弓使いのユリロアは「矢の無駄遣い」でパーティ追放される
「ユリロア、お前をパーティから追放する」
ユリロアはこんな日がいつか来るだろうと予感はしていた。
「理由はーー」
「矢の無駄遣いですよね、分かってました。私も言おうとしていた所です」
「理解が早くて助かる。俺らは君が嫌いで嫌がらせで言ってるわけじゃない。効率の問題で言っている」
「••••••はい、今まで大変お世話になりました。迷惑もたくさんおかけしました。今日までありがとうございます」
泣きそうな声を抑え丁寧にお辞儀しユリロアはその場を去った。
♦︎♦︎♦︎
ぼんやりとあの後、弓の精度を上げるため森で一人で修行をしていた。
今は胸当てをしているが昔は胸当てを買うお金も無く、胸にはいくつもの線のような傷がある。
無意識のうちに形見の母のネックレスを握り、母がいつもしていた弓の構えを取る。
(確か母さんは弓術師という存在が居るとか居ないとか言っていたようなーー)
手には青白い魔力の弓、片手には魔力の矢。
無意識のうちにユリロアは’’それを行なっていた’’。
矢を放つ。
ドガアアアンッ!!
森の木々を巻き込みそこには砲台が通った跡の威力。
流石に音で自分がしでかした嘘のような出来事を信じられず、
(嘘でしょ、何かの間違いよ••••••ッ!)
二撃目を放つ。
ドガアアンッ!
最初ほど威力は落ちるが’’撃てている’’ 。
その後何発も撃ったが最初ほどの威力は出なかった。
♦︎♦︎♦︎
「西の森に衝撃痕だと? しかもドラゴンの威力? 馬鹿な、ドラゴンの目撃情報は無かったはず」
アロイス王子は頭を抱えながら「現場を確認する、一人で良い」となるべく上等な身なりから冒険者の格好で現場に向かった。
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ユリロアは西の森を荒らすだけ荒らして、東の森で弓の鍛錬をしていた。
(弓の弦が引っかからない分、楽で良いわね。ただ問題は)
練習すればするほど弓の威力や精度が落ちてきている。
(母から言われたわ、自惚れ屋は不器用になるって)
(確かに今の私は新しい力に目覚めて自惚れている。必死に気持ちを押し殺そうとしても)
(努力すればするほど最初の感動には近づけない)
ユリロアはまた一撃放つ。
(せめてソロで戦えるくらいにはーー)
割って入る男性の声?
「お前か!」
冒険者の身なりをしているのにどことなく品がある青年。
「何か用でしょうか?」
アロイス王子は真実を見極める力を持つ。
(コイツが! ドラゴンの正体! そして弓術師になりたてたばかり!)
(そして服で隠れているが胸の傷、努力とは言い表せないほど血が滲むまで研鑽を積んだ証)
そしてアロイス王子は一目で性格や癖なども看破できる。
(自己肯定感が低いのは性格の問題じゃない、技量を上げるために’’そうなってしまった性格’’)
ドクン
アロイス王子は初めてこのストイックな女性に、ユリロアが自身の前でだけ壊れたように鳴く姿を妄想した。
「君、うちで雇われる気は無いか?」
ユリロアは真っ直ぐ青年を見た。
「名前は?」
「アロ、失礼。ロイスだ。冒険者をしている」
「ロイスさん、アナタは何故私を?」
「失礼、俺は真贋の目を持っていてね。君は本物だと分かったからだよ」
「本物? 私が?」
(自惚れ屋の私が?)
「失礼、君は自惚れてなんか無い。ただ’’慣れて’’癖が出て来てしまっている」
(心が読めるのか)
「癖とは?」
「省略だよ、簡単だけど恐ろしいほど人は技術を省略する癖がある」
「初心を忘れるなって話だ」
ユリロアはぎゅっと胸元のペンダントを握った。
(『いつかアナタをちゃんと評価してくれる人が現れる』母さんの言葉本当だったんですね)
不器用な自惚れ屋が初めて自身を肯定出来た。
(空が青いーー)
「ロイスさん、不躾ですみませんでした。私の名はーー」