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ルブラン家の報酬

 こうしてルブラン家襲撃事件はジャン・ルブラン、エレナ・ルブランともに無事保護することが出来て、幕を閉じた。


 あれから数日経った今でも王都じゃ襲撃の話題で持ちきりだ。今日の王都新聞も「ルブラン公爵を襲った異端者を華麗に捕縛し、エレナ・ルブランの拉致を未然に防いだ英雄・セシルウェイブ聖騎士団長」という見出しとともに大きくセシルの映し絵が掲載されていた。

 

 カノは紙面を広げながら言った。

「私たちも結構活躍したと思うんですけど、王都新聞に書かれているのはドンの元カノさんのことばかりですねぇ。あっこのページもドンの元カノさんだ!」

 

「そりゃ、そうだ。俺たちは裏方、しかも小さな闇ギルドだからな。俺たちの働きなんて誰も興味はないだろう。っていうかまだセシルのこと気にしてるのかよ!」


 カノはあれからことあるごとに意味ありげに「元カノさん」と連呼する。どうも俺が別れ際にセシルに言った「一緒に王都を走り回れて本当に楽しかった」という言葉が引っかかっているらしい。


 カノは言った。

「だってそれって、ドンに命を預ける大事なファミリーが必死に逃げてる時、当のドンは元カノと再会デートを楽しんでいたってことですからね!」


「いやいや、そんな話では全くない!」

 俺はそう言い繕いながら再び紙面に目を向けた。


 カノの言う通り、王都新聞には俺たちのことはもちろん、聖騎士の反乱や今回の襲撃にカポネが関わっていたことなども一切言及されていない。書かれているのはセシルの英雄譚ばかりだ。


 何も知らない王都民はこの記事を読んで、聖女セシルが悪党を退治してこれにて一件落着、めでたしめでたしと考えるだろうが、事態はまるで逆だ。


 今回の襲撃にはルブラン家クラスの大貴族が関わっていることは間違いない。黒幕が分かり次第、ルブラン家は必ず報復を含め何らかの対応をする。つまりそれは国が割れる可能性を意味する。

 こんな反乱を許した以上、セシルが聖騎士団を掌握できていないことは明らか。内戦を孕んだ現在の状況を、今の聖騎士団が切り抜けられるとは思えない。


 それにしても、聖騎士団の力が弱まって喜ぶのは、結局王家や貴族ではなく闇ギルドしかいないというのに、一体、どこの誰がこんな状況を作り出したというのだ。


 俺は考えるのも嫌になって、王都新聞を机に放り投げた。所詮、王家や貴族、聖騎士団なんて問題は俺にはどうしようもない領域。今はギルド運営に集中するだけだ。


 敗者の街区の職人に出資し、異端者を増員したこともあって、ミチーノファミリーの財政はかなり厳しいものがある。依然として稼ぎはラ・ボエームとルブラン家が頼りで、不安定なままだ。


 そしてその頼りのはずのルブラン家の報酬が今回珍しく滞っている。本来なら敗者の街区に住む職人たちに材料を届けるために、ルブラン家と交渉する必要があったが、それも出来ていない。

 ルブラン家は大変な状況だし、俺たちのような小さな闇ギルドのことなど後回しになるのは仕方がないことではあるが。


 とにかく金策をどうにかせねばとあれこれ考えていると、カノの尖った耳がピンと動いた。「ドン、何かが街に近づいてきます」


「カポネか?」


「ソクラテさんから報告が上がってます。ドンに繋ぎます」


 脳裏にはカノのスキルを通して、敗者の街区の警護と猫探しを任せている「脱獄異端者のソクラテ」という男から報告が入る。ソクラテはスキンヘッド、身長二メートルを超える近接戦闘を好む異端者だが、意外にも猫探しが得意なのだ。

「馬車が十台、街区の大通りを通過中。全て破壊可能ですが、ドン、どうします?」


 俺は部屋の窓から外を眺めみてから伝えた。「このまま通せ」


 すぐさま俺はギルド本部の外に出た。程なくしてギルド本部の前には馬車がずらりと並ぶ。


 馬車からは上等な服を着た紳士がゆっくり降りてきて、恭しくお辞儀をした。

「ミチーノ様、先日はルブラン家をお守りくださり、本当に本当にありがとうございます。大変遅くなりました」


 続いてずっしり重い皮袋を手渡された。今回の依頼の報酬額は特別ボーナスが上乗せされ、なんと金貨五十枚。今、ソクラテに任せている猫探しの実に二万五千倍の報酬額だ。驚いていると、ルブラン家の使者は続けて言った。


「以前に要望されていた麦芽、なめし皮、鉄や銅のインゴットもお届けに上がりました。旦那様は今回のミチーノファミリーの働きに大変感謝されております。どうぞご自由にお使いください」

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