嘩してるんですか?」
罠を見たいと言い出した女の子が俺とルナたちを見比べて、おろおろする。
「あ~、違う違う。一人で一匹倒すルールで競争してるだけ」
改めて説明すると恥ずかしいな。ダンジョンでいい大人が遊んでるって。
「なんだそれ。カッコいいな!」
最初に邪魔だと言い放った男の子が、興奮したようにはしゃぐ。
「だから、こっち来いって」
ルナがもう一度手招きすると、子どもたちはまとめて移動した。いきなり素直になったな。
――で、改めて観客が増えたと。正直、恥ずかしいぞ。失敗したらどうすんだ、これ。
待つことしばし。
ラグラットが現れた。
鼻をぴくぴくさせ、リンゴめがけて走ってくる。
俺は放置された木箱の隅に隠れて、ラグラットが罠に差し掛かるのをジリジリと待つ。
早すぎても駄目だ。
よし、今!
ロープを思いっきり引っ張る。
地面に着いていた部分が浮き、ロープで作った輪が締まって、ラグラットは捕獲された。
首に掛かったのでこのまま宙づりにしたいが、暴れるモンスターの力は強い。
くそっ、筋力が足りねぇ。
線路の枕木に踵を引っかけて、力比べをする。
ここで、負けるわけには……逆に枕木が負けて折れ、俺は体勢を崩した。
すぐ隣の枕木に足を引っかける。
ラグラットはとにかく逃げようとして、首の輪が締まり……自滅した。
こっち側に反転して来なくてよかった。
その場合は短剣で闘うつもりだったけど。
革の手袋が擦れて、手のひらから血が滲んでいる。
カラン。
魔石が転がる小さな音がして、ラグラットは消えていた。




