ラグラット 二匹目
次にラグラットが出てきたら、フォンが討伐する番だ。
先頭にフォンが立ち、時々スライムを風魔法で壁に叩きつけて討伐する。
三叉路に差し掛かると、フォンはそこで立ち止まった。
「強い魔法を使うときは詠唱に時間がかかるから、歩きながらじゃなく待ち受けたいんだけどいいかしら?」
「じゃあ、あたしたちは休憩しながら見学といくか」
ルナの提案で荷物を降ろして一息つくことにした。
俺はリンゴを皮付きのまま四等分にして配る。芯と種の部分を取り除かなくても、別にいいだろと冒険者っぽく考えた。
ホテルだったら、飾り切りでウサギだのバラだの作ることもあるけれど。
シャクッといい音がして、爽やかな甘みが口に広がる。
ふわりと瑞々しい香りが漂った。
「おいしかったにゃ」
サァラが食べ終わったリンゴの芯をぽいっと捨てた。
しばらく見ていると、地面に吸い込まれて消えていく。
「ダンジョンって便利だよな」
普通の旅の途中なら、生ゴミの処理のために穴を掘らなければいけないところだ。
他の動物たちが食べて処理してくれるからそのままでいい、という考え方もある。だが、モンスターを呼び寄せることもあり、埋めることが推奨されている。
あれ? ということは……。
「これ、消えない方がラグラットをおびき寄せられるんじゃないか?」
顔を上げて見回すと、みんながハッとしている。同意を得られたようだ。
ダンジョンに吸収されないためにどうすればいいかを考え始めた、次の瞬間――
フォンが立ち上がった。
「来たわね」
近づいてくる間に詠唱を始め、ウィンドボールが練り上がっていく。
「今までサポートばかりで決定打がなかった私にも……」
フォンの顔は生き生きと輝いていた。
ダダダッと近づくラグラットを待ち構え、引きつけて……放った!
ゴオッと音を立てて発射されたウィンドボール。
疾走中のラグラットは正面からそれを受けて、はじかれた。
後方に飛ばされ、トロッコの線路の敷板の上をズザザッと滑っていく。
フォンが第二弾を準備していると、ラグラットはふらりと起き上がる。
こちらに向かってくるかと思いきや――逃げた。
タタッタッタタ……という足音が遠ざかっていった。
リズムが一定ではないので、怪我をしていると思う。だが、仕留め切れていない。
「え、ちょっと待って」
フォンの集中力が切れて、風が一瞬で散る。
強めの風で、ルナのポニーテールがばさりと俺の顔に当たった。
沈黙が落ちる。
サァラがぷっと吹き出す。
フォンはよろよろと壁際に歩いて行き、壁に向かってうずくまってしまった。
ダンゴムシ状態で、顔が見えない。
「ごめんにゃ~」
サァラが頭をなでると、フォンは子どもが「いやいや」をするように首を振る。
ルナが「フォンは想定外の事態に弱いんだ」と囁いた。
ダンゴムシを見たら、つつきたくなるのは男の性ではないだろうか。
許されるなら、顔を隠している両手を掴んで、照れている顔を堪能したい。
だがしかし、それをやったら好感度が下がる。
山猫亭で男への駄目出しで盛り上がっていたお姉さま方を思い出せ。
そんな俺の葛藤をよそに、ルナがダンゴムシを突きに行った。
ちょ、なにやってんだよ。
くそっ、うらやましすぎるんだが。




