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存在するはずのない魔物(セシル視点)

 剣術のレベルから言って只者じゃないことはすぐにわかった。仲間一人を守りながら私とリリスの剣を同時に受け止められるなんて普通じゃない。


 そして、これはなに?一体何が起きているの?


 兜を脱がそうとした時、地震が起きたかのように地下が地響きを立て始めた。魔術のようなものを使われた形跡はまるで感じない。それよりも何か異様なスキルが発動したように感じた。


「リリス、気をつけて!団長として情けないけど何が起きるかちょっとわからない!」


 私はそう叫びながら、聖騎士の鎧を纏う異端者からさっと離れた。聖術「ゲツセマネの祈り」で自由を奪ったのにも関わらず、スキルを発動されるとは予想だにしていなかった。


 地下全体が轟音を立てながら揺れ、粉塵が視界を覆った。これに乗じて逃げるつもりかと、侵入者を見定めるが二人は動き出す様子はない。まだ聖術はしっかり異端者の動きを封じているらしい。二人の狙いはなんだ?


 その時、「団長!」リリスの叫び声が聞こえた。


 振り向くと、リリスは何かに取り囲まれていた。地面から生まれ出た石の塊、骨のようなものが組み合わさり、一つの集合体を形成している。命が宿った魔物とも思えない、おそらくアンデッド。そして地面から次々とアンデッドが姿を現した。


 唖然としている間に私も無数のアンデッドに囲まれてしまった。手っ取り早いのは聖術を使って一網打尽にすることだが、一つ問題がある。聖術を複数発動すると、必然的に先ほど使った聖術の効力が弱まることになる。それに、地下で攻撃系の聖術を発動するのはこちら側にも危険を伴う。


「リリス、アンデッド達を一気に片付けるわよ!」


 私は目の前のアンデッドに向かって剣を振りかざした。予想したとおり、聖属性が最大限に備わった私の打撃はアンデッドに面白いくらいに効いた。切りつけるたびにアンデッドは次々と崩れ落ちていく。リリスも同じように、次々とアンデッド達を打ち倒していった。


「でもこれじゃきりがない!」


 倒しても倒しても、アンデッド達は地面から雨後の筍のように生成し続ける。アンデッドを操る悪霊使い(ソーサラー)と対峙したことは過去に何度かあるけど、ここまで強力な使い手は記憶にない。


 一体どんな理由でこんな規格外の異端者が巨石城の地下なんかに侵入したと言うのだろう?何が何だかまるで分からない。ともあれやることは一つだ。


「リリス!聖術で一気にアンデッドを消し去る!リリスは侵入者をなんとしてでも捕縛して!多少動けるようになっても、さっきの聖術で二人の動きは鈍っているはず!」


「了解です!団長!」


 聖属性の爆発を起こせばアンデッドも一時的に消え去るだろう。私は聖言を呟く。汚れ多き魂は聖なる光でもって殲滅する。


 聖言をつぶやいている間もアンデッド達は一心不乱に私に襲いかかってくる。私は剣で薙ぎ払いながら聖言を詠唱し続ける。そんなに暴れなくても、すぐにおとなしくしてあげるから。あなた達の汚い魂は聖女である私が浄化してあげる。詠唱が終わる直前、大きな声が地下内に響いた。


「セシ!後ろ!気をつけろ!」


 聞き覚えのある声に戸惑いながら後ろを振り返ると、一際身体の大きなアンデッドがいつの間にか剣を振りかざしていた。巨大な軍馬に乗る、首のない騎士。この姿形はまさか、デュラハン?確か、かつて存在した魔王が好んで操っていたとされる魔物。


 《《なぜこんな魔物が今の時代に存在しているの》》?


 私は咄嗟に剣でデュラハンの一撃を防ぎ、すかさず巨大なデュラハンを切りつける。他のアンデッドとは違い、一撃じゃ倒すことはできない。


 格闘しながらも私の意識は目の前のデュラハンより、あの異端者に向いている。


 間違いない。今、私に注意を促したのは外でもない聖騎士の甲冑をまとう侵入者だ。


 何よりも……


(私をセシと呼ぶ人はこの世界にただ一人)


 集中力が途切れてしまったせいだろう。照らしていた光が弱まり、洞窟内は仄暗いものとなっている。

 

 デュラハンを叩き斬るとすぐに戦闘中のことも忘れて侵入者に向かって走り寄る。万が一レオンがこんな場所に来てしまったというなら、聖術が使えない彼が危ない。


「レオン! 今、助ける!」


 私は侵入者の兜を一思いに剥ぎ取った。


(えっ……?)


 甲冑の中は空洞。そこには人の姿はなかったのだ。辺りを見回すが、侵入者の姿はない。まさかこの私がしてやられたと言うの?


 リリスに侵入者を探すよう指示を送ろうとするが、無数のアンデッドと戦闘するリリスが劣勢に立たされている。


 仕方がなく、私は先ほどまで詠唱していた聖術を発動した。そして次の瞬間、轟音と共に視界が粉塵で埋め尽くされ、次に耳をつんざくアンデッドたちの悲鳴が地下室内に響き渡っていた。


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