二人の愛の形
本編最後です!
ケイトは立ったまま言葉を失い、ついでに意識も失いかけていた。
気が遠くなりそうになるのを堪えながら、頭痛のする額を抑える。
(一体どういうこと…?知ってたってことよね?え…もしかしてこれ全て仕組まれていたの?そうだとしたら私っ…)
「ねぇ」
「何でしょうか?」
軽く互いの腕に触れて向き合う二人。
ケイトに視線を向けられ、ラケルが嬉しそうに顔を綻ばせた。
「私、貴方に嵌められたの?なら、さっきの返事はやっぱり保留にーー」
「俺のこの気持ちに嘘偽りはありません。」
被せ気味に言ってきたラケルは、ケイトの顎に指を添えて上を向かせ、軽く触れるようなキスをしてきた。
「………狡いわよ。」
「本当に。狡いくらいに可愛い。」
思い切り睨んでも、甘ったるい声で囁かれケイトの顔が真っ赤に染まるだけだった。
「俺の話を聞いてもらえますか?」
ラケルに手を引かれてケイトはソファーに腰を下ろした。彼もその隣に寄り添って座る。
二人がイチャついている間にテーブルの上は片付けられており、新たに二人分の紅茶が置かれていた。
「俺が把握していたのは、ヴェルデ家当主がスティード伯爵家との共同採掘権をシャロット伯爵に譲渡したという話だけです。希少性の高い鉱物だったはずが、他の土地でも採れるようになって市場価値が下がったため見切りを付けたようでした。」
「え、知っていたのはそれだけなの?」
「ええ。ただ、スティード伯爵が金の亡者であることは有名な話ですし、あのシャロット伯にケイトを融通させる可能性もゼロではないと踏んでいました。それで一応気にしてはいたのですが…まさか急に押しかけてくるとは思いませんでした。駆けつけるのが遅くなりすみません。」
「そういうことだったの…だから貴方はあの時動揺せずに振る舞えたのね。おかげで助かったわ。」
ケイトが納得した顔で笑顔を見せると、ラケルも微笑み返した。
ふとラケルが彼女の耳元に手を伸ばし、耳にかけるように髪を撫で付けてきた。
くすぐったいが髪を通る指が心地よく、ケイトは目を細めて身を委ねる。
気付いたら後ろから抱え込まれるような姿勢になって髪を弄ばれていた。
「ねぇ、ケイト。」
珍しく甘えるような声で名前を呼ばれ、驚いたケイトが顔だけで後ろを振り返った。
「…っ!!」
その瞬間、待ってましたとばかりに唇を奪われたケイト。
先ほどのそれとは異なり、何度も深く口付けられ呼吸が乱れてくる。
縋るように彼のシャツを必死に掴みながら、無我夢中で彼の愛に応えた。
「これからは俺が…俺だけがケイトの家族です。俺だけをそばに置いて、俺だけを頼って、俺だけをその目に映して欲しい。」
口付けの合間に熱心な掠れた声で囁かれ、ケイトは正常な判断が出来なくなっていた。
(求められるってこんなに嬉しいんだ…)
身体中を巡る歓喜の感情。
触れる先はふわふわと優しくて甘くて、蕩けるようだ。
「改めて今日を誓い合った記念の日にしたい。」
「……っぅん」
返事をしようとしたが、途中キスで口を塞がれてしまい、中途半端な声になってしまった。
それでもラケルには、ケイトが了承したと分かったようで口の両端を上げて溢れんばかりの喜びを露わにしている。
「良かったです。これで今晩やり直しが出来ますね。」
「やり直しって…?」
後ろから抱え込んだラケルがひどく丁寧な手つきで、ケイトの髪を撫で付ける。慈しむように、何度も何度もその手を滑らせた。
「もちろん、結婚初夜のことですよ。今度は本当に一晩中愛させてもらいますからね。ご覚悟を。」
「なっ………やっぱり嵌められたわ!!」
「俺のこと好きなんですよね?愛し合う夫婦なら当然のことですよ。」
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」
恥ずかしさのあまり、腕の中で必死にもがくケイトのことをラケルは愛おしそうに抱きしめた。
***
その日の夜、ラケルから厳命を賜ったローラの手により全身を磨かれ、気合いの入った夜着を着せられたケイト。
いつかの夜のことを思い出しながら、控えめにノックした。
「ラケル様…?」
すぐにドアが開き、ぱっと手首を掴まれて部屋の中へ引き込まれた。
「なっ………」
「ようやく、名前を呼んでくれましたね…愛おしさが込み上げて堪らない。」
力強く抱きしめたままケイトの首に顔を埋めて、ラケルが泣きそうな声を出した。
「紳士的にと思っていましたが…少し無理そうです。」
「へ…………」
にっこりと微笑むラケルから、形容し難い圧が放たれていた。
「ちょっ……!!!」
動揺するケイトをさっと抱き抱え、ベッドの上まで運んでいく。
手足をジタバタして暴れているが、その反応さえ嬉しそうに見つめている。
彼女の両手をシーツに縫い止め、真っ直ぐな瞳で見下ろした。
「あの…やっぱり今日は…」
「却下」
「んっ」
これ以上余計なことを言わせないよう、ラケルが唇で口を塞いできた。
ケイトの思考が鈍るまで何度も唇を重ね合わせていく。
「ようやく俺だけのものになりましたね。」
仄暗い瞳で囁いた声は、必死に足掻くケイトの耳には届いていなかった。
「貴女の居場所はここだけなのだから。」
自分の手の中に堕ちていくケイトのことを、ラケルはゆっくりと時間を掛けて堪能していったのだった。
最後までお読みいただきありがとうございました!
本編はこちらで完結となります。
また番外編で二人の日常を投稿出来ればなと思っております。