第十七話 「両者の実力」
合図により、領主邸に突撃を開始する刹那達。それに気が付いた騎兵達は、当然侵入者を阻止すべく刹那達の行く手を阻む。……その数、約五百。
敵兵五百に対し、こちら数はたった五十しかいない。兵力差を感じ、押し切られると不味いと判断した刹那は考えるより先に飛び出していた。
痛む体に鞭打ち、一人敵陣に斬り込んで行く刹那。
──ザシュ!
「シッ!」
……まだ体の傷が癒えてはいない刹那だが、この程度の敵に遅れを取る程やわでは無い。ものの数分で、百人近い敵兵を斬り裂く刹那。
「……す、凄ぇ。」
刹那の強さに、朧の団の味方兵達も驚きの声を上げる。
「へっ!」
その強さに敵兵はたじろぎ、その動きを止める程だった。
──バカラッ。
そこに怖じける事無く近付く、一人の騎兵の姿があった。
「……よう、生きてたか?お前。」
「なっ!?てめぇは……。」
その男の登場に驚く刹那……。領主邸で出会った強敵の内の一人、あの二階に居た剣士だ。
「…………。」
「どうした?もう一度、俺に蹴り落とされに戻ってきたのか?実力差が、まだ分からんとはな……。全く、困った物だ。」
その男は馬上から、にやりと笑う。
刹那の剣を持つ手が僅かに震えていた。この男は刹那の放つ、全力の撃ち込みを軽々と止めていたのだ。
刹那は理解していた……。この男はまだ、全く本気を出していなかった事を。
「……くっ。」
……この怪我で、この強敵の男と本当に戦う事が出きるのだろうか?そう迷いが残る刹那だが……。
逃げる訳にはいかなかった。優駿を助ける為に、戦わねばならなかったのだ。
刹那は迷いを振り切り剣を構え、目の前の強敵に挑む決意をする。
「……はぁ、はぁ。」
……しかし不敵に笑う剣士に対して、刹那は今にも倒れしまいそうな程呼吸を荒げていた。
「……待て、俺が変わろう。」
そんな刹那の姿を見かねて……。いや、その男の実力に気が付いたのか。黄牙は刹那の前に立ち、その男と対峙する。
「お前は少し、休んでろ。」
「気を付けろよ黄牙、そいつは少し手強いぜ。」
「……ああ、任せておけ。」
「…………。」
その剣士は黄牙を強敵と見做したのか、それとも馬上を不利と理解したのか……。その男は下馬し、剣を構えながら余裕の笑みを浮かべる。
「……かかってきな。」
刹那は痛む脇腹を押さえながら、二人の戦いを見守っていた。
「…………。」
……二人の内、一体どちらが強いのか?
確かに相手の剣士は、刹那よりも強かった。奴は刹那が撃ち込む攻撃を全て捌き切り、余裕の笑みを浮かべていたのだ。……それに、まだ本気を出してもいなかっただろう。
「…………。」
黄牙。……黄牙の実力は、どうなのだろう?確かに、公孫翔は強かった。刹那に勝つくらいなのだから、当然かなりの実力者なのだろう。
しかし黄牙は、その公孫翔よりも強いと自負していたのだ。あの"剣竜"に匹敵する、いや"剣竜"を超える……。
──天下最強の剣士だと。
「…………。」
果たして、どちらが強いのか……。刹那は固唾を飲んで見守った。
──ガキィ、ガキィン!!
激しく剣が撃ち合う音が、辺りに響く。
──ガガガガガガガッ!!
「こっ、こいつ!?……がはっ!」
──ザシュ!!
──ギリッ。
撃ち合う二人の凄さに、刹那は悔しさに歯を軋ませる。……自分の弱さが悔しかった。
あの相手の剣士は、刹那と戦っている時は全く本気を出していなかったのだ。……相手の剣士がもし本気を出していたのなら、今頃刹那の命は無かっただろう。
それは正に、圧倒的過ぎる強さだった。
──ガガガガガガガッ!!
「……ぐはっ。」
その強敵である筈の相手の剣士を、只一方的に力でねじ伏せる黄牙。
その凄まじい攻撃の前に、相手の剣士を防戦一方へと追い込んでいく。黄牙の攻撃を必死で防ぐ剣士だが、力量の差もあり。全て攻撃を防ぎ切れず、体中にはかなりの手傷を負っていた。
「おらよっ!」
──ドゴォ!!
そして黄牙は、渾身の一撃を叩き込む。
「ぐあっ!?」
相手の剣士は一応、剣で防いではいたのだが……。黄牙の放つ一撃は、その剣ごと叩き割り剣士の肩を斬り裂く。
「ぐっ。化け物かよ、こいつ。……あいててて。」
剣士は負傷した肩に手を当て、地面へと崩れ去った。
「どうよ?」
黄牙は相手に止めを刺ささずに、刹那の方を振り返り勝ち誇った顔をする。
「ちっ!これ以上あんな領主の為に、こんな化け物と殺り合えるかよ……。お前ら、ここは退くぜ。」
──ドガラッ!ドドドドドドド!!
退却を始める騎兵達。朧の団には、それを追う理由が無かった。黄牙も追う事は無く、相手の剣士を見逃した。
「……奴ら、やけにあっさり退きやがったな。まあ相手が俺なんだから、賢明な判断だ。」
「…………。」
「……どうした?刹那。」
動かずに固まっている刹那に気が付き、黄牙が声を掛ける。
「ああ……。何でもねぇ、先を急ごう。」
騎兵が退却した今、刹那達の行く手を阻む兵は残り僅かとなる。優駿を助ける為、刹那達は領主邸へと駆け出して行った。
領主邸へ向かいながら、刹那は黄牙の背を見る。
……あの強敵の剣士を、一方的に追い詰めていた黄牙。その圧倒する実力に、刹那は震えながら悔しさに歯を噛み締めていた。
「……もっと、強くならねぇとな。」
刹那は走りながら、剣を強く握り締めた。
武将紹介
「優駿」
武力 45
知力 75
主人公 オーラがあまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89
知力 54
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。
「公孫翔」
武力 92
知力 天才らしい。
髪型 98 美容院通ってるの!?
朧の団の若きリーダー。義賊。これでもかって程、髪型に気合いを入れている。え?毎日、美容院通ってる?ってレベルに気合いが入っている。後、仲の良い妹が一人居る。
「黄牙」
武力 96
知力 77
自称 最強剣士。
公孫翔の相棒。非常に腕の立つ剣士。最強を自負しているのだが、実際は……。
「劉士元」
武力 97
知力 67
暗殺 最強の一族
大陸最強の暗殺者一族、剣竜。




