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異端スキルの全貌

 キルケは感心したように言った。

「へぇ、結構早く動けるんだぁ」


 次々と起こる爆発の中、俺はニーナを片腕で抱えたまま寸前のところで避け続けていた。カノは無事にピットを抱えてこの場を離れたみたいだ。ピットも憧れのカノに抱きかかえてもらえてさぞかし嬉しいことだろう、そんな余計なことを考えていると、爆発で吹っ飛びそうになる。


 聖騎士はこの手の魔術使いと戦闘する時は聖術を駆使して戦いを進めるのが普通だ。聖なる力で相手を緊縛したり、光玉を現出させて飛び道具的に使用したりと、聖術が扱えれば異端者と対峙する時にはかなり有効な手段となる。


 ただ聖術はスキル発現とともに習得するので、無能だった俺はまるで扱えない。だから今戦闘中のキルケのような魔術使いとも俺は剣一本で対抗しなければならないのだ。能力の低い異端者なら容易に戦えるが、無情のキルケは流石に荷が重い。


 片手にニーナを抱き、もう一方の手で長剣を握り反撃の機会を伺うが、次々と起こる爆発を避けるのがやっとだ。


 その時、腕の中のニーナが口を開いた。

「ドン、魔王さんがドンだったらあの魔術使いに簡単に勝てると言っている」


「いやいや簡単なわけないだろう。相手は何人もの聖騎士に重傷を負わせてきた強力な魔術使いだ。俺みたいな下っ端騎士にはなかなか手に負える相手ではない。ところでニーナ、魔王の器スキルは発動できそうか?」


 ニーナをこの場に残したのも魔王の力があればキルケに対抗できると考えたからだ。


 ニーナは首を振った。

「魔王さん、あの魔女は手下みたいなものだから戦いたくないと言っている」

「はぁ?」


 帰ってきた斜め上の回答に言葉もない。こうしている間にも爆発に加え、どでかい火球が放り込まれてくる。俺は瓦礫の背後にさっと隠れ、息を整えた。


 キルケの声が響いた。

「逃げてばっかりの雑魚だからこんなスラムでしか生きていけないのさ!」


 続いて近くでまた大きな爆発が起こり爆風にさらされた。


 俺はニーナの頭を撫でた。

「ニーナ、悪かったな。こんなところに連れてきてしまって。俺があいつを引きつけるからその間に逃げてギルド本部に戻れるか?」


 ニーナは再び首を振った。

「私、ドンの助けになりたい」


「その気持ちはありがたいが、ここは危険すぎる」


「私、魔王さんを説得できる」


「説得?」


「魔王さん、雑魚って言われたの少し気にしている。魔王さんが乗り気になるまで、ドンはさっきみたいに私を抱えて時間稼ぎをしてほしい」


 いや、雑魚って言われたのは魔王じゃなくて俺なんだけど、そう答えようとすると、確かにニーナの周りには黒い煙が立ちはじめていた。


「わかった、時間を稼ぐ。ただ説得が失敗したら自分の安全だけを考えろよ」


 俺はニーナを抱えたまま瓦礫から飛び出し、再び素早く動きはじめた。四方から爆発、火球、氷柱が襲ってくるが、スピードを上げてなんとか対処する。聖術は使えないが基礎身体能力だけは聖騎士団でも最上位クラスだった。慣れてくればこれくらいは容易だ。


 耳にはキルケの笑い声が聞こえた。


「雑魚、雑魚、雑魚! 鼠のように逃げることしかできない雑魚だあんたは!」


 この際、相手の煽りは俺にとって好都合だ。キルケの口から雑魚という言葉が吐かれるごとにニーナを覆う黒い煙は濃くなっていく。


「死ぬのを恥じなくてもいい! なんせあんたを殺したのは世界一の黒魔術使い、無情のキルケ様なんだから!」


 その言葉が廃墟に響いた時、俺の腕の中から嘲るような声が聞こえた。


「お前程度が世界一のわけないっつーの」


 いつの間にか俺の腕の中にいるのは魔王マニーナだ。俺に抱き抱えられたままマニーナは紫の瞳をこちらに向け、なぜだか顔を赤く染めた。

「魔王の我を片手で抱いたのも、胸に手を触れたのもそなたが歴史上初めてじゃぞ」

 

