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闇ギルド本部は風呂なしです

「サニ、箒を振り回したらダメ」

 ニーナはサニが振り回す箒の柄を掴んで言った。「掃除の時間なんだから」


「ニーナは魔王のくせして綺麗好きなんだね」


「誰だって掃除くらいする。それに私は魔王じゃない。ただの器。それよりサニ、これを一緒に片付けよう」


「はーい」


 ニーナは無口で初めはよそよそしかったが、ファミリーで数ヶ月暮らすとだいぶ表情が柔らかくなった。年齢が近いこともあってかサニと意気投合し、二人はいつも一緒に行動している。


 そして今日は屋敷の掃除と大修繕。使っている部屋以外は荒れ放題で、無数の蜘蛛の巣がかかっていたが、皆で力を合わせて掃除をしていくとみるみるうちに古びた屋敷は若返っていった。


「よーし、みんな頑張ったな。見違えるほど綺麗になったぞ」


 もともとカノとサニが拠点として使っていたこの屋敷は廃屋同然だったが修繕をしていくとなかなか立派なものだ。荒れてはいるが元は腕のいい職人が携わったであろうことは素人の俺でも分かった。


「でも本当に無許可でここを使ってもいいのか?」


 俺たちは勝手に敗者の街区にあるこの廃墟の屋敷をミチーノファミリーの本部ということにしているが、元の所有者がいてもおかしくはない。カノは胸を張って言った。


「もちろんです! なんせこの屋敷はすごーく昔に、今はもうない闇ギルドのファミリーが実際に使っていた本部だったという話ですよ」


「昔、闇ギルドがここを使っていた? 本当かよ」


「ファミリーは不幸な最期を迎えたそうで、街の住人は不吉だってことで近寄らないので、私たちが使っていたというわけです。ちなみにミチーノファミリーという名前もその闇ギルドからお借りしたんですよ」


 そういえば敗者の街区の住人はここをお化け屋敷と呼んでいたのを思い出す。まぁなんにせよ、古いとはいえこんな立派な屋敷を使えるのは幸運なことだ。


 カノは準備しておいた看板を持ち上げて言った。

「ではドン、この看板を表に掲げましょう」


「ああ、そうだな」


 雨風で傷んだ屋敷の外壁も修繕したので外からの見た目も以前よりはだいぶマシだ。俺とカノは屋根に飛び移り、敗者の街区に住む元大工に発注しておいた看板を外壁に打ちつけた。


「何でも屋 ミチーノ商会」


 酒飲みの元大工だが、腕は確かのようでなかなか立派な看板だ。


 看板を設置したのには意味がある。今までは人づてに依頼を受注していたが、これからは正式に闇ギルドとして仕事を受けることにしたのだ。もちろん闇ギルドを名乗るわけにはいかないから、表向きには商会という名を掲げたというわけだ。


 さらに屋敷内はギルド本部らしい間取りに変えた。玄関を入ってすぐの広間には受付を設け、受付の脇には将来ギルドのメンバーが増えた時に使えるような団らんスペースが広がっている。


 受付の奥に進むと普段ご飯を食べる時に使っているダイニング、そして廊下沿いにカノの部屋、サニとニーナの二人部屋が連なっている。二階はドンの主室、つまり俺の部屋がある。主室に配置した椅子と机はラ・ボエームから譲り受けた豪奢なものなので、雰囲気はなんとなしに闇ギルドの怪しげな香りを醸し出していた。


 今回の修繕で屋敷の見た目は多少マシになったものの、今の所風呂なしなのはご愛嬌。俺たちファミリーは夕方になると皆で敗者の街区にある風呂屋に出向き、体を流すのが習慣となっている。もちろん、ゆくゆくは風呂場を設置したいと考えているが、そのためには今以上に仕事を受注するしかない。


「まぁなんにせよ、これでミチーノファミリーも正式発足って感じですね」

 カノは満足気に掲げた看板を見つめた。

「これでバンバン依頼が入ってきたらいいことずくめなんですが」


「まぁそう甘いものでもないだろう。しばらくは酒屋経営と猫探し、何よりソフィアとセネカ様様の稼ぎで食い繋ぐさ」

 ソフィアが娼館にミチーノ商会のポスターを貼ってくれたそうだが、流石に敗者の街区にある無名の闇ギルドに仕事を頼む上流層はいないだろう。


「じゃあ、そろそろみんなで風呂屋でも行くか」


「はい! そうしましょう!」


 屋敷で掃除をするサニとニーナを呼ぼうとした時だった。空から鳥の鳴き声が響いたのだ。


 おもむろに鳴き声の方へと目を向けると書簡を運ぶ伝書鳥の姿。王都では無数の伝書鳥が飛び交っているが、敗者の街区で見かけるのは稀だ。どこへ行くのだろうと思っていたら、この屋敷の方へと向かってくるではないか。そして俺とカノの頭上で旋回し、嘴から書簡を離した。


 俺は落ちてくる書簡をジャンプして手に取った。巻物に書かれた「依頼手配書」という文字を読んで俺とカノは顔を見合わせた。


「わざわざ猫探しの依頼を手紙で送ってきたんじゃないだろうな」


「とりあえず読んでみましょう」


 書簡を開き、俺たちはしばらく言葉を失った。書簡の内容は聖騎士時代に関わったことのあるあの公爵らしく極めて単刀直入だった。

 

 「仕事を依頼したい。 ジャン・ルブラン」


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