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聖騎士団で一番会いたくない人物

 俺とマニーナが二手に分かれた時、キルケは鼻で笑った。

「逃げてばっかのザコにガキが足されても私に勝てるわけないんだけど」


 その声と共に無数の火球が俺とマニーナに放たれた。俺はすんでのところでそれを避けるが、マニーナは微動だにしない。どうもマニーナにも防御魔壁が張られているらしく、火球はマニーナに当たる前にかき消えてしまった。


 キルケの注意がマニーナに向いた。

「へぇそこのガキ、ちょっとは魔術が扱えるみたいじゃない」


 キルケは無数の火球と氷柱を放つが、マニーナに当たることなく全てかき消えてしまう。さすが魔王と言ったところだが、今の状態でもマニーナのスタミナは削れていることだろう。俺は俺の仕事をしなければならない。

 

 呆気に取られた顔でマニーナを見つめるキルケに向かって俺は一閃を振るった。


 キルケはまるで隙だらけだが、俺の斬撃は見えない何かに弾かれてしまう。間違いなく、これは防御魔壁。しかもかなり強力な魔壁で、硬い岩を切りつけたような感触が手に残る。

 

 キルケは笑いながらこちらを向いた。

「無駄だよ! ザコ! あんたの攻撃なんて私には効かないから!」


 お返しとばかりにキルケが火球を飛ばしてくるので、ギリギリのところで剣で受け止める。火の粉が弾け、ジリっと頬の皮膚を焼いた。

 俺はしばらく火球と氷柱を避けながら、キルケに向けて斬撃を放ち続けた。ただしどれも防御魔壁が邪魔してキルケ本体にまでは届かない。


「ザコ! ザコ! ザコ! あんたは弱いばかりか、学習能力もない馬鹿だ!」


 そう嘲るキルケのいう通り、いくら斬りつけても少しも手応えがない。やはり俺程度の能力じゃキルケには手も足もでないってわけか?焦りを感じながら交戦しているとマニーナの声が耳に届いた。


「無駄ではないぞ! 魔壁はすでに三枚剥がれておる! 我の力が残っているうちに一気に決めるのじゃ!」


 そのマニーナの言葉にキルケの表情が初めて歪んだ。

「私の魔壁が見れるってあのガキ何者なのよ」


 キルケは先の鋭い氷柱を手で握り、俺の剣を直接受け止め始めた。なるほど、魔壁が剥がれるのを嫌がっているらしい。ただ接近戦なら俺に分がある。


 一気にスピードを上げ、キルケ周辺に張られているであろう魔壁に狙いを定めた。先ほどマニーナに見せてもらったステータスの通り、能力が格段に上がっているらしい。ギアを上げるとキルケが使う魔術の弾幕など関係なく、見えない魔壁を削ることができる。


 数十手、斬撃を浴びせた時、ついに手応えがあった。キルケの腕に俺の長剣が触れたのだ。皮膚を硬化させているようで致命傷にはならなかったが、確かに赤い血が腕から流れている。


「マニーナ! ここからはお前の番だ!」

 

 魔壁を破壊したことを確認すると、俺はすかさず後ろに飛んだ。実は先ほどから俺はただならぬ力を感じていたのだ。そして空を見上げると、俺は呆然としてしまった。


 キルケは「あれ」に気づいていない様子だ。

「まさか、私を傷つけておいて逃げるんじゃないでしょうね! 上からは殺すなと言われてきたけど、あんたは絶対に私が殺すから!」


 そう言い連ねるキルケだが俺の視線にようやく気づいて天を見上げた。キルケからサッと血の気が引いたのがありありと分かった。


「何よこれ……、嘘でしょう……」

 

 空に浮かぶのはキルケが生み出す火球とは比べ物にならないくらい巨大な火炎の海。燃え盛る火炎はマグマのようにうねりながら、徐々にドラゴンのような形へと姿を変えていく。そしてその火竜はキルケ目掛けて落下していった。


「えっ?やめて!助けて!なんなのよこれ!!!」


 マニーナの笑い声が響いた。

「ザコ魔術師よ、喜びで打ち震えるがいい!我が古来から伝わる《《本物》》の魔術を見せてやろう!ただし!泣き叫ぶ顔が見たいのですぐには死ぬな! 懸命に生き抜くのじゃ!!」

 



 それから、ほんの数分後、世間を恐怖で震え上がらせた無情のキルケは涙をボロボロと流しながら、土下座をしていた。服は焼けてしまいほぼ半裸の状態だ。


「私のような少し魔術を齧っただけのようなザコ魔術師があろうことかドン・ミチーノ様とマニーナ魔王さまを侮辱してしまったことをお許しください。もう二度と舐めた態度をとったりしないとここに誓います」


 マニーナはご満悦だ。

「カッカッカ! 相手を過小評価しすぐに舐めた態度を取るのはうぬの一族の特性! 何百年経ってもうぬには同じ血が脈々と流れているといわけじゃ!」 


 その言葉にキルケはよく理解していない様子だが平身低頭、頭を下げ続けた。ただ少しずつマニーナが変調をきたし始めてきた。目つきがトロンとしてきて、あくびを連発し始めたのだ。これは、間違いなく眠る直前。


 俺はキルケに聞こえないようマニーナの耳元で囁いた。

「マニーナ、大丈夫か? 眠そうだが」


「そりゃそうじゃ。まだ体力は万全ではない中、あれだけの魔術を使ったのじゃ!眠くもなる!でも安心するのじゃ、一週間ほど寝れば体力万全じゃ!カッカッカ!じゃあ寝るから抱っこするが良い!」


 地面に倒れ込もうとするニーナの身体を支えようとした瞬間、キルケがさっと立ち上がる。


「この瞬間を待っていた! このガキの魔力は馬鹿強いが体力がないことは分かりきっていたこと! 一対一ならワンチャン勝てる!」


 そう言いながら手のひらに火球を生み出そうとするキルケ。俺も全力で動いてキルケに向けて剣を振るう。


 まさに間一髪。剣の柄で後頭部を打つと、キルケはうめきながら地面に倒れ込んだ。


「愚かだな。流石にキルケといえど、これだけの傷を負っていたら元騎士の俺が倒せないわけがないだろ」


 それにしてもマニーナの魔術おかげではあるが、まさか元下級聖騎士のこの俺が無情のキルケを捕縛することになるとは不思議なものだ。セシルや他の騎士団の同僚がこの光景を見たら度肝を抜かれることだろう。


 あらかじめ用意しておいた捕縛紐でキルケを拘束しているとカノが慌てた様子でやってきた。

「ドン! 大丈夫ですか!?」


「ああ、ニーナと魔王さんのおかげで何とかなったよ」


「それじゃ、すぐずらかりましょう! 聖騎士団がこの街に近づいてきています! 多分この異端者を追ってきたんですよ!」


 カノが言うなら間違いない。キルケクラスの異端者の動向は常時騎士団が追っているのはよく知るところだ。俺は眠るニーナと捕縛したばかりのキルケを担いで闇ギルド本部に向かった。

 


 ただ本部に帰った後も落ち着かない。未だ火が燻るピットの酒蔵跡を見たら何か特別なことが起きたのは明らかだ。変に聖騎士団に目をつけられなければいいが、そんなことを考えていたら受付係のサニが部屋にやってきた。

 

 そしてサニの口から飛び出したのは今の状況で一番聞きたくない名前だった。

「ドン、お客さんだよ。聖騎士団副団長のナダエルって人。追い返した方がいい?」

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