 そう言われて初めて、左手に感じる柔らかな領域に意識が向いた。

「いや、それは今の状況では仕方がないだろ! っていうかなんで魔王化すると胸がこんなに大きくなるんだよ!」


「き、気にするでない。ニーナの恩人であるそなただったらいいのじゃ。どうこれを賞味しようが」


「いやいや、そういうことをするつもりはない!」


 そういえば、魔王マニーナの映し絵が収められた「第三紀元 魔王マニーナ図録」を見ながら「俺たちのアイドル、マニーナちゃんは童顔の美女。それなのに体は成熟したフルボディ。このアンバランスさがいいんだよ!」そう熱弁していた聖騎士訓練学校の同期がいたっけ。あいつだったら今の状況を泣いて喜ぶだろうな、なんてことを考えている状況では少なくともない。


「とにかくだ、マニーナ、あの魔女との戦闘に加勢してほしい」


「まだ礼をしていなかったのでな。早速、我を雑魚扱いしたあのクソ生意気な魔女をフルボッコにした上で土下座させたいところではあるが、実は我一人では勝てないのじゃ」


「おい、さっきはニーナを通して俺でも簡単に勝てるとか言ってなかったか?」


 マニーナは「一番はスタミナの問題じゃ」と言った。

「あやつは体に防御魔壁を複数層張っている。以前にも話した通り、我はすぐ眠くなる。あの魔壁を破壊したのちに、本体を仕留められるほどのスタミナがない」


 確かにこの前のポルナイでは馬鹿でかい火球を出現させてからすぐに眠ってしまった。そう長くは魔王状態を維持できないのだろう。


 俺は相手の死角となる崩れた壁に背を向け、マニーナを地面に下ろした。

「つまり、俺に魔壁を破壊しろと?」


「そうじゃ。魔壁がなくなれば一撃で仕留められる」


 やれやれ、それじゃあの強力な弾幕をかいくぐり、直接打撃を与えないといけないわけか。


 マニーナは言った。

「一つ疑問じゃが、なぜ、そんなに能力を出し惜しみするのだ? 何か動きに枷がついているように見えるが」


「枷? 俺の能力はこんなものだぞ」


「恐らくじゃが、異端スキルが発現する前の自分をイメージして動いてはいないか? スキル発現で能力値そのものも変化しているはずじゃ」


「能力値が変化?」


「そなたの能力のビフォー、アフターを見てみるがいい」


 魔王マニーナがそう言うと、目の前に古代文字が浮かび上がった。


Before

レオン・シュタイン

種族:人

スキル:未発現

ATK:120

DEF:100

DEX:120

HP:200

MANA:0

CHARM:50


After

ドン・ミチーノことレオン・シュタイン

種族:人

スキル:異端者の王

王の慧眼 (忠誠を誓わせた異端者の鑑定可能)

王の威光 (異端者の忠誠心を獲得可能)

王の庇護 (異端スキル検出能力の妨害可能)

王の増強 (忠誠を誓わせた異端者の能力値を自身に自動付加)

サブスキル:裏の顔


ステータス

ATK:120 → 190

DEF:100 → 170

DEX:120 → 180

HP:200 → 350

MANA:0 → 2000

CHARM:50 → 120


 俺は眼前に現れた自分の鑑定結果に目を奪われた。忠誠を誓う異端者のスキルは鑑定できても、自分の能力は知らなかったのだ。そしてこれはどういうことだ?スキルが発現しただけじゃなく基礎能力もかなり向上しているではないか。


「それは王の増強という能力が関連しておる。その能力は忠誠を誓わせた異端者の力の一部を王自身の基礎能力に付加できるというもの。基礎能力が向上して当然じゃ」


 そういえば異端スキルが発現してから、本格的な戦闘はこれが初めて。以前と変わらずトレーニングは続けているし、最近成長速度が速いと感じていたが、ここまで上昇していたとは知らなかった。


 魔王マニーナは俺の肩を叩いた。

「これからの戦いは王と王の共闘じゃ。二人の力であのふざけた弱小魔女を叩き潰し、二度と我々に顔向けできないほどに尊厳を踏み躙ろうぞ!」

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