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ヒストリカル

手紙の魔女~あなたの大切な人への最後の手紙、届けます~

作者: 柳葉うら

「ここで手紙を預けると、亡くなった時にどんな相手にも手紙を届けてくれると聞いたのだが、……本当か?」


 周りを気にしながら店の中に入ってきた、若く精悍な顔立ちで訳ありそうな美丈夫に問われ、魔法薬店のカウンターの奥にいた店主――魔女のアグノラは、匙で鍋をかき混ぜている手を止めた。


「ええ、なんせ長く生きなのでよく頼まれるんです。手紙と送る相手との思い出の品があれば、確実に届きますよ。あと、謝礼にリボンをいただいています」

 

 振り返って答えるアグノラは()()()()()()()()()()()


 背中あたりまであるミルクティーのような淡い茶色の髪をハーフアップにして緑色のリボンで結わえており、ぱっちりとした大きな目の色は菫のような紫色。

 精巧に作られた人形のように端正な顔立ちをしており、彼女が外を歩くと人々の視線を集めること以外は、ここフィオレンサ王国に住む他の女性となんら変わりない。


 服だって王都で流行りのスタイルにしているため周囲から浮いていない。

 パフスリーブのブラウスに緑色のふわりとしたシルエットのスカートを合わせており、その服装がよく似合っている。

 

 しかし彼女は何気なく助けてあげた妖精からの恩返しで不老長寿の祝福を授かってしまい、二十代の頃の姿のまま生きて今年で二百歳を超えたところだ。

 

 フィオレンサ王国では稀に魔力を持って生まれる者が現れ、その者たちは魔法使いや魔女となり、一目置かれている。

 ただでさえ珍しいのに不老長寿となったため、王国内では誰もが知る有名な魔女だ。


 最近ではアグノラが一風変わった手紙の配達をしていることも知られるようになり、いつの間にか〝手紙の魔女〟と呼ばれるようになった。

 最初は人々が勝手にそう呼んでいたのだが、今ではアグノラ自身もそう名乗っている。

 

「初めは店の常連さんやご近所さんから頼まれて、お世話になっていたから恩返しも兼ねて引き受けていたんですけど……いつの間にか噂になって、王国各地から依頼しに来るようになったんですよねぇ」


 アグノラは王都の近くにある小さな町ノヴァーリスにある店と自宅を兼ねた小屋に住んでいる。

 

 この街は孤児だったアグノラを引き取って魔法と魔法薬の作り方を教えてくれた師匠と共に過ごした、故郷のような場所。

 だからアグノラは師匠と死に別れてからも住み続けている。


 彼女の魔法の腕前を見込んで国王に宮廷魔女となる打診を受けた時も断り、この小さな町で薬を作って売っては、のんびりと過ごしている。

 

「たくさん依頼が来ると本業の魔法薬作りに支障が出るので、この小屋全体を結界で覆いました。だからここに来れるのは、大切な人にどうしても伝えたい想いを抱えた人だけなんです」


 もしも悪意を持っていたり、半端な気持ちで依頼しようとしている人は、結界にかけている道違えの魔法が発動するからたどり着けない。

 

「そうだったのか。無事に辿り着けて良かった」

 

 男性は心から安堵し、店に入って来た時よりも表情が柔らかくなった。これから手紙を書く相手のことを思っているのかもしれない。


 アグノラは男性に気づかれないようにそっと、彼を観察した。


 年齢は二十代頃。スラリと背が高く、体つきは引き締まっているうえに整った顔立ちだからさぞかしモテるだろうと心の中で分析する。

 

 肩まである、宵闇のような黒色の髪は艶やかで手入れが行き届いており、切れ長の目の色は金色でやや鋭さを感じる。

 

 焦げ茶色の外套やその下に着ている簡素なシャツと黒色のスラックスは平民が着ているものと同じだが不自然なほど新しく、まるでここに来るために見繕ったもののようだ。

 

 恐らくは貴族が身分を隠すために平民の服装を真似たのだろう。

 そんなことをしても、平民らしからぬ容姿のせいで、すぐに貴族だとバレそうだ。

 

(う~ん、手紙を渡す相手は身分違いの恋人かな? それとも、なにかの陰謀を暴くために知り得た秘密を仲間に託すためかも?)


 アグノラは頬に手を当てて推測する。

 

 いままでの依頼にもそのような事例があった。おかげで墓まで持っていく秘密が積み上がっている。

 あまりにも多すぎて、いくつか忘れかけているけれど。


「名乗るのが遅れてすまない。私はオズウェル・フェアステッド。侯爵家の次期当主で、王国騎士団に所属している」

 

 男性――オズウェルは心から申し訳なさそうに謝ると、騎士らしく右手を左胸に当てて礼をとる。おそらく癖でそうしているのだろう。

 

 高位貴族なのに丁寧に平民であるアグノラに対して丁寧に接してくれており、素直に好感が持てる。


「こちらも名乗っていなかったから気にしないでください。私はこの魔法薬店の店主で手紙の魔女のアグノラです」

「最近は〝遺言状の魔女〟と呼ばれるようだが――」

「失礼な! 遺言状ではなく手紙! 手紙の魔女です! ほらっ、復唱してください!」

「て、手紙の魔女……」


 アグノラが美しい顔を惜しげもなく崩して抗議すると、オズウェルはその剣幕に押されて後退った。

 

「よろしい。もし遺言状の魔女と呼ぶ人がいたら訂正してくださいね?」

「そうするが……亡くなった時に手紙を渡してくれるのだから、いずれにしても同じではないか?」

「全く違います!」


 初めは手紙の魔女と呼ばれていたのだが、いつしか遺言状の魔女とも呼ばれるようになったことは把握している。


 そこから発展して、アグノラを死神と呼ぶ失礼な人間がいることもまた知っている。

 アグノラはただ、手紙を渡しているだけだというのに。

 

「遺言状の魔女だと、死神みたいで嫌なんです」

「……わかった。私の考えが思い至らず、配慮を欠いてしまって申し訳ない」


 オズウェルもアグノラの噂を知っているようで、気の毒そうな顔をして謝ってくれた。

 

「わかっていただけたらいいんです。――それではさっそく、手紙に魔法をかけるので持っていてください」


 アグノラはかまどの近くに置いていた布巾で手を拭うと、カウンターから出てオズウェルに歩み寄る。


「手紙を渡す相手を想いながら手紙を持っていてください。そうすることで私が手紙にその人物を記憶させます。その記憶が探知魔法の重要な要素となるのです」


 思い出の品に残された相手の痕跡を記憶を手紙に複写する魔法だ。

 強い想いであるほど手紙にしっかりと紐づけられる。


「探知魔法は高度な技術がいると聞いたが、やはり貴殿にはできるのだな」


 感心したように呟いたオズウェルは、少し思案する素振りを見せた。


「もしかして、頼めば相手の居場所を教えてくれるのだろうか?」

「それはできません。お相手がなぜ離れているのかわからない以上、教えるのは相手に悪いですから」


 アグノラは間髪を入れず断った。


 相手にも事情があるだろう。それなのに突然会わせるわけにはいかない。

 アグノラはあくまで手紙を運ぶだけ。

 

