誰でもいいわけじゃない
「絶対に嫌にゃ! お断り!」
サァラは噛みつきそうな勢いで、鼠獣人とダンジョンに行くという案を拒絶した。
ルナもフォンもサァラに同意している。
俺もあの粘っこい馴れ馴れしさが、なんとなく不快というか不安だ。
ギルドマスターが降参というように両手を挙げる。
「わかった。この話は終わりだ。
こちらは情報提供と提案をするだけで、誰と行動するか決めるのは冒険者本人というのが鉄則だからな」
ギルドマスターは俺たちに言いながら、職員にも「いいな?」と釘を刺している。
職員は素直に俺たちに謝罪した。
「なんか、すごい怒ってるのが……新鮮。わりと穏やかなメンバーだと思ってた」
冒険者ギルドを出て、市場に向かいながら話をする。
「それは、怒る理由がないからってだけで」
ルナが苦笑いした。
あ、鮮血の深淵とバトルしたときは怒ってたか。でも、こんなに感情的にはなってなかった気がするな。
「でも、サァラが勝手に俺を連れて来たときも、反対しなかったじゃん」
サァラは怪我した俺を発見して面倒を見て、この街まで一緒に来た。そこで他の二人と会って、そのままメンバーに入れてもらったんだよな。
だから、誰でも歓迎って方針なのかと思ってた。
「無条件に受け入れたわけじゃないわ。しばらく観察して、いいと思ったから受け入れたのよ」
フォンは周囲を警戒しているので、俺の方は見ないままそう言った。
「え、観察?」
じっくり見られてたのか? え、なんか変なところ、見られてないよな?
「当然にゃ。命を預け合う関係なんだから」
「だから、危ない匂いがする相手は最初から切るわ。関わりを持つだけで命取りということもあるもの」
「あの職員は、冒険者の経験がないからさ。そういうとこ、わかってないんだよ」
意外と言ったら失礼だけど、ちゃんと考えてたんだ。
「選び間違うと、俺みたいにえらいことになるよな。……はは」
思わず乾いた笑いが出た。
同郷ってだけで「鮮血の深淵」という冒険者パーティーに入ったのは、失敗だった。心の底から後悔している。
「そういうことにゃ」
サァラがニッと笑う。
「ごめん。ノリで俺を加入させたのかと思ってたわ」
ニヤリと笑い返したら、背中をぽかすか叩かれた。
「んも~、失礼なやつにゃ」
さっき冒険者ギルドを出る前に、遠征に使わない荷物はギルドの保管庫に預けてきた。
昨日、受け取った荷物を、ほぼそのまま渡したような感じだ。
「野宿の方が安心して過ごせるって、冒険者っぽいにゃ」
サァラはのんきに鼻歌を歌いながら、干した魚を眺めている。
市場で数日分の食料を買い込み、以前実験をしたダンジョンに向かうのだ。
もう一泊どこかの宿に泊まって明朝に出発する手もあるのだが、なんとなく早く街の外に出たいという気持ちになっている。
「そんなにBランクの人間を捕まえておきたいなら、ギルドが何か仕事を作って与えればいいのよ」
フォンが素っ気なく切り捨てた。
「『迷宮の紅爪』って、紅一点の女王様に侍ってる奴らじゃん。よく、あんなのに参加するよな」
ルナが苦々しく言う。へぇ、会ったことないけど、そういうパーティーなんだ。
そんなに魅力的なのかね。……ちょっとだけ、本当にちょっとだけ見てみたい。
「あからさまに『女王様以外は眼中にない』って態度を取られたら、気分悪いわよね。もしかして、それを知らない他の街の冒険者をスカウトしてきたのかしら」
フォンが、そんなだまし討ちなら少しだけ同情すると付け加えた。
「それを我慢しなきゃいけないくらい、他に行く当てがないんじゃにゃいの?」
おおう、サァラが辛辣だ。
みんな、悪口が止まらなくなっているぞ。
……このメンバー、怒らせると厄介なタイプなんだな。
穏やかな面しか見たことなかったけど、これから気をつけよ。
まあ、こうしていると普通の女子だな。
勝手に、「人間ができてるなぁ」と思っていた。
素を見せてくれるようになったと歓迎するところかな?
あ、乾燥野菜はどれを買おうかな。スパイスは……手持ちの分で足りるか。
ダンジョンの周辺で、いい感じの草や木の実が採れたらいいな。
そういえば、ダンジョン内には食べられるものはないんだろうか。
今度は、ダンジョンを楽しみながらいろいろなものを得たい。
同時に、自分を磨くトレーニングも考えなきゃな。
今度は――怪我なく冒険できるだけじゃなく、強くなるために。
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