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王子の命令

ジャン・ルブランの部屋に飛び込んですぐ戦況を把握した。


 セシルは聖騎士の甲冑を纏う異端者を見事としか言えない剣捌きで一方的に押している。剣を振るっている間も、セシルから光の矢が生まれ、異端者の体をズタズタに切り裂いていく。

 ただ、相手は自己再生スキルに長けているようで、傷はたちまちに癒えていく。どうも持久戦を好む異端者らしい。

 

 セシルの背後には体を地面に横たえるジャン・ルブランと地面に座り込むレイモンド王子の姿がある。

 セシルは部屋に入ってきた俺たちを横目でチラリと見た。

「あなたたちはルブラン家の私兵!? ちょうどよかった! ルブラン公爵をこの場から連れ出して!」


 俺は指示通りジャン・ルブランの元に飛び込む。公爵の肩からは生々しい鮮血が流れているが、まだ息はある。この場はセシルに任せておけば十分対処できる。俺は公爵を守ることに傾注すべきだ。

 ルブラン公爵を抱き抱えようとした時、腕をぐいっと引っ張られた。俺の腕に触れるのはレイモンド王子だった。


 レイモンド王子は俺しか聞こえないほどの小さい声で言った。

「余計なことをするな、ルブラン家の下級兵士。ザコは何もせず、この場から消えろ。これは王命だ」


 何を言っているのか分からなかった。ジャン・ルブランはレイモンド王子の叔父。なぜ同族の者を連れ出すのを拒否するのだ。このままでは本当に公爵の命が危ないじゃないか。


 幸い俺はすでに聖騎士ではない。聖騎士団に所属している者にとって王家の命令は絶対だが、今の雇い主はジャン・ルブラン公爵だ。俺は王命とやらを無視してジャン・ルブランを抱きかかえた。


「レイモンド王子、お守りしますので、あなたもこの場を離れた方がいい」 


 立ち上がった時、レイモンド王子は大きく声を上げた。その言葉はまたしても戸惑うに十分なものだった。


「セシル! こいつは公爵を攫う気だ! 味方じゃない! こいつを最初に殺せ!」


 次の瞬間、セシルの鋭い視線が俺に向けられる。セシルは聖術で異端者と交戦しながら、俺に剣を向けた。そして新たに聖術を発動させる気なのか、聖言を呟きはじめる。


 近くにいるキルケは言った。「やばいっすよ、どうします?」


 確かに、面倒なことになった。ここでセシルと一戦を交えるとなると、瀕死の状態のルブラン公爵の命が危ない。直ちに、彼女に味方だと理解してもらう必要がある。


 俺はルブラン公爵を床に横たえてから剣を構え、前に飛んだ。すぐさまセシルの斬撃がこちらに向かって放たれるが、キルケの張った魔壁がそれを防いでくれた。


 俺の狙いはもちろん、セシルではない。セシルと交戦していた異端者だ。


(ルブラン公爵を守るには一瞬で決めるしかないだろう)


 この二ヶ月の間に俺は五人ほど異端者をファミリーに加えた。迎え入れたのは無情のキルケをはじめ、能力はさまざまだが、どれも強力な異端者ばかり。


 そして俺が発現する異端スキル「異端者の王」には異端者に忠誠を誓わせるたびに俺自身のステータスが上がる「王の増強」という能力がある。

 つまりそれは、ファミリーに異端者を加えるほどに俺の能力が上がることを意味する。


 俺は長剣を大きく振りかぶり、相手の肩に一閃を放った。その際、最近加入した「脱獄のソクラテ」という異端者が持つサブスキル「衝撃波」を発動し、ダメージを最大化させる。


 次の瞬間、異端者が纏う白金の甲冑がガシャン!と大きな音を立ててバラバラに砕け散った。

 

 そのまま相手の肩にも俺の一閃は食い込むが、やはり自己再生スキルを使われ、たちまちに傷は癒えていく。

 一方で俺の異端者の王スキルが作用しているのか、相手が狼狽えているのは明らか。即座に俺は剣を鞘に入れ、異端者の捕縛へと移行する。ただし彼女も俺と同じ状況判断をしたようだ。


「私に任せてください」

 その言葉と共に俺の横をふわりとした髪が過ぎていった。


 そして俺の目には捕縛術のお手本のような動きが映る。華麗かつしなやかな動き。セシルは相手の動きを封じつつ、瞬く間に捕縛紐で異端者を拘束する。


 俺はキルケにルブラン公爵を聖騎士団の救護班に連れていくよう指示をした。レイモンド王子はまだ何か叫んでいたが、キルケは「悪いっすね。王命なんで」と言ってルブラン公爵を連れて、この場を離れていった。


 捕縛を終えるとセシルは異端者から俺に視線を向けて言った。

「あなたは、誰? 今の動き、ただの私兵じゃない。まるで特級クラスの聖騎士のようだったけど」


「いや、俺は……」


 そこまで言いかけた時、脳にカノの声が響いた。


「あの! ドン! 聖騎士さんは無事まけましたが、今度は超絶やばい異端者に追われてます! ど、どうしたらいいですかね!」

 

 ゾクリと嫌な予感がした。俺はセシルに手早く言った。

「セシル様、俺はルブラン家のただの使いっ走りです。お気になさらず。では、別の仕事があるんで」


 俺はすぐさまジャン・ルブランの寝室を後にした。辺りでは相変わらず聖騎士たちの小競り合いが続いている。


 おそらく、大きな混乱を引き起こし、その隙にルブラン家の者を連れ去る、もしくは殺害するというのが今回の謀略の目的だろう。


 しかしルブラン家に聖騎士の剣を向けさせるなんて、三大闇ギルドだってできないはずだ。裏で糸を引く大物がいるはずだが、俺には誰だか見当もつかない。

 まぁ今は考えても仕方がない。とにかくカノと合流して、令嬢を守ることが先決だ。


 屋敷を出た時、思いがけない声を聞いた。

「そこの私兵! 待って!」


 振り返るとセシルの姿。俺のそばまで駆け寄るとセシルは言った。

「私も行きます」


「……、何を言っているんです? 」


「屋敷内の戦闘は予定通りあと数分で方がつきますからご安心を。今からはあなたの仕事とやらを手伝わせてください」


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― 新着の感想 ―
[気になる点] いやぁ、流石にこの状況で王子を疑わないのは無理があるのでは? それか事が終わって冷静になってからその辺りを考えるのかなぁ。
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