「……貴殿の言う通りだ。離れるのには、それなりの理由があったのだろう」


 相手のことを想っているのだろうか、オズウェルはどこか寂し気で、傷ついたような表情を浮かべた。


(切なそうな表情……。これは、身分違いの恋パターンかも……)

 

 アグノラは少し気の毒に思ったが、それでも譲歩しない。

 魔法という特別な力を得て生まれた者は、そうでない者の脅威になってはならない。それが亡き師匠の教えだ。

 

 もしもオズウェルが想う相手が何らかの理由でオズウェルから離れて過ごしているとして、無理に居場所を暴いて連れて行ってしまったら、それは相手にとって脅威となり得る。

 

「ご了承ありがとうございます。――それでは早速、手紙を出してください」

 

 オズウェルは頷くと、外套の下に隠していたショルダーバッグから二通の手紙を取り出す。


「え、恋人が二人も?」


 アグノラは目を丸くして二通の手紙とオズウェルを交互に見た。

 二通も手紙を持ってきた人物はオズウェルが初めてだ。


 まさかの二股だったかと呆れた声を上げたアグノラに、オズウェルは冷たい眼差しを向ける。


「一人は友人で男だ」

「そ、そうでしたか。失礼しました」


 気まずくなったアグノラはコホンと空咳をして誤魔化した。


 そしてもう一通や推測通り恋人に宛てた手紙であることが確定する。

 

「まずは一通目に魔法をかけます。思い出の品はありますか?」

「ああ、この本が思い出の品だ」


 古びた本を取り出す。アグノラも読んだことがある魔法の教本だった。


「もしかして、魔法が使えるのですか?」

「いや、使えないが興味があったからもらった」

「そうだったのですね。てっきり魔法使いでもあるのかと思って驚きました」


 アグノラはオズウェルに、一通目の手紙とその本を重ねて手に持っておくように言う。


「相手のことを思い浮かべてください。その思いをもとに本に刻まれた相手の痕跡を抽出して手紙に記憶させます」

「わかった。思い浮かべればいいのだな」


 オズウェルが目を閉じると、アグノラは魔法の呪文を唱える。途端に淡い金色の光がオズウェルを包む。


「――想いよ、手紙の道標となれ」


 まるでアグノラの言葉に応じるように、オズウェルを包んでいた金色の光が本への移動し、最後に手紙に宿って消えた。

 

「もう目をあけてもらっていいですよ。一通目の手紙に魔法をかけ終えたので、同じ要領で二通目の手紙に魔法をかけますね」


 もう一つの手紙に使用する思い出の品は、美しい花の刺繍を刺したハンカチ。

 こちらもまた相手からの贈り物なのだろう。


 二通目の手紙にも魔法をかけ終わったアグノラは、手紙を二通とも預かると束ねて上から水色のリボンをかけて結ぶ。

 

 結ばれたリボンの片側の端に魔法でオズウェルの名が刻まれた。反対側の端には銀色の鈴が結び付けられている。

 

「この鈴はお客様が亡くなると音が鳴る魔法具です。今からこの鈴とあなたを紐づけます」

「そんな魔法具があるのか」

「この町の外から来た人に手紙の配達を頼まれた時に発明しました。同じ町に住んでいたら噂が聞こえてくるのですぐに届けられるのですが、離れていると分かりませんから」

「それもそうだな。……何をすればいい?」


 アグノラは魔法で銀色のナイフを呼び寄せてオズウェルに手渡す。

 

「この鈴に血を一滴垂らしてください。鈴に刻んでいる魔術式が血に反応して発動します」


 オズウェルはナイフを受け取ると指先を切り、そこから滲んだ血を鈴に垂らした。


 血が鈴の上に落ちた途端、鈴がリンと鳴る。

 見ると、鈴の上に血の跡はなかった。鈴がちゃんと血を受け取り、オズウェルの情報を登録できた証拠だ。


「これで配達のための手続きは完了です。まずはこちらの軟膏を傷口に塗ってください」


 アグノラはオズウェルに軟膏が入った小さな陶器の入れ物を渡す。

 オズウェルは礼を言って軟膏を指先に塗ると、瞬く間に傷が塞がった。


「魔法薬の治癒力は高いが、この軟膏は段違いだな。この店の商品なのか?」

「ええ、良かったら買っていきますか?」

「本当は討伐に向けて全て買いたいところだが、一つだけにしよう。この町の人が必要としている時に欠品してはならない」


 オズウェルの言う通り、彼が買い占めたらこの町の人が必要とした時にすぐに売ることができない。

 魔法薬は効き目が高い分、作るのに手間暇がかかるのだ。


「町のみんなのことを考えてくれてありがとうございます。全部は難しいのですが、半分くらいなら大丈夫ですよ」

「それでは、今ある在庫の半分を頼む。討伐中は常に魔獣との戦いだから、傷口が塞がらないまま戦って命を落とすものもいる。この薬があれば無事に家族のもとに帰れるものが増えそうだ」

「かしこまりました、すぐに用意するのでお待ちください」


 そう言い終えた後、アグノラが呪文を唱えると、オズウェルから預かった手紙の束はふわりと浮かんで店の奥へと移動した。


「店の奥には、預かっている手紙を保管する小部屋があるんです。魔法で手紙をそこに運びました」

「なるほど、保管部屋を作るほどたくさんの依頼があるのだな」


 オズウェルは手紙が消えた先を寂しげな眼差しでじっと見つめる。


「そう言えば、配達の謝礼はリボンだったな。……これでいいのだろうか?」


 やや自信なさそうに、オズウェルはショルダーバッグからビロード地のリボンを二本取り出した。

 どちらも一巻きほどあり、片方は淡いローズピンクで、もう片方は春の空のようなアイスブルーだ。


「わあっ、どちらも質が良くて綺麗な色ですね! こういった絶妙な色のリボン、なかなか無いんですよ!」


 アグノラは小さく歓声を上げて受け取ると、頬ずりをする。


「なぜ配達の謝礼はリボンなんだ?」

「私が好きで集めているからです。可愛いリボンが並んでいると心が潤うんですよ」

「……あれだけ高度な魔法をいくつも使っておきながら、謝礼はリボンだけとは……」


 王都で魔法使いや魔女を雇う時の相場を知っているオズウェルは、ただただ驚くばかりだ。


「そんな報酬で生活は成り立っているのか?」

「はい、本業でそれなりに稼いでいますから。それに手紙の配達は、本当に長生きのついでにやっていることなんです。だから稼ぐよりも、自分の好きなものをもらうことにしているんです」

 

 リボンを大切にポケットの中にしまい込んだアグノラは、軟膏をいくつか棚から取り出して包む。


「はい、どうぞ」

 

