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『下ごしらえ』で冒険者を目指す ~地味スキルなのに、なぜかモテる件~  作者: 紡里
第八章 意外と知らない世界

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誰でもいいわけじゃない

「絶対に嫌にゃ! お断り!」

 サァラは噛みつきそうな勢いで、鼠獣人とダンジョンに行くという案を拒絶した。

 ルナもフォンもサァラに同意している。

 俺もあの粘っこい馴れ馴れしさが、なんとなく不快というか不安だ。


 ギルドマスターが降参というように両手を挙げる。

「わかった。この話は終わりだ。

 こちらは情報提供と提案をするだけで、誰と行動するか決めるのは冒険者本人というのが鉄則だからな」


 ギルドマスターは俺たちに言いながら、職員にも「いいな?」と釘を刺している。

 職員は素直に俺たちに謝罪した。




「なんか、すごい怒ってるのが……新鮮。わりと穏やかなメンバーだと思ってた」

 冒険者ギルドを出て、市場に向かいながら話をする。


「それは、怒る理由がないからってだけで」

 ルナが苦笑いした。


 あ、鮮血の深淵とバトルしたときは怒ってたか。でも、こんなに感情的にはなってなかった気がするな。


「でも、サァラが勝手に俺を連れて来たときも、反対しなかったじゃん」

 サァラは怪我した俺を発見して面倒を見て、この街まで一緒に来た。そこで他の二人と会って、そのままメンバーに入れてもらったんだよな。

 だから、誰でも歓迎って方針なのかと思ってた。


「無条件に受け入れたわけじゃないわ。しばらく観察して、いいと思ったから受け入れたのよ」

 フォンは周囲を警戒しているので、俺の方は見ないままそう言った。


「え、観察?」

 じっくり見られてたのか? え、なんか変なところ、見られてないよな?


「当然にゃ。命を預け合う関係なんだから」

「だから、危ない匂いがする相手は最初から切るわ。関わりを持つだけで命取りということもあるもの」

「あの職員は、冒険者の経験がないからさ。そういうとこ、わかってないんだよ」


 意外と言ったら失礼だけど、ちゃんと考えてたんだ。


「選び間違うと、俺みたいにえらいことになるよな。……はは」

 思わず乾いた笑いが出た。

 同郷ってだけで「鮮血の深淵」という冒険者パーティーに入ったのは、失敗だった。心の底から後悔している。


「そういうことにゃ」

 サァラがニッと笑う。


「ごめん。ノリで俺を加入させたのかと思ってたわ」

 ニヤリと笑い返したら、背中をぽかすか叩かれた。

「んも~、失礼なやつにゃ」



 さっき冒険者ギルドを出る前に、遠征に使わない荷物はギルドの保管庫に預けてきた。

 昨日、受け取った荷物を、ほぼそのまま渡したような感じだ。


「野宿の方が安心して過ごせるって、冒険者っぽいにゃ」

 サァラはのんきに鼻歌を歌いながら、干した魚を眺めている。


 市場で数日分の食料を買い込み、以前実験をしたダンジョンに向かうのだ。

 もう一泊どこかの宿に泊まって明朝に出発する手もあるのだが、なんとなく早く街の外に出たいという気持ちになっている。


「そんなにBランクの人間を捕まえておきたいなら、ギルドが何か仕事を作って与えればいいのよ」

 フォンが素っ気なく切り捨てた。


「『迷宮の紅爪』って、紅一点の女王様に侍ってる奴らじゃん。よく、あんなのに参加するよな」

 ルナが苦々しく言う。へぇ、会ったことないけど、そういうパーティーなんだ。

 そんなに魅力的なのかね。……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ見てみたい。


「あからさまに『女王様以外は眼中にない』って態度を取られたら、気分悪いわよね。もしかして、それを知らない他の街の冒険者をスカウトしてきたのかしら」

 フォンが、そんなだまし討ちなら少しだけ同情すると付け加えた。


「それを我慢しなきゃいけないくらい、他に行く当てがないんじゃにゃいの?」


 おおう、サァラが辛辣だ。


 みんな、悪口が止まらなくなっているぞ。


 ……このメンバー、怒らせると厄介なタイプなんだな。

 穏やかな面しか見たことなかったけど、これから気をつけよ。


 まあ、こうしていると普通の女子だな。

 勝手に、「人間ができてるなぁ」と思っていた。

 素を見せてくれるようになったと歓迎するところかな?


 あ、乾燥野菜はどれを買おうかな。スパイスは……手持ちの分で足りるか。

 ダンジョンの周辺で、いい感じの草や木の実が採れたらいいな。

 そういえば、ダンジョン内には食べられるものはないんだろうか。



 今度は、ダンジョンを楽しみながらいろいろなものを得たい。

 同時に、自分を磨くトレーニングも考えなきゃな。


 今度は――怪我なく冒険できるだけじゃなく、強くなるために。


いつもお読みいただきありがとうございます。

本話で100話、累計20万PVになりました。

引き続き、のんびりお付き合いいただけると嬉しいです。

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