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宿屋の三年目

 街に来てから二年経ち、俺は十四歳になった。

 身長も伸び、筋肉もついて、一度に運べる荷物も増えた。

 これから始まる三年目には、もっと成長して、色々なことができるようになるはずだ。



 それと同時に、三歳年上のお嬢さんの魅力も、わかるようになってしまった。


 俺が裏庭で自主練をしていると、客の冒険者がたまにアドバイスをくれたり、対戦相手をしてくれる。


 そこに、お嬢さんが参加してくることがある。

「面白いことしてるね。あたしも混ぜて!」

 困った客に対応できるよう、護身術とちょっと攻撃ができるくらいになりたいそうだ。



 それは素晴らしい心得だと思うのだが……思うのだが、揺れる胸とかチラリと見える太ももとか、色々と困るんですよ。


「はっ」とか「やぁ!」ってかけ声も、可愛い。


 そっち方面も修行と考えろ、仕事モードに入れば気にならない、煩悩退散――などと考えていると、一撃食らってしまう。


「ほら、気が散ってるぞ」

 と楽しそうに蹴りが入った。




 さっと汗を拭って仕事に戻ると、宿屋の先輩――ボビーさんがオヤジさんと口論をしていた。

「だから、夜の酒場を再開すべきですって。売上げが段違いですよ」

「俺の足の具合が良くないって言ってんだろう」


「そんなの、俺がカバーしますよ」

 ボビーさんが胸を張るが、シーンと白けた空気が流れた。


 だって、本人は気付いていないけど、戦力に数えられてないんだもん。


 やる気はあるのだが、優先順位がわからないらしい。


 出立のお客様と荷物で一階が混雑しているときに、二階の床の数年来の汚れを一生懸命に落とそうとしていたり。

 メニューにない料理を「あるか」と訊かれて、勝手に注文を受けてしまったり。


 それを「頑固な汚れを落としたのに褒め称えないなんて」とか「新しいニーズを掘り起こしたのに、無碍に却下するとは」とかって地団駄踏まれてもさぁ。


 長年勤めているので助かる部分もあるのだが、場合によっては駆け出しの小僧の方がマシって思われてるんですよ。



 そんな人物がメインに夜の営業をするなんて、できるわけがない。無謀としか言いようがないのに、本人だけがやれると思っている。


 それに、お嬢さんが嫁に行くまで、夜営業は絶対にしないとオカミさんが言っていたぞ。

 そんなことも聞かされていないのか、聞いても都合悪いことは覚えていないのか。



 やる気を見せようとすればするほど、逆効果で評価が下がっていくのがわからないらしい。


 気の毒だが、嫌味ばかり言われるから、フォローしたり言わない方がいいとアドバイスをしたりする気にもならん。

 言ったところで、後輩の意見など訊く耳を持っていないしな。




 だいたい、そんな口論で時間を無駄にしてんじゃねぇ。


「お話中、失礼。ボビーさん、部屋のチェックは何号室まで終わってますか?」

「いや、まだ……」

 やっぱりな。


「じゃあ、超特急でやらないとですね。俺は奥からやるので、ボビーさんは手前の部屋からやってもらっていいですか?」

 俺が段取りを指示した瞬間、ボビーさんの眉がぴくりと動いた

「てめえが仕切ってんじゃねぇぞ」

 と睨まれた。


「この話は終いだ。トーマの案でいい。急ぐぞ」

 オヤジさんは厨房をちらりと見て、オカミさんたちに軽く手を上げて詫びるポーズを取った。


「トーマ、例の件、くれぐれも頼むぞ」

 小声で言われたので、小さくうなずく。



 お嬢さんが「ほんと、やだ。あの人」とオカミさんにぼやいているのが聞こえた。


 朗らかなお嬢さんがここまで言うの、珍しいんだぞ。

 ちょっとは反省する気になりやがれ、と心の中で念じていたら……。


「へっ、言われてるぜ」とボビーにどつかれた。



 はぁ?! ちげーよ。俺じゃなくて、お前のことだっつーの!!


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