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【番外編】パンドラの箱


今日も今日とて、無自覚に軟禁生活を強いられているケイトは娯楽に飢えていた。


自室で暇そうな顔をしながらローラの淹れてくれた紅茶を飲んでいると、ふとあることを思い出す。



「そういえば、寝室に一つだけ鍵の掛かってる引き出しがあったのよ。ねぇ、なんだか怪しいと思わない?ねぇねぇ!」


キラキラとした瞳をローラに向けるが、彼女は巻き込まれることを恐れるかのようにスッと横に目を逸らす。



「あまり余計な詮索はしない方が宜しいですよ。」


「だって毎日やることがなくて暇なんだもん。」


「確か本日の午後にはあのシリーズの新作が3巻届く予定だったかと。」


「うそっ!!それ早く言ってよ!夜通し読みたいから、今から昼寝するわ。夕飯まで起こさないでね。」


「………承知しました。」


ケイトの気を晒せたことに安堵しつつ、仮にも女主人がそんな堕落した生活で良いのかと呆れるローラだったが、音を立てずにカーテン閉めて部屋から出て行った。



***



「んふふふふっ…ぐふふふふっ…」


有言実行のケイトは、湯浴みをして夫婦の寝室に入った後も、ひとりベッドに寝転んで例の小説を読み耽っていた。



「ケイト?」


「くくくくくっ」


そこに湯浴みを終えたラケルがやって来るが、ケイトが気付く素振りはない。


うつ伏せで小説を読みながら、声を上げては足をバタバタさせ悶えている。よほど小説の内容が面白いらしく、夢中だ。


存在を無視されているラケルはあからさまに不機嫌な顔をしている。彼にしては珍しく、粗雑に足音を立てて近づき乱暴にケイトの横に寝転んだ。



「あ、ラケル様」


ここでようやく気付いたケイトだったが、もう手遅れだ。苛立ったラケルが彼女の手から本を取り上げる。



「ちょっ…!何するの!!」


取り返そうと大声を出しながらケイトが起き上がるが、ラケルは本をどこかに隠してしまった。そのことにブチ切れたケイトが思い切り睨み付ける。



「それは私の大事なものなの!それがないと生きていけないのよ!」


ラケルに向かって怒りを露わにしながら、感情のまま声を張り上げた。握りしめた拳がふるふると震えている。



「俺はケイトがいないと生きていけない。」


「え」


勢い任せに吐いた言葉に、本気のトーンで重量感のある言葉が返ってきてしまい固まるケイト。一気に頭が冷えていく。


(あれ…なにこれ…ひょっとしてあまりよくない展開…?なんで??)


そろそろ学習して来たケイトに不安がよぎる。だが、まだその不安の本質と回避方法までは分かっていなかった。

漠然とした不安を抱えたまま、場を和まそうとしたケイトが、思い詰めた顔で見つめてくるラケルにへらっと笑い返す。



「ええと、例え話で言ってくれているのは分かるけど…人はいつかは死ぬものだし、そんな暗い話もしても…ねぇ?」


自分でも何の話をしているか分からなかったが、彼の思い詰めた雰囲気が恐怖でしかなく、なんとか宥めたかったケイト。


彼女の説得が効いたのか、ラケルがふっと柔らかく微笑んだ。


(良かった…やっぱり軽い冗談だったみたい。)


そう思って安堵していると、彼はなぜかベッドから降りて部屋の隅に置いてあるキャビネットの前に向かった。


(あれって鍵のついてる引き出しがあるやつじゃ…)


中身が気になって仕方のないケイトが、つい彼の動きを注視する。ラケルはそれに応えるかのように懐から鍵を取り出した。


(うそっ…!!今ここで……!?)


何かとっておきのものを出してくれるんじゃないかとケイトの胸が高鳴る。ベッドの上に座ったまま穴が開くほど見つめ、緊張のあまりごくりと生唾を飲み込んだ。



「え…?ただのガラス瓶…??」


見守っていたケイトが落胆の声を漏らす。


手袋を嵌めたラケルが引き出しから慎重な手つきで取り出したのは、真っ黒な見た目のした小瓶だった。



「ケイト、これは毒薬です。」


「どくやく?」


ケイトにも見えるように高い位置に小瓶を掲げたラケルが、明日の天気を伝えるようなテンションで言った。

彼の穏やかな声音と単語の待つ意味が合致せず、ケイトの頭にハテナマークが浮かんでいる。



「これ一滴で即死出来ます。」

「はああああっ!!?」


事の重大さを理解したケイトが、絶叫に近い大声を上げた。



「な、ななな、なんて恐ろしいものを!!そんな怖いもの家に置かないでよっ!!!危ないわ!私を殺す気!?」


「怖い…?これは安心材料ですよ。私にとって、ケイトがいない世界で生きることの方が何百倍も恐怖ですから。この毒薬があればいつでもケイトの後を追える。」


「待って…もうラケル様のその考えが恐怖でしかないからっ…」


愛情を示すかのようににこやかに話すラケルとは対照的に、毒薬を待つ彼の思考を知ったケイトの顔は顔面蒼白だ。



「ケイト、まだ小説の続きを読みますか?それとも、俺に愛されてくれますか?」


「……………………………………………こ、後者で」


あんな狂気を見せられた後では、さすがのケイトも恐ろしくて彼を蔑ろにすることは出来なかった。真っ赤な顔で俯きながらラケルの愛を選んだ。



「光栄です。では、選んで良かったと言ってもらえるよう精一杯尽くしますね。」

「〜〜〜〜〜〜〜っ」


仄暗い瞳で微笑んだラケルが色気を撒き散らしながら近づいてくる。キシキシとわざと音を立てながらベッドの上に登ってきた。


羞恥心に耐えられず頭からシーツを被ったケイトだったが、彼も追いかけるようにして中に潜り込んでくる。



「あぁもしそんなに続きが気になるなら、小説を読みながらでも俺は構いませんよ。まぁ、この状況で読めたらの話ですが。」


身体を密着させてぎゅっと抱きしめ、ケイトの耳を甘噛みしてきたラケル。


(いやああああああっ!!ラケル様のばかああああああぁぁっ!!)


心身ともに逃げ場のなくなったケイトは抵抗虚しく、ラケルにされるがまま愛され続けたのだった。




お読みいただきありがとうございます!

ヤンデレ愛が止まりません笑

また機会ありましたらよろしくお願いします!

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