二話 「岐路」
「……しくじったなぁ。」
優駿は、牢の中に入れられ酷く後悔していた。ここ最近は空腹に耐え切れず、頻繁に盗みを働く様になっていた。そして先程運悪く見つかってしまい、牢屋の中に入れられていた。
……自業自得だから、何も言えない。
「よりによって、盗賊団の食料だったなんて。……失敗したなぁ。」
捕らえられたのが、警吏なら楽に死ねただろう。いや、運が良ければ懲役刑で済む可能性があった。
「……ははっ、馬鹿な奴だ。」
「楽に死ねると思うなよ?足から、細切れにして、なるべく苦しめてあの世へ送ってやる。」
……これだよ。
こんな事ならば、あの時空腹で餓死した方が良かったのかも知れない。そう、後悔する優駿だが。自業自得なのだと、諦めた。
「お腹空いたなぁ。……最後にご飯、食べたのっていつだろう。」
一週間くらいかな……。もう最近では、三日過ぎると数える気すら無くなってくる。
「……ああ、本当にお腹空いた。」
自分がしなければいけない心配は、空腹の事よりこれからされる拷問の筈なのだが、今はそれ所では無い。後の拷問より、目の前の空腹の方が辛かった。
……そんな下らない考えに耽っていると、何やら少し外が騒がしい。
……?
まさか。……いや、そんな都合のいい事が起きる事何て無い。あり得ないのだ。
しかし、ここは盗賊団の根城である。いつ警吏や国の兵隊が来ても、何ら不思議では無い。
だが、本当にその様な都合の良い事などあり得るのだろうか……。優駿は淡い期待をして、ただじっとその助けを待っていた。
……その人物が来るのは、思ったより早かった。
「うん?誰か捕まっているのか?」
「まあ、捕まっているんなら奴らの身内じゃないだろ。お前、良かったな?運がいいぜ。」
──ガチャリ。
のそっと、牢から出る優駿。
「ありがとう。あ、あの……君達は?」
その二人組は、警吏にも国の兵隊にも見えなかった。見た感じ、普通の一般人にしか見えない。そんな彼らが、何故この様な危険な盗賊の住処に来たのだろうか?
「ああ、俺達は隣村の自警団の者だ。」
……自警団?
優駿は少し違和感を感じ、頭に疑問が浮かんだ。自警団なら、ここに来た目的は盗賊団の討伐等だろう。つまり殺し合だ。しかし、この二人は何か少しおかしく、戦いに来たとは到底思え無い程気が抜けていた。
「それにしても、運の無ぇ奴らだな。」
「ああ、そうだな。よりにもよって、俺達の村に手を出すなんてな。」
「全くだ。……俺達の村には、あいつが居るってぇのに。」
……あいつ?
その言葉に、優駿はまた疑問を感じる。優駿はこの二人が、こんなにも呑気にしているのは余程大勢で来たか。あるいは警吏や国の兵士を連れて来ているのだと思っていた。
……しかし、この二人はあいつと言った。それはつまり大人数では無く、腕の立つ一人の人物であると言う事なのだ。
そんな事があり得るのか?おとぎ話や神話ではあるまいし、そんな事はあり得ないだろう。きっと恐らく、別の……。
そう例えば、あいつとは。国の軍隊を動かせる有力者や、王族や将軍に伝がある大金持ちである可能性もある……。
しかし、優駿はその考えを否定する。いや、そんな村にそこまでの有力者が……。
……ぶつぶつ。
優駿はその、"あいつ"と呼ばれる人物がとても気になっていた。
「刹那!」
剣を持った三人の男が、二人と優駿の元に近付いて来る。
「終わったぜ。……思ってたより、歯応えが無ぇ奴らだった。」
「流石、刹那。」
「ん?……誰だ、そいつ。」
刹那と呼ばれるその男は、優駿に気付き不思議そうにじろじろ見る。しかし優駿は、この盗賊団から盗みを働き捕まった等とは少し言い出しにくい為口ごもる。
「いや……。ははは。」
「ああ、こいつは牢の中に閉じ込められてたんだよ。だから出してやった。まあ、問題無いだろ、捕まってたくらいだしな。」
「……へぇ。」
ぞろぞろと、建物から出る五人と優駿。
……本当にたった五人で来たのか?優駿は信じられなかった。あまりにも無謀過ぎる。この盗賊団は少なくても、百人はいる筈なのだ。それをたった五人で?そんな事が出来る人間なんている筈が……。
「……ん?てか、何でお前付いて来てるんだ?」
「え?いや……。ははは。」
……あー。
「てめえら、ここで何してやがる?」
優駿達が外に出て暫くすると、帰って来た盗賊団と鉢合わせてしまう。数は……。三十、いや五十……。戻って来る盗賊の数は、だんだんと増えていった。
「……ああ。」
せっかく助かったのに……。と、落胆する優駿だが。
「へぇ、まだ居たのか。」
とんとんと、鞘のまま剣で肩を叩き余裕の表情を見せる刹那。
「丁度数が足りなくて、物足りなかった所だ。」
この刹那と言う男は馬鹿なのか?と、優駿は驚く。相手は百人以上居るんだぞ、対してこちらはたったの五人しかいない。早く、早く逃げないと……。くそっ、せっかく助かったのに。優駿はきょろきょろと辺りを見回して、逃げ場を探し始める。
「死んだぜ、てめえ……。」
「へっへっへ。」
じりじりと迫り寄る盗賊達に対し、刹那は不適な笑みを浮かべ一人前に進んで行く。
「……来な。」
──ザシュ!
……優駿は驚愕した。
優駿は知らなかった。いや、知る由も無かった。この世にはこれ程までに強い人間が居る事を。武と言う物の存在を……。
この日、初めて優駿は知る事になる。
次々と盗賊を薙ぎ倒す、その刹那という男の武に。優駿は驚き、またその武に魅せられた。
「……凄い。世の中に、こんな強い人が居るなんて。」
刹那。
この先、優駿の未来を変える。
……いや、この世界を大きく変える七人の男達の一人である。
優駿の人生は、この刹那と言う人物と出会い、その運命を大きく変えて行き。
……そして世界に羽ばたくのである。
武将紹介
「優駿」
武力 ?? かなり低い
知力 ?? 今の所ぽんこつ
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。




