第十六話 「剣竜」
…………。
剣士のその言葉に呆気に取られ、衛兵達は笑い始める。
「ハハハハハハハ、何言ってるんだこいつ。」
「たった一人で、一体何が出来るって言うんだよ?」
「……ハハハハハハハ。」
「…………。」
敵を前にして全く警戒せずに、ただ呑気に笑っている衛兵達に。剣士は呆れ返り、溜め息を付きながらこう言い放った。
「……良かろう。死にたい奴から、かかってこい。」
…………。
「何だとっ!?」
剣士の言葉に腹を立て、衛兵が剣を振り上げたその瞬間────。
──ザシュ。
それは、一瞬だった。
「……は?」
──どさっ。
その様子を周りで見ていた衛兵達は、一体何が起こったのか全く理解出来なかった。
……すたすたすた。
そして、その剣士は何事も無かった様にすたすたと歩き出す。
「ひいぃぃぃぃ。」
──どさっ。
衛兵達は恐れ地面に倒れ込み、恐怖で後退っていく。
……五十人は居た筈なのだ。それがほんの瞬きをする一瞬の間に、それはただの肉片と化していた。
「てめぇ、一体何をしやがった!?」
恐れて後退る兵士の中、状況を理解出来ずに数名の衛兵が剣士に斬りかかって行く。
──ザシュ。
それを一瞬で、斬り裂く剣士。
「ひぃぃぃぃぃ。」
その剣士は、全く動いていなかった。そのあまりにも速い剣捌きに、ただ立っているだけにしか見えなかった。……衛兵達の目には突然斬り裂かれ、吹き飛んだ様にしか映らなかった事だろう。
「ひいぃ……。たっ、助け。」
「ば、化け物だ……。」
衛兵達の目には、その剣士の姿がまるで死神にでも映っているかの様に……。衛兵達は恐怖に怯え、がたがたと震えていた。
「"剣竜"だとっ!?」
黄牙の口から発せられた、その名に。……刹那は、驚きの表情が隠せなかった。
「……驚いたか?」
…………。
刹那は、驚かずには居られなかった。
「ああ、まさか本当に実在する何てな……。この時代に、そんな化け物が。」
……その伝説の化け物の名前に、驚いていた。
「まさか、この時代に"剣竜"が居るなんてな……。」
──剣竜。
この国、いや。この大陸に住む者なら必ず一度は耳にした事がある、伝説の暗殺者一族である。
二百年前に起きた、この大陸を二分する大戦。その戦争を終わらせ、勝利をもたらした伝説の暗殺者一族"剣竜"。
その力は大陸最強と謳われ、たった一人で万の大軍に匹敵すると言う。
……二百年前から伝わるお伽噺の怪物が実在する事に、刹那は驚き震えが止まらなかった。……しかし、それは恐怖では無い。ただ、自分より強い者が居る事が許せなかった。……そして、勝負を挑んでみたかったのだ。
「そうか、それで公孫翔はあんなにも余裕なんだな……。」
……刹那はその話を聞き、少し納得がいく様子だった。
──しかし。
その話には、一つ引っ掛かる所があった。黄牙は"二本の剣"と言ったのだ。つまり……。伝説の暗殺者"剣竜"に匹敵する化け物が、朧の団の中にもう一人居ると言う事になる。
「……で、もう一人は誰なんだ。居るんだろ?もう一人、とんでもない化け物が。」
刹那は少し興奮気味に、真剣な面持ちで黄牙に尋ねた。
「……ああ、居る。」
「一体、誰なんだよ?そいつは……。」
……フッ。
黄牙は不敵な笑みを浮かべ、刹那にこう話す。
「そいつは"剣竜"に匹敵する。……いやそれを超える大陸最強、天下無双の天才剣士。その名は────。」
「そいつの名は!?」
黄牙は刹那を睨み付ける様に、こう言い放つ。
「……この、俺様よ。」
「……は?」
自信満々の笑みを浮かべる、黄牙を余所に。こいつは、一体何を言ってるんだ?と、刹那は呆れていた。
「お前が、"剣竜"より強いって、正気か?」
「事実なんだから、仕方無いだろう?……この世に俺より強い奴何て、一人も居ないんだからな。」
「お前なぁ……。」
刹那は黄牙の言葉に、呆れ返るしかなかった。
「翔からの合図だ、俺達も行くぜ。……優駿を助けるんだろ、頼むぜ?期待の新入り君。」
「あ、ああ。そうだな……。優駿を助けねぇとな。」
刹那はそう言って、黄牙の後を追いかけた。
……悔しかった。
黄牙の言葉に、何も言い返す事が出来ない自分が悔しかった。……かつて刹那も、この世で最強なのは自分だと自負していたからだ。
だが公孫翔に敗れ、そして領主の館でも二人の強者の前に敗れ去り。
……今の刹那には、その言葉を言う資格が無かった。黄牙の前で、この世で最強なのは自分だと。
……刹那には、その言葉を言う事が出来なかった。
──ギリッ。
刹那は走りながら悔しさに歯を噛み締め、そして剣を強く握り締めた。
何時かはそれらを超え最強の剣士になってやる。……そう、強く心に誓う刹那だった。
武将紹介
「優駿」
武力 45 かなり低い。
知力 75 割りと賢い。
主人公オーラ 50 あまり無い。
一応これでも主人公。
亡き国、優国の王子。
生き別れの妹を探している。
祖国の復讐の為、蛇国と戦う決意をすが。諦めて物乞いや盗みを働いている。
頭は悪く無いのだが、使い方を知らない。
こんな治安の悪い、しかも圧政に苦しむ翔国に来た事を少し後悔している。
「刹那」
武力 89 かなり強い。
知力 54 ちょっと低め。
髪型 95 かなり気合い入れてる。
村の自警団の一員。
剣の腕は相当な物で、盗賊百人を平気で蹴散らす実力を持つ。この大陸でも屈指の実力を誇ると言えるだろう……。
でも頭の方は、お察し。
綺麗な長髪の黒髪が特徴。毎朝一体何時間掛けているんだ?って位に気合いが入っている。
「公孫翔」
武力 刹那より強い
知力 高い筈
髪型 98 美容院通ってるの!?
朧の団の若きリーダー。義賊。これでもかって程、髪型に気合いを入れている。え?毎日、美容院通ってる?ってレベルに気合いが入っている。後、仲の良い妹が一人居る。
「黄牙」
武力 本人曰く、天下最強の剣士らしい。
知力 そこそこ高いらしい。
キザ ちょっとキザ。
公孫翔の相棒。非常に腕の立つ剣士。最強を自負しているのだが、実際は……。
「劉士元」
武力 97
知力 秘密
暗殺 最強の一族
大陸最強の暗殺者一族、剣竜。