 アグノラが包みを渡すとオズウェルは軟膏代を支払ってくれたのだが、提示した金額より明らかに多い。


「あまりにも多すぎますよ。半分戻しますね」

「いいから受け取ってくれ。魔法薬の在庫を半分も減らしたからな」

「でも……」

 

 アグノラが余剰分を返そうとしたが頑なに受け取らなかった。

 手紙を二通とも届けてもらう手間賃だと言い切るのだ。アグノラはちゃんと二通分の報酬を受け取っているというのに。

 

「手紙の魔女殿、よろしく頼む」

「任せてください。あなたの大切な人への最期の手紙、確かにお届けしますね」

「……ありがとう。貴殿のおかげで心置きなく魔獣討伐に行ける」


 そう言うオズウェルの表情は、どこか寂しさと諦めが滲んでいる。


 アグノラはハッとした。依頼人の中に、彼と同じような表情を見せる人たちがいたことを思い出す。


 そんな表情を見せる人たちは依頼を受けた後、間もなく亡くなって、アグノラは彼らの大切な人に手紙を届けた。

 

(もしかすると、命を落としかねない危険な任務に出向くから、手紙を預けたのかもしれない)


 かつて魔王がいた頃、魔物の集団暴走を止めるためにアグノラも魔物討伐に参加したことがあるからその過酷さはわかる。


 魔王が討伐されて魔物が消滅した今は比較的平和だが、それでも凶暴な魔獣との戦いで命を落とす者もいる。

 

「……お気をつけて」


 魔獣から人々を守ることがオズウェルの仕事なのだから、そう言うことしかできない。


 オズウェルは外套に取り付けられているフードを目深に被ると、店から出て行った。


「私が手紙を届ける時が、ずっと先の未来でありますように」

 

 オズウェルが出ていった扉を見て、アグノラは小さく呟く。

 

 そんなアグノラの願いは女神に届かず、アグノラがオズウェルから預かった手紙を届ける日は、すぐにやってくるのだった。


     ◇


 オズウェルが店を訪ねてから五日後の朝。


 アグノラが収穫した薬草を束にして窓辺に吊るしていると、店の奥からリリリ……と鈴の音が聞こえてきた。


 アグノラは息を呑む。アグノラにとって鈴の音は、誰かの死を意味するのだ。


「それにしても、なんだかいつもと違う音のような……」

 

 通常ならリーンと澄み渡った音がするのだが、今日は何故か苦しそうに震えて音を出している。

 

「古い道具だから壊れてきたのかも」


 アグノラは手紙を保管している小部屋に入った。

 小部屋の壁には壁全体を覆う大きな棚が取り付けられており、手紙は基本的には一通ずつ棚に納められている。

 

 アグノラは金色の淡い光を宿して音を鳴らしている鈴を見つけて手紙を手に取ると、リボンに刻まれている依頼主の名前を見て表情を曇らせた。


 リボンに刻まれているのは、オズウェルの名前だ。

 

「……預かってからまだ一週間も経ってないよ。こんなにも早く、手紙を届ける日が来るなんて……」


 アグノラはぎゅっと目を閉じた。


 鼻の奥がツンとする。

 手紙を届けるようになってから何度も経験するこの瞬間は、まだ慣れない。

 

 もう、何百年もやっているのに。


 鈴が鳴るたびに、心になんとも言えない喪失感を覚えて悲しくなってしまう。

 手紙の配達を止めようと思ったことは何度かあるが、それでも惰性で続けている。

 頼まれるから引き受けてしまうのだ。


「すぐに、届けなきゃ……」


 アグノラは目元を拭うと魔法で小さな肩掛けカバンを取り出し、魔法で荷物を詰め始める。

 手紙を届けるための旅の準備だ。


 魔法が自動で荷造りをしている間に店の中の薬を少しずつ箱に詰めると、近くにある雑貨屋の店主に預ける。


 ここの店主は先祖代々、アグノラと付き合いがあり、アグノラがこうして手紙の配達で店を開ける時は代わりに魔法薬を売ってくれるのだ。


 全ての準備を終えたアグノラは肩掛けカバンを持つと、店の扉にかけているプレートに魔法をかける。

 プレートに書かれた文字が『営業中』から『配達中』に変わった。


 続いてアグノラはショルダーバッグの中から角笛を取り出して吹く。

 

 ほどなくして、鷲の頭と翼、そして獅子の胴体を持つ魔獣――グリフォンが現れる。


「久しぶり、エーベル。また手紙を届けることになったからよろしくね」

「クエーッ」


 エーベルと呼ばれたグリフォンは嬉しそうに、アグノラの体に焦茶色の羽毛に包まれた頭を押し付ける。

 

 懐っこくて可愛い仕草だが、アグノラより頭ひとつ分背が高いエーベルにぐりぐりとされると少し勢いがあってよろけてしまう。

 

 エーベルはアグノラと契約しており、手紙の配達や薬草の採集をする時にいつも背中に乗せてくれている。


「一通目は……キースさん。たしか、男性で友人だった人だよね」


 アグノラはキース宛の手紙を手に取ると、探知魔法の呪文を唱えた。

 手紙は淡い光を宿すとアグノラの手からふわりと浮き上がる。今からこの手紙が目的地までアグノラたちを案内してくれるのだ。


「さあ、行こう」

「クエッ!」


 アグノラがエーベルの背に乗ると、エーベルが翼を動かして飛び立つ。手紙も空へと上昇し、アグノラとエーデルの前へと移動した。

 

     ◇


 手紙を追って飛行を続けたアグノラとエーベルは、深い森の奥にたどり着いた。


「こんなところに人が住んでいるのかな?」


 いささか不安になりながらも光を追うと、開けた場所に出た。


「小屋があるし、煙突から煙が出ている……人が住んでいるんだ」


 アグノラはほっと胸を撫で下ろした。

 エーベルから降りて、手紙を片手に持ったまま小屋の扉を叩く。

 

「こんにちは、手紙を届けにしました。キースさんはいますか?」


 ガチャリと音を立てて扉が開く。


「ああ、俺がキースだ」


 開いた扉の隙間から、息が止まるほど麗しい男性が出てきた。そのあまりにも美しい(かんばせ)に、アグノラは思わず感嘆の溜息を零しそうになる。

 

 彫りが深く目鼻立ちのはっきりとした顔立ちに、腰のあたりまである長く美しい白銀の髪。

 同じく白銀の長いまつげに縁取られた目の色は夏の森を彷彿とさせる緑色。

 そして耳は人間よりも少し長く、先が尖っている。耳飾りをつけており、華奢な鎖の先についている紫色の魔法石が陽の光を受けてきらりと光っている様が美しい。


 キースはゆったりとしたシャツに焦げ茶色のスラックスを着ており、簡素な装いが彼の美貌を引き立てている。

 

(わぁ、エルフだ。久しぶりに見た)


 エルフとは深い森の中に住む種族で、人間よりもはるかに強い魔力を持っており、おまけに長寿で千年以上も生きるらしい。


 魔物討伐に参加した時に王国各地から集まった騎士や魔法使いの中に数名ほど見かけたことがあるが、直近の百年では全く見かけていない。


(ジロジロと見るなんて失礼なのに、思わず見ちゃう)


 アグノラは自分を叱咤してみたが、どうしてもキースから目が離せない。


 一方でキースもまた、目をまんまるに見開いてアグノラを凝視している。

 

「君は……魔女のアグノラ?」

「そ、そうです。初めて会うのに、どうしてわかったのですか?」

「……初めて、か」


 キースはアグノラの言葉を復唱すると、よろけて扉に寄りかかる。顔色が悪く、今にも倒れそうだ。


(も、もしかして、どこかで会ったことがあるの?!)


