聖騎士団副団長ナダエルという男
相変わらず憎たらしい笑みだった。
副団長ナダエルは満足げな笑みを浮かべて堂々と洞窟内に入ってきた。後ろにはナダエル配下の上級騎士五名とバンピー。バンピーもニタニタと笑みを浮かべていた。
ナダエルは洞窟内を見渡す。「ほぉ、なるほどここがセシル様が通われていた場所か」
一通り洞窟内を眺めた後、俺を見定めた。
「もうすぐ異端審問を執り行う人物がくる。正式な手順に則りお前を裁くことになる。レオン・シュタイン」
「俺に異端審問? 一体なんの理由で?」
「白々しいぞ。レオン・シュタイン。お前が異端者であることは明白だ。そうでなければ異端スキル「十六夜の分身」を持つカイルに勝利できるはずもない」
なるほど先ほど戦闘した男は手配書に上がるほどの実力者カイル・ブレイドリーだったのか。でもなぜそれほどの男が俺を襲い、さらに何者かによってあっけなく殺されたというのだろう。
俺はまじまじと聖騎士団副団長ナダエルの顔を見た。一体、この男は何者なんだ?
ナダエルは続けて言った。
「さらにお前がミチーノ商会なる闇ギルドに所属している事実もつかんでいる。それだけでない。王都の一般人に暴行を加え、ここにいる聖騎士バンピーを連れ去った罪。さらには西の湖畔で闇ギルド同士の抗争を繰り広げ、一人を殺害。流石のセシル様もお前をかばいきれないだろう」
「そもそもお前が闇ギルドに依頼して俺を襲撃したんじゃないか」
ナダエルの皮肉な笑みが一層濃くなった。
「闇ギルドに依頼? なんのことだか分からないな。バンピー、確認のために尋ねるが私の話すことに間違いはあるか?」
バンピーは言った。
「いいえ。僕はそこのレオン・シュタインに連れ去られた上に暴行を受けました。途中、闇ギルド同士の抗争に巻き込まれてしまい、本当に恐ろしかったです。なんとかレオン・シュタインの捕縛に成功したのは本当に奇跡としか言いようがありません」
「観念しろ、レオン・シュタイン。それにお前が所属しているミチーノファミリーも今日でおしまいだ。お前のボス、ドン・ミチーノも今頃尋問を受けていることだろう」
「尋問? どういうことだ」
「あの小さな闇ギルドの強制調査を執行したのだ。所属する異端者はお前と一緒に処刑されることだろう」
最悪の事態だ。強制的に調査されれば、ファミリー全員の左腕に刻まれるスキルが騎士たちによって視認されることになる。
ただ希望がないわけではない。カノとソフィアが機転よく動けば、状況を打開できる可能性もある。
なんにせよ俺がここで捕まるわけにはいかない。たとえ無駄な抵抗でも、最後まで足掻いてやろう。そう思い、剣を握ろうとした時、また石壁が音を立て開き始めた。
ナダエルは一番耳にしたくない言葉を口にした。
「セシル様が到着なされたようだ。喜べ、お前の異端審問はセシル様自身に執り行ってもらう。そしてお前の処刑にはレイモンド王子が立ち会うことになるだろう。これは実に名誉なことだぞ。ゆくゆくの王と皇后がお前の死を見守るのだからな」