ダンジョン前の朝飯
翌朝。
目が覚めると、夜番で起きていたサァラと目が合った。
「昨日、何か来たか?」
「んー、特に何もないにゃ」
俺は軽く伸びをして、一階に降りる。
ダンジョンに入る前の食事だから、温かいものを作りたい。
台所のかまどに小枝を入れ、火打ち石で火を起こした。
結局、山猫亭のオヤジさんからもらった火打ち石は見つからず、新しく買ったものだ。
小枝の火が太い薪をチロチロと舐めていく。
俺は井戸で顔を洗い、食事用の水を汲んだ。
パンケーキに卵焼き、それにサラダ。ミルクはそのままかホットで。
ダンジョンに潜ったら食べられない物ばかりだ。
保存が利かない食材と火加減に気をつけながらの調理。ある意味、贅沢だ。
三人が食堂に降りてきて、目を輝かせた。
「ダンジョンは楽しみだけど、食事は確実に質が落ちるからなぁ」
ルナがホットミルクを飲んだ。
「トーマがいなかったら、この段階ですでに硬いパンに干し肉だったにゃ」
サァラがパンケーキにかぶりつく。
「そういえば、そうね」
フォンがサラダを口にした。
こうやって感想を言ってくれるだけでも、ありがたい。
卵を食べながら、味付けはちょうどよかったか自分で確認する。
火加減がちょっと強かったな。慣れていない台所だから、その辺りは難しい。
あれ? もし魔法が使えるなら、火魔法で料理できるんじゃないか?
ダンジョンから戻ったら、本格的に魔法について調べてみよう。
食後の片付けを任せて、俺は二階に自分の荷物を取りに行った。
あ、毛布を畳んでくれてる。誰だろ。ありがたいな。
以前のパーティーだったら、「早くしろ」と文句を言われながら、虚しい気持ちで荷造りしていただろう。
第一印象で何か引っかかったのに、加入してしまった昔の俺。馬鹿だなぁと乾いた笑いが漏れた。
一階に降りたら、フォンの風魔法で包まれた。
「おわ! なに?」
「パンケーキの甘い匂いをさせていたら、モンスターに集中攻撃されちゃうわよ」
ふふっと笑う。
「それ、盾役がヘイトでモンスターを集めるみたいに使えないか?」
あれがあると、闘いやすいんだよな。
「それには、トーマの防御力をあげないと。あれは、攻撃を耐えられるのが大前提だから」
ルナにちょっと呆れ気味に言われた。
そりゃ、そうだ。恥ずかしい。
体格に恵まれたうえで、筋肉を育てておかないと……って話だよ。
「それなら、いい匂いの玉を作って転がしたら? 囮にするにゃ」
「いいわね。風で匂いを広げれば、どんどん集められるわね」
「今、言うなよ。もっと早く言えって。なぁ?」
ルナが俺の顔を見てニッと笑い、同意を求めた。
今日も今日とて、三人は賑やかだ。
一晩世話になった家を揃って出て行く。もちろん、俺もそれに続く。
「モンスターが好む匂いの研究なんて、聞いたことないですよ」
眩しい朝日に目を細めながら、俺も笑った。
この時サァラが鼻にしわを寄せて、物陰を睨みつけていることには気付かなかった。