 アグノラは必死で過去の記憶を手繰り寄せるが、思い出せない。こんなにも綺麗な人、もし会っていたら永遠に記憶に残りそうなのに。

 

「君は百年前の魔物大量発生時代に討伐に参加していただろう?」

「わあ、懐かしい。治癒魔法使いを兼任して参加していました」

「俺も魔法使いとして同じ討伐に何度か参加していた。君はこの国の国王にスカウトされたり、不老長寿だったりで有名で目立っていたから知っている」

「そ、そうだったんですね?」


 アグノラの語尾がやや持ち上がる。


 当時の討伐の過酷さは鮮明に思い出せるが、自分が有名だったなんて聞いたことがない。

 

「俺は何度か君と言葉を交わしたことがあるし君から治療を受けた。今日初めて出会ったわけではない」


 そう言い、キースはがくっくりと項垂れた。紫色の魔法石が、彼の顔の近くでシャランと揺れる。

 

(もしかして、私のせいで落ち込んでいる――?!)


 当時、たしかにエルフの手当てもしたことがある。しかしキースに似たエルフはいなかったはずだ。


(ちょっとスレた感じのエルフがいたことは覚えているんだけどなぁ……たしか、狂犬エルフって呼ばれていたっけ)


 アグノラの脳裏に、かつて討伐で出会った、やや不良なエルフの姿が浮かぶ。

 刈り上げた銀色の髪と、狂犬を思わせるような鋭い緑色の目が特徴的なエルフで、仲間たちにつけられた呼び名は‶狂犬エルフ〟だった。


(あれ、なんだか髪と目の色合いがキースさんと似ているような?)


 アグノラは目の前にいるキースを見る。記憶の中のエルフと違って、キースは落ち着いた雰囲気があるし目つきは穏やかそうだ。


(いやいや、顔つきが違うから別人だよね?)


 乱暴な口調だから最初は怖かったが仲間想いだったようで、よく仲間を庇っては大怪我をしていたからアグノラが治療した。

 

 治療中に声をかけて言葉を交わしていたこともあり、アグノラは少しずつ彼に慣れ、治療中に雑談できるようになった。

 

 当時のアグノラは百歳ほどで、不老長寿の体に悩んでいる時期だったため、エルフである彼に悩みを打ち明けたこともある。


 今でこそアグノラは不老長寿とうまく向き合っているが、百年ほど前のアグノラは周りの人に置いていかれているような気がして、寂しくてならなかったのだ。


(意外といい人だったよなぁ。『そんなに寂しいなら、俺の森に来るか?』なんて言ってくれたよね。ノヴァーリスから離れるのも寂しいから、『いつかは行こうかな』なんて曖昧に答えちゃったけど)


 討伐が終わってまた魔法薬局の店主としての生活を送っている間に忘れてしまっていた。


「君が来るかもしれないと思ってこの森でずっと待っていたのに、まさか忘れられていたとは……」

「わ、私を待っていた……?」

「君が不老長寿でまわりから置いていかれることに悩んでいたから、『そんなに寂しいなら、俺の森に来るか?』と言ったのだが、忘れているようだ」

「――っ!」


 記憶の中の言葉と全く同じ言葉を聞いて、アグノラは瞠目した。

 魔物討伐に参加していた時、自分にその言葉をかけてくれたのは、たった一人だけ。


「もしかして、‶狂犬エルフ〟さん?」

「昔の呼び名で呼ぶのはやめてくれ。消えたくなる」


 エルフにも黒歴史というものはあるらしい。

 顔で目玉焼きを焼けそうなほど真っ赤になったキースを見て、アグノラはエルフの生態について一つ学んだ。


 キースは魔物討伐にいた時はツンツンとしていたが、あれから百年経って落ち着いたようだ。

 

「思い出せなくてごめんなさい。あの時は本当にキースさんの森にお邪魔して住もうかと思ったんですけど、なんやかんやで仕事が来るから今の家に居続けてしまって……」

「……まあ、あの時とは容姿が違っているから仕方がないだろう」


 キースはややバツが悪そうな顔になると、指先で頬を掻く。

 理解してもらえてよかった、とアグノラは安堵した。


「そういえば、手紙を届けにきたと言ったな。今は配達をしているのか?」

「ええ、魔法薬の販売の片手間に手紙を届けています。亡くなった人が大切な人に贈る手紙を届けているのです」


 アグノラは手に持っていた手紙をキースに差し出す。


「オズウェル・フェアステッドさんから生前預かった手紙です」

「……そうか、人間とは本当に早くいなくなる生き物だな。森に迷い込んだあの子を戯れに保護したのが昨日のことのように思えるのに」


 キースは緑色の瞳を揺らすと、手紙を受け取る。

 ぽつりぽつりと、オズウェルとの思い出を語った。


「この森はオズウェルの実家が治める領地にある。オズウェルが幼い頃に、大人たちの狩猟について行ってはぐれ、森を彷徨っていた時に俺と出会った」

「子ども一人で森の中を彷徨うなんて、恐ろしかったでしょうね」

「……実は、オズウェルの叔父が仕組んだことだった。当主の座が欲しいばかりにオズウェルを始末しようとしていたのだ。だから俺はオズウェルの叔父を魔法で捕えてオズウェルの父親に渡した」

 

 そのことがきっかけでオズウェルはキースに会いに来るようになり、森にやって来るためオズウェルは彼の屋敷の隅と自分の小屋の近くを繋ぐ転移魔法を設置した。

 以来、オズウェルとの交流があったのだが、彼が王都にある騎士団に入った時からぱたりと止まった。


「初めて手紙を寄越してきたかと思えば、返事を送る相手がいないとはな」

 

 寂しげに呟いたキースは、その場で封を開いて読み始めた。

 森の中を駆ける春の柔らかな風、キースの美しい髪を靡かせる。

 

(どうしよう、帰るタイミングを逃しちゃった)


 アグノラは気まずくなってキースと手紙を交互に見る。

 手紙を読む邪魔をしたくないが、かといってこのままここにいると彼がゆっくり手紙を読めないのではないだろうか。


 悩んだ結果、アグノラはお暇することにした。

 

「手紙を読む邪魔になってしまうので、私はこれで失礼し――」

「待て、ここまで来てくれたのだから茶でも飲んでいけ」


 キースは条件反射かと思うほど素早くアグノラを止めると、小屋の扉を大きく開く。

 

