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平和な会食

 それからのシーク・サイードとの会食は平和裏に進んだ。四方八方、鋭く研がれたアサシンナイフや三日月刀の刃に囲まれたシーク・サイードはまるで初等学校に通う模範生徒のように礼儀正しく俺の質問に答えてくれた。

 ただ、滝のような汗を流しながら俺の質問に答えるシーク・サイードの話はマンティコアの血を飲み、異端スキル「夢幻術数」を発動して体を消耗させたにしては見合わないものだった。


「つまり、グレン・ディースは不正などに手を染めない、真面目一辺倒の堅物聖騎士ということか?」


 シーク・サイードは震える声で答えた。

「ええ、あの男は熱心な聖女セシルの信仰者で、融通が効かない堅物聖騎士。うちのファミリーの者があの男に捕縛されたことは何度もありますが、大金を掲示しても我々の話を聞こうとさえしない厄介な男なのです」


「まぁそれが本来あるべき聖騎士の姿なんだが。グレン・ディースがそのタイプとは意外だな」


 一口に聖騎士と言っても様々なタイプがいる。愚直に任務をこなす者、バンピーのように手を抜きながら仕事をしつつ酒場や娼館と言った世俗に塗れる者、金のために闇ギルドの手足となる者。俺は実に多種多様な聖騎士を見てきた。


 シア・セイレンからこの話を聞かされた時、グレン・ディースは闇ギルドと繋がりのあるタイプの聖騎士だと俺は判断した。闇ギルド「サイード・ファミリー」が何者かに依頼を受けて、裏で繋がりのあるグレン・ディースを実行役として使ったというのが最もあり得そうなスキームだからだ。


 しかし話を聞いてみると、グレン・ディースは闇ギルドと縁のない愚直で真面目な堅物聖騎士だという。


 さらにサイードファミリー自体も今回の聖騎士失踪の件に闇ギルドは関与していないらしい。


「考えてみてください。今の状況は我々にとって何らメリットがないのですよ。一連の蜂起のせいで王都との物流は途絶えて、サイード・ファミリーは多大な損害を被っている。商売の邪魔でしかない未開の辺境の民たちなど王都聖騎士団に叩き潰してもらう方が我々にとって利があるわけです」


 それは十分説得力のある答えだ。ベルナール産ワインの行商を生業の一つとするサイード・ファミリーにとって物流網の断絶はデメリットが大きすぎる。


 しかし、一つの疑問が残っている。

「話はわかった。ただあなたは俺がグレン・ディースを知っているか?と尋ねた時、知らないと言った。この程度の話なら隠す必要もないはずだ」


 シーク・サイードは体を固める。「それは一年ほど前にグレン・ディースの身辺調査をして欲しいと別の方から依頼されたからです。依頼に関する情報を他者には漏してはいけない、それは最低限のモラルでしょう」


 このどれだけの人を殺めたかわからないような闇ギルドのボスがモラルを語るのはなんともおかしいが、確かに秘密保持は闇ギルドを運営するものとしての守るべき職業倫理だ。


 俺は言った。

「一年前、誰があなたにその依頼を持ちかけたのだ」

 

 この質問にはシーク・サイードはすぐに口を開こうとしなかった。より一層、大粒の汗が滴り、いつの間にかシーク・サイードの周りには水たまりができていた。


 俺は周りの男たちを操作し、シーク・サイードの首元に刃物を近づけながら言った。

「シーク、俺は血を見ることなく友好的にこの会食を終えたいと心から願っているんだ」


 シーク・サイードはようやく口を開いた。

「依頼主はレイモンド・ヴァルデリオン……つまり、あなたもよく知るレイモンド王子です」



 

 サイードファミリーの屋敷を出た頃にはすでに日が傾き始めていた。情報提供の見返りとして、ベルナール産ワインをミチーノ商会で販売したいと伝えるとシーク・サイードは途端に機嫌が良くなって、最後はファミリー総出で見送りをしてくれたが、俺としてはとんだ見込み外れとなった。


 闇ギルドが黒幕であればタイムリミット内に聖騎士たちを救うことは簡単な話だったのだ。しかし話を聞けば聞くほど、グレン・ディースを巡る状況は複雑に絡み合っているように見える。


 シーク・サイードは今回の黒幕はシア・セイレンだという一般的な見方をしていた。


「シア・セイレンは底知れない女です。かつてこの地で強勢を極めたあのトルケマダ・スロブリンでさえあの女の前では翻弄されるばかりだったのですよ」


 何でもトルケマダはベルナール領の主席異端審問官時代にシア・セイレンを捕縛し、異端審問にかけたことがあるらしい。そして後にも先にもこの地で起きたことないことが起きた。トルケマダはシア・セイレンを無罪放免としたのだ。


「理由は明白です。トルケマダはシア・セイレンに心奪われてしまったのです。あの異端者に対して血も涙もない男がシア・セイレンの前に跪き、求婚したことは今でも語り草ですからな」


 宿屋に戻り、自分たちの泊まる部屋に入ると意外な客が訪れていた。


「あなたは……確か……」


 この街に疎い俺とはいえ、流石にこの人物は知っている。青ざめた表情で俺を待ち構えていたのはここベルナール伯爵領を治めるベルナール伯爵その人だった。

「ドン・ミチーノ、依頼があって伺いました。これはあなたにしか解決できない話なのです」

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