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謀略

 取り囲む襲撃者たちは容赦無く俺をめがけて弓矢を放った。俺は反射的に矢を避けつつ、剣で鏃を叩いた。しばらく無数の弓矢と格闘しているとバンピーが肩を抑えながらうめき声をあげる。指の間からは赤い血が滴り落ちていた。


「おいバンピー! これを使ってなんとかしのげ!」


 俺は腰にかかった予備の短剣をバンピーに投げながら叫ぶ。バンピーは剣を受け取るが表情は完全に青ざめている。


「弓矢を剣で防ぐなんて無理に決まってるだろ!」


「お前は天下の王都聖騎士団に所属する聖騎士だろ! どんな状況でも全力を尽くせ!」


 話している間も弓矢は降り注いでくる。剣筋のスピードを最大限までにあげて対処するが、バンピーは全く対処できず今度は二の腕をグサリと弓矢が貫いた。何してんだよと思いつつ、続いてバンピーの顔面めがけて飛んできた弓矢を剣ではじき返した。


「このままだとお前死ぬぞ!」


「なぁレオン、お前、飛ぶ弓矢の動きが見えるのか……?」


「気配で感じれば対応できるだろ!」


 俺はまたバンピーに向かってきた弓矢を剣先で弾いた。


 そうしている間もバンピーの傷口からは血液が滴り続け、顔色もみるみる悪くなっていた。


 どうしたらいい?そもそもあいつらは誰なんだ。ガンビーノファミリーの報復?それならなぜバンピーも狙うのだ。聖騎士殺しは大罪な上に下級騎士を狙って何かの利があるとは思えない。


 俺は体を動かしながら敵の位置を把握する。湖畔を背中にして完全に俺たちは取り囲まれている。布で顔を隠しているから全く正体が読めない。


 その時、馬が鋭く嘶くのが聞こえた。ロープで木にくくりつけておいた俺の馬が体を激しく揺らしていた。矢が腹に刺さっているのが見える。

 俺が何かをしなければ人一人、馬一匹が死ぬことになる。ここを警護現場だと思い、全力で動け、レオン・シュタイン。


「バンピー、お前が今まで捕縛してきた異端者数は何人だ?」


「……知っての通りお前と同じでゼロだよ」


「喜べ、ここを切り抜けたらお前もようやく中級騎士になれるぞ」


 怪訝な顔つきのバンピーに「だから何としてでも生きろ」そう言ってからさっとこの場を離れた。やはり相手のメインの狙いは俺だ。目論見通り矢は俺を追うようにして飛んできた。


 矢をかわしつつ走るスピードを上げる。俺は走りながら落ちていた太めの木の棒を拾い、茂みの中で弓を構える一人に狙いを定めて猛スピードで枝を振り下ろす。致命傷にならないよう力を加減しつつ頭を打つと狙い通り弓使いは地面に崩れ落ちた。


 一度茂みに入ってしまえばここは俺の庭といってもいいくらいの場所だ。俺とセシル以上にこの湖畔を囲む森林地帯を知っている者はいない。俺は次々に弓使いの頭を木の棒で打ち、気絶させていった。


 ただ弓使いを打ち倒しているうちに妙なことに気づいた。地面に崩れ落ちた男がしばらくすると姿が消えるのだ。そして再び似たような姿格好の男が別の場所で俺に狙いを定めている。


 しばらく襲撃者と交戦するにつれ、相手の異端スキル能力を理解する。


(つまりこの弓使い達は本体の異端者の分身ってわけか……)


 おそらく本体の異端者は別の場所にいるのだ。間違いなくこの能力から言って相当な実力の持ち主。一体誰の差金なのかと疑問は広がるばかりだが、今は考えている余裕はない。


 湖の方に目をやるといつの間にかバンピーが地面に倒れている。息をしている様子だが、出血は激しい。モタモタしていると元同僚が命を落とすことになる。


 一気に決めないといけないが、いくら敵を叩いてもデコイばかりだ。どこに本体がいる?俺は森を高速で移動しながら考えを巡らす。そして自分の能力の一つを思い起こす。


(そうだ。俺は異端者を示す頭上の靄が見えるんだ)


 走りながら俺を取り囲み、矢を放つ襲撃者たちに視線を送る。やはり、どの男の頭上にも靄は浮いていない。


 俺は意識を集中してミチーノ・ファミリーに所属する異端者達のスキル一覧を目の前に表示させた。巨石城に侵入してから数日経ったがニーナの「死霊召喚」はいまだに使用不可だ。ただし、そのほかのスキルで使えるものがある。


(カノ、力を貸してくれ)


 俺はカノのサブスキル「索敵」を発動した。その途端、脳に新たな地図が広がったかのように周りにいる人物の位置がはっきりと手に取るように分かる。この場にいるものは三名。湖近くで横になるバンピー、俺、そして森の中に動こうともせず留まっている人物が一人いる。



 俺は周りにいる偽の襲撃者を無視して、その人物に狙いを定めた。木の棒を捨て、長剣を抜きながら全速力で相手に向かう。


 そして男が視界に入った時、俺の読みが当たっていたことを知る。頭上には靄がかった古代文字。こいつが本体の異端者だ。


 俺がその男に向かって斬りかかると、男は慌てた様子で腰から剣を抜いて斬撃を受け止めた。

 

 剣と剣で交戦している間も周りには男の分身が現れ、俺に向けて矢を放つ。ただし、本体が動揺しているからか数はまばらで避けるのは容易だ。


 俺は圧倒するため、上段から全力で剣を振りかぶる。男は弾いて防ごうとするが、俺の技量が上をいった。


 俺は男の剣を真っ二つに叩き折った。すかさず、男の鳩尾に蹴りをぶちこむ。


「うぐぅ!!!」

 男は腹を押さえて地面に座り込んだ。俺は男の首元に剣を突きつける。


「今回の襲撃を指示した人物、そして目的を教えろ」


 俺はそう言葉にしながらも今現在の状況がまるで分からなくなっていた。まず、カノのスキル「索敵」はこの湖畔に俺のよく知る人物が近づいてきていることを伝えていた。


(ナダエルとその部下五名……)


 そして同時に目の前では思っても見ないことが起こり始めていた。

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