「お気持ちは嬉しいのですが、もう一通手紙を届けなければいけませんので」

「……数少ない友人を失った寂しさを紛らわすためにも話し相手が欲しい。付き合ってもらえないか?」


 友人を失った気持ちはよくわかる。アグノラも友人を亡くす度に孤独感を覚え、薄れるまで気落ちしがちになるのだ。

 

「それでは、お茶一杯分だけいさせてください」

「ありがとう、とっておきの茶を淹れる」


 キースは花が咲き綻ぶような美しい笑みを浮かべると、アグノラを家の中に招き入れた。アグノラの後ろで退屈そうに草を食んでいたグリフォンのエーベルも一緒に。

 

 キースの小屋の中は白いぬりかべと明るい茶色の床の色が温かみのある雰囲気を出しており、居心地が良さそうだ。

 二階建ての一階部分は台所と風呂と居間があり、二階部分に寝室と客間がある。


 家全体がきちんと整えられており、手入れが行き届いている。

 キースに促されてソファに座ったアグノラは、本棚に並ぶ本の背表紙を視線で追う。

 

     ◇


「……どうしよう、アグノラがうちにいる……!」


 アグノラをソファに座らせて台所に立ったキースは、小さく呟くと両手で顔を覆う。

 

 ぐぎぎと体を少し動かしてソファの方を見遣ると、百年前から想いを寄せているアグノラが本棚を見つめている。決してキースが創り出した幻影ではない。

 

「まさか、オズウェルが俺の話を覚えていて、わざわざアグノラを探していたとは……」


 キースはオズウェルに魔物討伐に参加していた頃の話をせがまれて聞かせる度に、そこで知り合って心の底から惚れてしまった魔女のアグノラの話を聞かせていたのだ。


 魔物討伐に参加していた当時、若気の至りでツンツンとしていたキースを怖がって彼を避ける魔法使いもいたが、アグノラはキースが救護班の天幕に運ばれるとすぐに駆けつけて治療してくれた。


 攻撃魔法も得意なアグノラは戦いにも参加し、強く美しい彼女が現れると騎士からも魔導士からも歓声が上がるほど人気だった。

 

 アグノラは周囲から人気があるため、自ずと彼女に関する噂が聞こえてきた。どうやらアグノラは妖精から授かった祝福のせいで、人間なのに不老長寿らしい。

 

 ちょうどその噂を聞いた後、アグノラから長寿の悩みを聞かされた。

 いつも人に囲まれている彼女が自分と同じ特性で寂しさを抱えているのだと知ったキースは、アグノラとの距離が近づいたような気がして舞い上がった。


(それで、勢いで思わず求婚したのだが……アグノラは求婚の言葉だと知らなさそうだし、俺のことを忘れていたなんて……)

 

 キースは小さく溜息を吐く。


 昔アグノラに言った、『俺の森に来るか?』はエルフにとって求婚を意味する言葉だった。


 アグノラの返事が曖昧だったこともあり望みがあると思ったキースは、アグノラの返事を待ち続けた。

 彼女を想うあまり、彼女の瞳の色と同じ紫色の魔法石のピアスをつけながら。


 その話を覚えていたオズウェルはアグノラの噂を集めて彼女を探し出した。その経緯を、キース宛ての手紙に書いていたのだ。

 キースの恋の成就を願う言葉も添えて。

 

「今度こそ、想いが伝わるように言おう……」


 キースは友人に感謝しつつ、決心するのだった。

 

     ◇

 

(魔法関連の本が多いなぁ。……わあ、絶版になった本もある! これはもしかして、長年読まれてきた人気作品の初版かも?)

 

 夢中になって本の背表紙を見ているとお茶を持ったキースが戻って来て、ソファの前に置いてあるテーブルにぽってりとした白いマグカップを置いた。


「気になる本は持っていっていい」

「どれも貴重な本なのに、さすがにそれは……」

「もう読み終わったのになんとなく置いているんだ。前に読んだのは三百年以上も前の本だってある。もう一度読み返すと思っていたら、百年経っても読み返していなくてもったいないんだ」

「わかります、新しい本が出てくるので、ついそちらを読んでしまうのですよね!」


 アグノラがうんうんと頷いて同意すると、キースはクスクスと笑う。


「食品も同じだ。良い酒を手に入れて少し寝かせるつもりが百年物の高級酒にしてしまった」

「キースさんもうっかり高級酒を作ったことがあるんですね! 私も貰い物を高級酒に進化させてしまったことがあります。あれ、高値で買い取ってもらえるのでちょっと得した気持ちになれます」


 長寿となると、うっかり放置する時間の規模が大きい。

 それで酒のように上手くいけばいいのだが、食べ物に関しては失敗談の方が多い。


「収穫した木の実が床に落ちていたのに気づかなかったら、台所に木が生えていた時があった」

「あー、私もやってしまったことがあります。近所の人に切ってもらったんですけど、どうして木が生えるまで気づかないんだって呆れられました」

 

 アグノラの声が弾む。

 長寿者あるある話を話せて嬉しい。


 ノヴァーリスの人たちはみないい人たちだが、不老長寿ではない彼らにはアグノラの想いに共感できないものがある。

 アグノラの胸の中で、なんとなく言い控えていたことが積み重なり、アグノラの心を沈ませていた。


 アグノラはすっかりキースと打ち解け、彼を呼び捨てで呼ぶようになった。

 二人は夢中で話していたため、気づけば空が茜色に染まっている。


「い、いけない! 次の手紙を届けなきゃ!」


 アグノラが立ち上がるとキースも立ち上がり、魔法で外套を引き寄せて羽織り始めた。


「俺もついて行く」

「で、でも……」

「オズウェルに、恋人のことをよろしく頼むと手紙に書かれていたから様子を見に行きたい。それにオズウェルの墓参りにも寄りたいからな」

「……そういうことなら、まあいいか」

 

 アグノラとキースとエーベルが外に出ると、アグノラは二通目の手紙を取り出して魔法の呪文を唱えた。

 手紙が光を宿して浮き上がると、アグノラとキースはエーベルの背に乗る。

 

 アグノラはキースに後ろから抱きしめられるような状態でエーベルに乗ることとなった。


(ち、近い……!) 


