第五話 「義賊」
「ふ、ふわぁ。やっと、やっと追い付いたよぉ。もう限界だぁ……。」
……?
「優駿?……お前、追いかけてきたのか?一人か?村の者は?」
「僕一人だよ。……あいてててて。」
…………。
刹那は驚いていた、刹那はかなり急いで走って来た筈なのだ。村の仲間達が、決して追い付いて来れない様にと。
「よく追い付いて来れたな、お前。」
「え?あ、うん。昨日は寝ずに追いかけて来たからね。まあ、空腹で眠れないだけなんだけど。」
「そ、そうか……。」
刹那は気が抜けた様に、その場にぺたんと座り込む。
刹那はこの時、気が付いていなかったのだが。例え行き先が分かっていたとしても、この山の中で一人の人間を見つける事は非常に困難な事なのである。優駿は一体どうやってこの薄暗い山の中、刹那の居場所を特定する事が出来たのだろうか?
一本道なら話は別だ。しかし、ここは道など無い山中なのである。刹那はなるべく急ぐ為、そして決して仲間達が追い付いて来れない様に、草木をかき分け道無き道を進んでいた。
では、一体どうやって刹那の元まで辿り着いたのか?
可能性は大きく分けて二つ。ただ単にたまたま運良く、ここ迄辿り着いたのか。
それとも、刹那の通る道を完璧に予想して追って来たか。そのどちらかである。
……そしてその事にふと、刹那も気が付く。
「……お前。」
「うわあー、魚だぁ。美味しそー。」
優駿は宝物を見る少年の様に目をきらきらと輝かせ、今夜の夕飯の焼き魚を見つめていた。ここ迄来るのに必死に走り続け、それ迄口に入れたのは川の水と小さい木の実だけだった。優駿に、それは宝物の様に見えたのは仕方の無い事だろう。
「……お、おう。良かったら、お前も食うか?」
──ガバッ。
「い、いいの?がつがつがつ……。」
……はむはむはむ。
夕飯の魚に、必死に食らい付く優駿。
…………。
刹那は、先程何か言おうとしてなかったか?と一瞬思ったのだが、首を捻るだけに終わる。
「一匹で足りるか?足りねーんなら、もっと獲って来てやるが……。」
「えっ、本当?いいの?」
「……あ、ああ。任せておけ。」
刹那は今夜の寝床を、水が確保出来る川の近くにしていた。魚を獲る為に、刹那は冷たい水の中に足を入れる。
──ちゃぷ。
剣を構える刹那。
「え?剣で獲るの?一体、どうやって獲るんだろ。」
刹那は剣を構え、全く微動だにせず神経を研ぎ澄ませる。
…………。
──シュ!
目を見開き、狙いを定め素早い動きで川の中に剣を突き刺した。
──ぴちぴち。
刹那の剣のその先には、二匹の川魚が突き刺さっていた。
「……凄い。」
「ほらよ。」
その獲れた魚二匹を、優駿に向かって投げる。
「わっわっ。」
剣の達人になるとこんな事も出来るんだ、便利だなぁ、これなら食うに困らないよね。と、感心する優駿だった。
念願の久しぶりの食事に、焼き上がるなり必死に口に掻き込む優駿。
……はぐはぐ。
──パチパチ。
焚き火ごしに、刹那はただじっと魚を食べる優駿の姿を眺めていた。
…………。
「……お前、それを食ったら帰れ。」
「……え?」
いきなり帰れと言われ優駿は驚き、魚を食べる手を一旦止め刹那の表情を伺う。
「でっ、でもさ。」
「お前が居ても何も出来ねーだろ。それに危ねぇ、足手纏いだしな。お前も朧の団の強さは、よく知っているだろ?だから俺は、仲間を置いて一人で来た。」
…………。
……もぐ。
優駿は魚を食べながら、少し考える。
「僕は別に加勢に来た訳じゃないよ、僕は刹那を止めに来たんだ。」
「……あ?」
刹那はその言葉に少し怒りを覚え、優駿を睨み付けた。
…………。
「朧の団は義賊で名が通っている、それは刹那も知っている筈だよね?昔ならともかく、最近はそんな話なんて一度も聞いた事が無いよ。村を助けるならともかく、村を襲うなんて考えられない。それに引き換え、ここの領主はその真逆だ。悪事を働き盗賊団よりも嫌われていて、かなりの悪徳領主として有名だよ。そして刹那達がたまたま留守の間に朧の団が村を襲い、それをこの国の軍隊が報せに来る。あまりにも、話が出来過ぎてると思わないかい?」
「どちらにせよ、盗賊団だろ?それに、また頭が変わって悪さを始めただけなのかも知れねぇ。」
「それは、そうなんだけど……。」
優駿はどうやって刹那を納得させようかと、あれこれ頭を悩ませた。
武将紹介
「優駿」
武力 ?? かなり低い
知力 ?? 今の所ぽんこつ
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。




