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お茶会


「あぁこれが恋の病ってやつね!政略結婚とは思えない熱さで照れるわ。羨ましい。」

「そんな可愛らしいものじゃないわよ。強いて言うなら、性格が捻じ曲がった精神病ね…」


うんざりとした声を出すケイトだが、向かい側のエマの瞳はゴシップ記事を見るかのように爛々と輝いている。


ため息を吐きながら恨めしそうにラケルの方を向くと、ほんの少しだけ申し訳なさそうに微笑む彼と目が合った。


『こ ち ら は お 気 に な さ ら ず』

(んなの気にするわっ!)


口パクで伝えてきたラケルに、ケイトは心の中で怒鳴りつけた。



「まぁ、蔑ろにされるより良いんじゃない?この前の夜会でも溺愛されているのは明白だったし。大切にされてるのが目に見えて、素敵だったよ。」


「あれはタチの悪い嫌がらせよ。私が嫌がるって分かってて甘い雰囲気を出してくるんだから相当ね。」


「そうかなぁ…私には本気に見えたけど。」


「それだけは絶対にないから安心してちょうだい。今日だってよほど暇なんでしょう。」


「お相手の何がそんなに気に食わないの?」

(なんのかんの言いながら、今日だって全身旦那色を纏ってるくせに。ほんとこういう所可愛いわ。)


発言を口に出さず留めたエマだったが、ケイトは彼女のニヤニヤした顔から察したらしく、反論に出る。



「それはもちろん、しょっ…」


『初夜を台無しにされたから』

感情のまま吐き出そうと思ったが、なけなしの貴族の矜持により、すんでの所で堪えた。



「しょ…?」

「……初っ端から感じが悪かったのよ!」

「………っ」


力技且つだいぶ失礼な物言いで押し切ったケイト。

その声は思いの外大きく、耳にしたラケルが軽く咳き込んでいた。

初めて顔を合わせたあの日、ケイトをぞんざいに扱ったことを思い出し、ひとりで勝手に焦っていたのだった。


主人の失態を誤魔化すように、絶妙なタイミングで使用人が焼き立てのカスタードパイを提供する。二人はその美味しそうな見た目と食欲そそる香りに夢中で、少し離れた彼の異変に気付かない。



「確かに最初の印象は大事かもしれないけど、過去に囚われ過ぎるのも良くないんじゃない?そのせいで今の努力を認めてもらえないってのは、旦那様が可哀想だわ。」


「可哀想…」


(確かに彼は変わったわ。最初から今のような振る舞いだったら絆されていたかも…でもだからこそ、なんか裏がありそうで素直に受け取れないのよね…)


真剣な表情で考え込むケイトに、「まぁ夫婦のことだからね」とエマは気にし過ぎないように今を楽しんで!と明るく声を掛けてくれた。


その後二人は例の小説の話に花を咲かせた。大好きな物語のあれやこれやを語り合う内に、ケイトの表情もすっかり溌剌としたものに変わっていった。


そろそろ解散の時間という頃、お代わりの紅茶に口を付けたエマがそういえば…と口を開いた。



「来る時に正門と反対側におっきな建物が見えたけど、あれなに?普通じゃない見た目をしてて気になって…」

「ああ、アレね…」


エマからの問いに、ケイトはまたもや遠い目をしている。


彼女が言った『おっきな建物』というのは、馬鹿でかい正方形の箱を3段積み上げたような、武骨で無機質な見た目をしている最近完成した建造物だ。

その変わった見た目に加えて、窓には鉄格子が嵌められ中の様子が窺えないようになっている。もちろん、中から外の様子を見ることも出来ない。


華やかな庭園の向こう側に見える景色として、似合わないことこの上なかった。



「彼の仕事場なんですって。王宮にあったものを部署ごとこちらに移動させたとか…凄い話よね。」

「は」


エマから驚愕の声が漏れる。

やれやれと言った感じで呆れているケイトの目の前、彼女は信じられないという顔をしていた。



「それってつまり、貴女の側で働きたいってことじゃないの…?やっぱり溺愛されてるんじゃない。それもかなり重めね。」


「単に通勤時間を短縮したいだけでしょ?それに、邸内にも仕事場はあるのよ。彼は今まで通りそこで仕事をするんですって。なのに、同僚達は別棟に追いやるなんて…高位貴族ってほんとお金を使った遊びが好きなのね。」


「それは…仕事仲間が邸に入らないよう、わざわざあの監獄みたいな建物を作ったってこと…?」


遠目に見える鉄格子の目立つ建物に、エマは震える声で尋ねた。

垣間見えたラケルの本気の熱量に対して、歓喜よりも内臓がざわざわするような恐怖が込み上げてくる。


(ケイトの近くで働きたいけど、他の男の目には晒したくない…こんなの独占欲の現れでしかないでしょ…それも重度のね…)



「ねぇ、貴女は本当にそれでいいの?大丈夫??」


「はぁ…ほんとよね…」


「これは重めどころじゃないって。このままいくとケイトの身がしんぱ…」


「私が同僚達に対して粗相をするって思われてるのよねきっと。だから私と会わせないように、あんなお金をかけた嫌がらせをしてくるんだわ。…そう考えると、段々と腹が立ってきたわね。」


(いや、、怒るところ絶対そこじゃないって)


エマの顔色が一気に悪くなる。

大きく勘違いしたケイトは勝手にぷんすかしていたが、彼女にはもうそれを訂正する気力はなく脱力しきっていた。



「今度皆さんに会う機会があったら、とびきりの笑顔で挨拶してやろうって決めてるのよ。ふふふ、完璧な淑女の礼に慄くといいわ。」


「ねぇ、それだけは本当に絶対やめて。ケイトの振る舞い一つて、軽く死人が出るわ。」


「え?一体何の話よ???」


いきなり青ざめたエマに、全く見当のつかないケイトは首を傾げまくっている。ぽっきり折れてしまいそうなほどだ。


こうして、女子二人(+1名)の楽しいお茶会は、不穏な空気(エマ視点)でお開きとなったのだった。




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