 キースが密着しているせいで、アグノラはちょっぴり緊張してしまう。


 一方でキースも、アグノラを抱きかかえていることに緊張しているのだった。


     ◇

 

 アグノラとキースとエーベルは、フィオレンサ王国の端にある小さな港町マリッサに辿り着いた。

 エーベルが飛ばしてくれたおかげで早く着いたものの、辺りは暗くなっている。

 

 マリッサは夜でも活気づいているが、手紙を追いかけると町はずれまで来てしまい、辺りは静かで暗い。

 足元が見えづらいためか、キースは魔法で光を灯した。

 

「治安は良さそうだが寂れた場所だな」

「……うん、さっきまで明るい町中にいたから余計に暗いと思ってしまうね」


 手紙は小さな小屋の前で光を失い、アグノラの手元に落ちてくる。目的地に着いたのだ。

 アグノラは扉を数回ノックした。


「こんにちは。手紙の魔女のアグノラです。ヘスティアさんにお手紙を届けにきました」 

「母さんに……?」


 扉を挟んだ向こう側から子どもの声が聞こえてきた。アグノラとキースは顔を見合わせる。


「子どもがいたのか……」

「母さんって言っていたから、そうみたい……」


 かつての恋人に息子がいるとすると、もうヘスティアは誰かと結婚しているのかもしれない。

 アグノラもキースも心の中でオズウェルに同情した。

  

 ややあって、扉がキイと蝶番を軋ませて開くと、中から五歳くらいの幼い少年が出てきた。

 少年は漆黒の髪に水色の瞳持ち、どこかオズウェルに似た面影がある。

 

「君……!」 


 アグノラは言葉を詰まらせた。少年は泣きじゃくって目を真っ赤にしていたのだ。

 少年の名はジュードで、ヘスティアの息子だという。


「母さんが死んじゃう。助けて!」

「――っ!」

 

 アグノラは小屋の中に入ると、ベッドで横たわっている女性を見つけた。

 二十代くらいだろうか、金色の髪を三つ編みに結わえているその女性は、目を閉じてぐったりとしている。目の周りは落ちくぼんでおり、布団から出ている手はすっかり痩せてしまっている。


「治癒魔法使いか医者には診せたの?」


 アグノラの問いに、ジュードは唇を引き結んで首を横に振った。

 

「……治癒魔法使いの居場所はわからなかった。医者はお金が無いから来てくれない」

「そう……だったのね」

 

 アグノラは小屋の中を見回す。簡易な台所と、小さなベッドが二台だけしかない。

 物はなく、ガランとしており貧しさを感じさせた。


「ヘスティアさん、どこか痛みますか?」

「うっ……」


 アグノラが呼びかけると、ヘスティアは小さく呻いて目を開けた。水色の美しい瞳だ。

 弱り切った目がぼんやりとアグノラに向けられる。

 

「あなたは……?」

「手紙の魔女のアグノラです。あなた宛ての手紙を持ってきたのですが、息子さんからあなたのことを聞いて家の中にいれさせてもらいました」

「ジュードが……ご迷惑をおかけしてすみません」


 ヘスティアは消えそうな声で謝る。


「困ったときはお互い様です。それより、体はどこか痛みますか?」

「咳き込むと少し、喉と胸の辺りが痛いです」  

「わかりました。それでは、咳を止める薬を飲んでもらいますね」

 

 アグノラはショルダーバッグの中から綺麗な布と魔法回復薬が入った飴色の瓶と木の匙を取り出すと、キースに頼んでヘスティアの体を支えてもらう。

 横になったままでは薬を飲ませられないため、起き上がってもらうしかなかった。

 

 衰弱しているヘスティアの体は液体さえもなかなか受け付けなくなっているため、アグノラは木の匙を使い、二滴ほどを口に含ませて繰り返し飲んでもらうしかない。


 薬を飲ませた後はキースとジュードを遣いに出して、食料を買いに行かせた。

 ヘスティアにもジュードにも栄養のある食事が必要だ。


 キースに遣いを頼んだ時、アグノラはお金が入っている袋を渡そうとしたのだが、キースが頑なになって断ってきた。

 いわく、自分の友人の家族の世話をするし、自分は森に籠っているがそれなりに稼いでいるから金は自分で払うらしい。


 そういうことでキースとジュードが使いに出ている間にアグノラは魔法でお湯を沸かし、綺麗な布でヘスティアの体を拭いた。


     ◇

 

 看病のためにアグノラとキースは三日ほどヘスティアの家に滞在した。

 その間アグノラはヘスティアを看病し、キースはジュードの面倒を見た。


「アグノラ、夕食は俺が作るから少し休め」

「ありがとう」


 キースは進んで動いては、アグノラが無理をしないよう常に気遣ってくれる。

 それによくアグノラに話しかけてくれるため、アグノラはキースと一緒に長寿あるある話ができて楽しかった。

 

 またアグノラは治療している間にヘスティアやジュードとも打ち解け、今ではお互いに名前を呼び合う仲になっている。


 ジュードは進んで家事を手伝ってくれるし、アグノラに甘えてくれるため、アグノラはジュードが可愛くて仕方がない。


 ある日ジュードはキースに買ってもらったお菓子についていたリボンをアグノラにくれた。アグノラがリボンが好きだと知って、もってきてくれたのだ。


 そんなジュードのいじらしさに、アグノラは癒やされるのだった。


「ヘスティア、起きていて大丈夫なの?」

「ええ、アグノラのおかげでずいぶん良くなったわ」

 

 アグノラの看病と回復薬のおかげでヘスティアは回復して起き上がれるようになり、アグノラはヘスティアにオズウェルからの手紙を渡す。

 

「これは、オズウェルさんから生前に預かった手紙です」 

「……そう、亡くなったのね」


 ヘスティアは手紙の封を開けて読むと、ポロポロと涙を零した。


「あの人を捨てたのに、ずっと私を愛してくれていたのね」


 ヘスティアは涙を拭うと、何度も手紙を読み返した。


「私はね、没落した貴族家の令嬢だったの。オズウェルは婚約者で、没落したときに婚約は白紙になったのに、ずっと私を気遣ってフェアステッド侯爵領の領都に住まわせてくれては、会いに来てくれた。婚約していた頃から彼を愛していた私は、身分違いだと分かっていながら彼に甘えていたの」

「……」

 

 アグノラは黙ったまま、ヘスティアの背に手を添える。ヘスティアの体は、小さく震えていた。


「オズウェルに新しい縁談がきているという噂を聞いた私は、身を引くことにしたわ。最後に少しだけ、欲張って彼を独り占めしてしまった」

「もしかして、ジュードは……」


 アグノラの言いかけた言葉に、ヘスティアは静かに頷いた。

 

「それから私はオズウェルから逃げるようにこの町に移り住んで、ジュードを産んだわ」 

 

 可愛い息子との生活は貧しいながらも満ち足りているのだと、ヘスティアは幸せそうな表情で言う。

 しかし平穏な日に影が差す。

 仕事を詰め込みすぎたヘスティアは無理が祟って病気がちになってしまい、仕事を辞めさせられてしまった。


 そうして途方にくれているところに、アグノラとキースが現れたらしい。

 

「アグノラ、いろいろとありがとう。回復したら、かかった費用は全て返済するわね」

「そのことなんだけど……うちで住み込みで働いて返済するのはどう?」


 アグノラはやや躊躇いがちに話を切り出す。少し不安なのか、指先をこねて気を紛らわせている。


「私が住んでいる家、結構広いよ。それに誰かが魔法薬の販売をやってくれたら、私は魔法薬作りに専念できるから嬉しいなぁなんて、思っているんだよね」

「まあ、アグノラったら……本当にいいの?」


 ヘスティアの問いに、アグノラは勢いよく頷いて応えた。


「この数日間、皆と過ごしていてすごく楽しかった。それで、気づいたの。私、本当はずっと、誰かと関わり続けたかったから手紙を預かっていたんだなって。不老長寿だから、町の人たちと仲良く交流していても、ちょっと距離を置いていたんだよね。自分でそうしていたのに、寂しかったことに気づいたの」


