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裏切り者

 一夜経ち、ルブラン家の屋敷へ馬車で向かっている間、朝に発刊された王都新聞に目を通した。昨夜見た号外より詳細な記事が紙面には掲載されている。


 ルブラン公爵が襲撃されたのは巨石城から公爵の屋敷へ馬車で移動している間。顔を隠した五人が突然襲ったらしい。ルブラン家の護衛を務めていた聖騎士たちの必死の抵抗で命までは取られはしなかったが、今も予断を許さない状況のようだ。 


 襲撃者は逃亡し、素性は分からないが、聖騎士も複数人重傷を負っていることから、大物異端者が今回の襲撃に関わっているのは明らかだ。どこかの闇ギルドも関わっているはずだが、それ以上詳細な情報は掲載されていなかった。


 一人、新聞に目を通しているとカノが不安げに言った。

「ドン、本当に今回の依頼を担当するのはこの三人で良かったんでしょうか……」


 今回、エレナ・ルブランの警護依頼は俺の他にカノ、そしてミチーノファミリーに加入したばかりの異端者を選んだ。


 そしてとある異端者はカノの肩を笑顔でバンバンと叩いた。

「カノ! 心配することはないさ。ガンビーノ時代、私は任された依頼は全て成功させてきたからね! 唯一失敗したのはミチーノファミリーへの報復だけなんだから」


 そう笑う女はピットの酒蔵を爆破した張本人で、あのカポネの狂犬グリッツが頭のネジが外れていると称した異端者。そう、無常のキルケと呼ばれる魔女である。


 なぜこの異端者が俺とカノが乗る馬車にいるかというと、ずばり、キルケはミチーノファミリーに加入したからだ。


 俺とマニーナでキルケを撃破した後、彼女の身柄は所属ギルドであるガンビーノファミリーに送り返した。これ以上抗争するつもりはないという意思表示のためだったのだが、キルケは再び敗者の街区に現れたのだ。


 俺はニーナを連れて再び戦闘体制をとったが、キルケは予想外の行動をとった。俺の前で跪き、忠誠を誓いたいと口にしたのだ。


 なんでもマニーナの魔術を目の当たりにしてから自分のちっぽけさを自覚し、さらにそのマニーナを手なづける俺に畏敬の念が覚えたのだという。


 そんな言葉は少しも信用しなかったが、この異端者の能力については興味が湧いた。能力だけでも鑑定してみようと思い、キルケに俺は手を差し出したのだ。そしてその結果に俺は驚いてしまった。

 

 結果、キルケの忠誠心はなんと80。王命により婚姻、性交、奴隷化が可能なほど忠誠心が高かったのだ。

 忠誠心の高さには半信半疑だったが、ガンビーノに無理に返してもまた悪さをするだけだろうと思い、うちのファミリーに加入してもらうことになったわけだ。

 もちろんこれはミチーノファミリーの戦力が大幅に増強されたことを意味する。


 カノは言った。

「ドンはキルケさんのことを信頼しているようですが、私は信用してませんからね。ガンビーノのスパイだと思って接しますから。裏切られた時悲しくなるのは嫌ですから」


「裏切ったりしないから、仲良くやろうじゃないの!」

 そう言ってキルケはカノの頭をぐりぐりと撫でた。


 今回の依頼にあたって俺の顔はもちろん、キルケの顔もまた俺の「裏の顔」スキルで変えてある。以前までは自分の顔しか変えることができなかったが、グリッツ戦に勝利した時にスキルが解放され、俺は自分以外の異端者の顔を一人変えることが可能になったのだ。

 もちろんキルケは聖騎士団から追われている身。このスキルがなければ連れてこなかった。



 馬車が進むにつれ聖騎士の姿がちらほら目につくようになった。

 特にルブラン家の屋敷の周りは多くの聖騎士が警備にあたっており、物々しい雰囲気に包まれている。俺たちは多少顔見知りの門番にルブラン家からの書簡を見せ、魔導機による異端スキルのチェックを受けてから屋敷に入ることが許されるが、聖騎士は訝しげな顔で俺たちを一瞥した。


 話によればこの屋敷には傷を負ったジャン・ルブランが床に伏せているそうで、屋敷内もまた厳戒態勢が敷かれていた。


 カノは尖った耳を不安げにピクピクさせた。

「なんでルブラン家は私たちなんかに依頼したのでしょうね。これだけ聖騎士さんがいれば十分守りは鉄壁のような気がしますが……」


 それは俺も同感だ。数が多いだけじゃなく、地方から有力な聖騎士も呼び出されているようで、騎士全体のレベルも高い。

 

 俺たち三人は小さな個室で、エレナ・ルブラン令嬢専属の執事から今回の依頼の内容を伝えられた。


 なんでもルブラン家の私兵になりすまし、独自にエレナ・ルブラン令嬢を警護して欲しいとのこと。俺たち三人はルブラン家の紋章が刻まれた顔まで隠れる甲冑を着るようにも指示をされた。

 

 俺は当然の疑問を口にした。

「なぜ、我々に令嬢の警護を依頼したのです? これだけの聖騎士がいればお嬢様が危険に晒されることもそうはないのではないですか?」


 執事はあたかもこの場の会話が盗み聞きされているかのように声を顰めた。

「その聖騎士団が信用ならないからあなた方の力が必要なのです」


「どう言うことでしょう?」


 次に、執事は耳を疑うようなことを口にした。

「今回の襲撃に加担した者たちに、旦那様を警護していた聖騎士の一人が協力していたのです。この情報は聖騎士団の要請で表には出てはいませんが……」

 

 その聖騎士は取り押さえられ、今は取り調べを受けているそうだが、自分はやっていないなどと不明瞭な供述をしているという。


 断片的な状況しか掴めない中、執事に貸し出された甲冑を身に纏っていると、部屋の外が騒がしくなった。

 執事は慌てた様子で言った。「レイモンド王子が旦那様のお見舞いに来られたようです。目立たないよう、あなた方も身支度を整えて、王子をお迎えしてください」


 急いで甲冑を着て、執事の後をついていくとセシルの姿が目に入った。そしてセシルの先導で屋敷に入ってきたのはレイモンド王子。


 玄関ホールにずらりと並んだ聖騎士は一斉に片膝をつき頭を下げた。本来なら俺もそれに倣うべきなのだが、俺はしばらく身動きせず立ち尽くした。

 近くにいた聖騎士の「そこのお前、無礼だぞ」という囁き声が聞こえて、ようやく我に帰り、俺は跪く。その後も今し方見た光景が脳裏に鮮明に残っていた。


 跪きながら俺はカノのスキル「サイレントボイス」を発動した。サイレントボイスは他者に聞かれることなく直接伝えたい相手に言葉を送る能力。俺はファミリー二人に伝えた。


「注意しろ、王子のすぐ真裏にいる聖騎士の甲冑を着た男は異端者だ。行動次第ですぐに取り押さえ、場合によっては尋問する」


 もちろん現時点ではあの異端者が敵かどうかはわからない。俺たちのように特別警備のために雇われた異端者という可能性だってあるのだ。とにかく聖騎士団が当てにならない以上、常に情報を伝達して三人が連携する必要がある。


 ただサイレントボイスを通して返ってきた声は思いがけないものだった。


「レ、レオン?」


 俺の脳にはセシルの戸惑う声が響いていた。


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