 付き合いが深まるほど、相手を失った時の喪失感が大きい。

 傷つきたくないから距離をとっていたが、そうしていても寂しさに襲われるのだ。


「アグノラと一緒に生活できるなんて嬉しいわ。早く仕事を覚えるわね」


 ヘスティアの快諾に、アグノラはパッと笑顔になる。


「わ、私もすごく嬉しい! ジュードに伝えてくるね!」


 跳ねるように立ち上がり、小屋を出たアグノラは、この町に住む少年と出くわした。

 少年はアグノラを見るなり顔を顰めた。

 

「やい、死神。この町から出ていけ!」

「……っ!」


 突然浴びせられた暴言に、アグノラはすっかり固まってしまう。


 アグノラがヘスティアの家に滞在して彼女を看病するようになってから、アグノラの姿を見た大人たちがアグノラこと手紙の魔女の噂をするようになった。

 その中に、彼女を死神だという噂も含まれていたのだ。

 

 小さな少年から向けられる純粋な嫌悪感に、アグノラの心はズタズタに引き裂かれた。 


「お前が町にいると人が死ぬって聞いたぞ。今すぐ消えろ!」

 

 暴言を吐かれ、身動き一つとれずにいると、キースが目の前にいる少年の服の襟口をむんずと掴む。まるで子猫を運ぶ母猫のようだ。


「誰が死神だ。言葉に気をつけろ」


 顔が整っているキースが睨むと威圧感が半端ではない。少年はブルリと震え上がり、目に涙を浮かべた。

 

「アグノラ、大丈夫?」


 キースと一緒にいたらしいジュードが、アグノラに駆け寄って抱きつく。

 アグノラを気遣うジュードの優しい瞳を見て、アグノラの心は少しずつ解れていった。

  

 キースに捕まっている少年は涙を浮かべたままアグノラを睨む。

 

「死神だろ。あいつに手紙を預けたら死ぬって噂を聞いたもん。うちには病気のお姉ちゃんがいるんだ。ジュードの母さんの次はうちのお姉ちゃんを殺しにきたんだろ?」

「ばかばかしい。アグノラは手紙を預かって届けているだけだ。それに、ジュードの母親はアグノラと会ってから回復している。噂を鵜呑みにするのではなく、ありのままのアグノラを見て判断しろ。アグノラは百年前も今も、助けが必要な人を救うために奔走する心優しい魔女だ」


 眉間の皺を深くしたキースがピシャリと反論すると、ジュードは頷いて同意する。

 

 キースの言葉は、ズタズタになったアグノラの心に沁み渡った。

 昔も今も、キースはアグノラの頑張りを見てくれていたのだ。


「アグノラは俺と俺の母さんを助けてくれたんだ。死神じゃなくて、寧ろ天使だよ」

「ジュード……!」


 アグノラは感激してジュードを抱きしめる。

 

 ジュードが頬を赤くして照れる一方で、キースはショックを受けてよろめいていたのだと、後にアグノラはその様子を窓から見ていたヘスティアに聞かされる。


 その後、アグノラは少年の家を訪れて彼の姉を魔法回復薬で治してあげた。

 少年と彼の両親からはとても感謝され、そして少年からは何度も謝罪を受けたのだった。

 

     ◇


 それから五日後の昼下がり、アグノラはヘスティアのために食事を作りながら、小さく溜息を吐いた。

 キースはとある用事でここにはおらず、ジュードは友人と学校に行っている。ヘスティアはベッドの上で縫物をしていた。


 ノヴァーリスに引っ越しするためにはヘスティアがさらに回復する必要があるため、アグノラはまだマリッサに滞在している。

 一方でキースは五日前にアグノラからエーベルを借りてここを発ってしまった。

 

 一度はオズウェルの墓に顔を見せなければ可哀想だから墓参りに行ってくると言うのだ。

 

(一人いなくなっただけで、こんなにも静かになるんだ)


 キースがいるとなにかと話し掛けてくれるから、アグノラはすっかり静けさを忘れてしまっていた。


(墓参りを終えたらヘスティアとジュードの引っ越しを手伝ってくれると言っていたけれど……そのあとは森に帰ってしまうんだよね?)

 

 以前と同じ生活――いや、これからはヘスティアとジュードがいてくれる。

 彼らがいてくれるから寂しくないはずなのに、心にぽっかりと穴が空いたような気持ちになるのはなぜだろう。

 

「アグノラったら、このところ元気がないわね」

「そ、そうかな……?」


 ヘスティアがやって来て、アグノラの隣に立つ。

 アグノラは慌てて手に持っていた匙で鍋をかき混ぜた。


「キースがここを発ってから、いつも寂しそうだわ。よく窓の外を見つめているし……彼の帰りを待っているのではなくて?」

「私が、キースの帰りを……」


 アグノラは鍋の中に視線を落とす。脳裏にはキースの顔ばかり浮かぶ。

 

 いつも通りに振舞っているつもりだった。魔法薬を作ったり、家事をしていたつもりが、ヘスティアの目にはそう映らなかったらしい。


(そんなにも落ち込んでいるのかな……?)


 空いている方の手でペタペタと頬に触れてみると、頬が少し濡れている。

 

「まさか、私……泣いているの?」


 アグノラが小さく呟くと、ヘスティアは眉尻を下げて頷いた。  


「本当は、キースともっと一緒にいたかったんじゃないの?」

「……っ」


 ヘスティアの言う通りだった。アグノラはもっとキースと一緒に居たかった。


 だけどすぐにはその想いに気づけなかったのだ。アグノラは長い間、人と一緒に過ごしたいという気持ちに蓋をしていたから。


「わ、私……」

 

 アグノラが震える喉で言葉を紡いだその時、小屋の扉を叩く音がした。涙を拭いたアグノラが扉を開けると、開いた扉の先にキースの姿と――。


「え、オズウェルさん?」


 死んだと思っていた人物が目の前に現れ、アグノラはポカンと口を開けて立ち尽くす。

 アグノラの耳に、ヘスティアが息を呑む声が聞こえた。彼女もまたオズウェルの姿を見て、驚いているようだ。

 

 キースに支えられるようにして、白いシャツに黒色のスラックスといった簡素な服装のオズウェルがいた。

 オズウェルは腕と足に包帯を巻いおり不自由そうだ。

 

「ああ、オズウェルだ。谷底にいたところを拾ってきた」


 キースがオズウェルの代わりに答えると、アグノラは大きく目を見開いた。

 

「で、でも、魔法具の鈴が鳴ったのに……」

「実は墓参りに行ってみたがまだ墓がなかったんだ。不思議に思ってオズウェルから貰った手紙をもとに探知魔法を使ったところ、王国の西部にある谷で見つけた。本人から聞いた話によると、討伐中に致命傷を受けて、一度意識を失っていたそうだ」


 つまり生死の狭間を彷徨っていたのだろう。それを魔法具の鈴はオズウェルが死んだと判断して鳴ったらしい。

 どうりで鈴がいつもより違う反応だったわけだと、アグノラは納得するのだった。

 

「オズウェル……無事でいてくれたのね……」


 ヘスティアは呆然と呟くと、ほろりと涙を零した。オズウェルもまたくしゃりと泣きそうな顔になると、足をぎこちなく動かしながら彼女に歩み寄り、しっかりと抱きしめた。

 

「ずっと、会いたかった。もうどこにもいかないでくれ。――愛している」


 二人は抱きしめ合うと、しばらく離れなかった。


     ◇


 その後、アグノラはキースとオズウェルから当時の話を聞いた。


「実は、手紙の魔女殿の作った軟膏が傷を早く治してくれたおかげでどうにか生き延びた。本当に感謝する」

 

 オズウェルは竜の中では最強と言われている黒竜の討伐に向かったらしく、オズウェルも仲間も苦戦していた。

 黒竜の鋭い爪が仲間に振り落とされそうになったところ、オズウェルは仲間を庇って攻撃を受けたのだった。


 爪が体に食い込んでもオズウェルは動きを止めず、黒竜に剣を突きさして相討ちとなったらしい。

 負傷した黒竜が暴れたせいで谷底に落ちたところまでは覚えていたが意識を失ってしまった。


「意識が戻った時には自分でも生きていることが不思議だと思ったくらいだ。体を見てみると、黒竜の爪で負った傷口が塞がっていた。驚いて体を触ってみた時、上着のポケットに入れていた、手紙の魔女殿が作った軟膏の入れ物が壊れていることに気づいたんだ」 

 

 オズウェルはアグノラから買った軟膏のうちの一つを持っていた。

 それに竜の爪が当たって軟膏の容器が壊れてくれたおかげで、オズウェルの傷口に軟膏が触れて治してくれたようだ。

 

「手紙の魔女殿のおかげで生き延びることができた。改めて礼を言う」

「そ、そんな、私はただ軟膏を売っただけで……でも、こうしてオズウェルさんが生きて戻ってこれて、本当に良かった」

 

 アグノラはオズウェルからの感謝の言葉に目頭を熱くする。紫色の瞳を揺らす彼女に、キースがそっと歩み寄って耳元で囁いた。

 

「結果として手紙の魔女は死にかけた人を生きて大切な人の元に帰してやったんだ。だから君は、死神なんかではない」 

 

 キースの言葉は、アグノラの心の中にあった傷を優しく癒してくれた。

 

     ◇


 再会したオズウェルとヘスティアは、これからは何があっても一緒にいると誓い合った。

 

 ヘスティアがオズウェルに、彼との間にできた子どもであるジュードの話をすると、オズウェルは大変喜んだ。

 その後、ヘスティアは学校から戻ってきたジュードに、オズウェルが父親であることを話した。そうして三人は一緒に住むことになった。

 

 アグノラはキースと協力して、自分たちとヘスティアとジュードとオズウェルをフェアステッド侯爵領の領都に転移する転移魔法を使った。

 ヘスティアとオズウェルは、二人の結婚をオズウェルの両親に認めてもらうために会いに行ったのだ。


 もしも認めてもらえないのであれば、オズウェルは家を出る気満々だった。

 覚悟して二人が臨んだところ、両親はすんなりと認めてジュードのことも受け入れてくれた。


 もとよりヘスティアはオズウェルの婚約者であったこと、オズウェルが生還してすぐに会いに行ったことで彼女への愛情の深さを知り、二人の仲を認めたのだった。

 

 アグノラとキースはヘスティアとジュードとオズウェルの新しい生活の始まりを見届けると、キースと一緒にグリフォンのエーベルの背に乗ってフェアステッド侯爵領の領都を発つ。

 初めてキースと一緒に二人乗りした時のように、アグノラは背後にいるキースに抱きしめられるように乗っているが、今はそれほど緊張しない。

 

「ヘスティアたちが一緒にいられるようになって良かった。これからは幸せに暮らしてほしいな」


 アグノラは感慨に浸りつつ、振り返って小さくなっていく領都の街並みを見つめる。


「ヘスティアとジュードと一緒に暮らす約束をしていたのに、オズウェルが攫ってしまったな」

「そうだね、だけど三人が幸せならそれでいいよ」


 確かに少しだけ残念ではある。オズウェルが生還するまで、アグノラは二人との生活を楽しみにしていたのだ。


「……なあ、アグノラ」


 いつもより少し改まったキースの声が耳元に落ちる。


「寂しいなら、俺が一緒に住んでもいいだろうか?」

「キースが一緒に……?」


 驚いて振り向いたアグノラは、キースの熱のこもった瞳と視線が絡んだ。途端に、胸の奥がキュッと軋む。


「アグノラは知らなかっただろうが、俺は百年前からずっとアグノラのことが好きだ。魔物討伐に参加していた時に言った、俺の森に住まないかというのは、実はエルフの間では求婚を意味する言葉なんだ」

「そ、そんな意味があったなんて……!」


 アグノラは言葉の意味を知らなかった気恥ずかしさで頬を林檎のように赤く染める。それにキースからの告白を受けて、心臓がとくとくと駆け足になった。


「アグノラの明るい性格や、どんなに悩んでいる時でも他人を思いやる優しさに惚れた。絶対に寂しい思いをさせずに幸せにすると誓うから、これからも永遠に――千年先も一緒に居てくれないだろうか?」 


 キースの眼差しが切実なものになる。

 アグノラの答えはもう決まっていた。


「私も、キースと一緒に居たい。実は、キースが墓参りに行った時、とても寂しかったんだよね。キースと再会してから少し一緒にいただけで、もうキースがいない生活が考えられなくなっていたことに気付かされたの」


 そう言い、アグノラは照れくさそうに笑みを浮かべる。

 

「私もキースが好きみたい。一緒に住もう?」 

「――っ」


 アグノラからの告白はキースの胸をしっかりと射抜いた。

 言葉にできないほど感激したキースは、返事の言葉の代わりにアグノラを抱き寄せると、彼女の唇に口づけを落とした。

 百年越しの想いを伝えるために、何度も。

 


 

 それからキースはアグノラと一緒に住むために森から引っ越し、二人は一緒に魔法薬を作ったり、手紙を届けた。

 またキースがリボン好きなアグノラのために色んなリボンを買ってくるようになったため、アグノラの店はたくさんのリボンに装飾された可愛い内装となる。


 手紙の魔女は美しいエルフの夫に溺愛されているという噂は、その後何千年も語り継がれるのだった。


 


(結)

少し長めの短編でしたが、最後までお読みいただきありがとうございます。

アグノラの手紙配達や恋を引きずるキースの様子をお楽しみいただけましたら嬉しいです。

それでは、新しい物語の世界でまたお会いしましょう。

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