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ピットは聖騎士団に手紙を送ったらしい

 セネカを高級娼館「ラ・ボエーム」に派遣する前に、俺は聖騎士団直伝の捕縛術を教えた。


 セネカはサブスキル「殺気」という能力が解放している。「殺気」を発動すると、セネカから尋常ではない威圧感が生まれ、用心棒の仕事に大いに役に立つ。ただ何か非常事態が起きた時に相手を怪我をさせずにねじ伏せられる捕縛術を覚えておいた方がいい。

 

 実際にセネカと組み手をして捕縛術を教えるが、セネカの基本能力はすこぶる高く、まるでスポンジのように教えたことを吸収していった。


(異端スキルが発現してなきゃ、聖騎士団入団試験も合格してたんじゃないか)


 能力は申し分ないが、懸念がないわけではない。俺はセネカと組み手をしながら言った。


「セネカ、仕事中は余程のことがない限りあのやばい異端スキルは発動するなよ」


「分かってるって! あと、ナイフもなるべく使っちゃいけないんでしょ!」


「そうだ、お前の能力があればガンビーノのチンピラが喧嘩をふっかけてきても、教えた捕縛術で対応可能なはずだ」


 あとは高級娼館で仕事するだけの礼儀作法を覚える必要があるが、これは「ラ・ボエーム」の高級娼婦が直々に仕込んでくれるそうだ。要領も良さそうだし、半月もすればセネカは立派な用心棒になることだろう。


 ファミリーが住む屋敷の前でセネカに捕縛術を教えていると、カノが帰ってきた。


 カノは言った。

「ドン、猫探し成功です! 銅貨五枚稼いできましたよ」


「ご苦労。よし、サニとニーナも連れて、今日は外で飯を食べるか」

 


「外食! 外食!」

 サニは突然のイベントに大喜びだ。まぁ外食といっても粗末な定食屋に行くだけなのだけど。


 ファミリー五人で敗者の街区を歩いていると面倒なやつを見かけた。取り巻きの男三人を引き連れて、痛そうに足を引き摺りながら歩くのは太っちょピットだ。


 絡まれたら面倒だから顔を背けて歩いていると、通りにダミ声が響いた。

「おい! お前! 止まれ! って無視するなよ! おい! 本当に止まれ! ドン・ミチーノ!」


 やれやれと、声の方を向くとピットは真っ赤な顔をして俺のことを睨みつけていた。セネカがボソリと言う。「兄貴、僕があしらおうか?」


「いや、大丈夫だ。用があるみたいだし話を聞こう」


 ピットは怒鳴り声を上げた。

「お前、セネカに俺の尻を蹴らせただろ!」


「一応、優しく蹴っておけって指示したはずだが、大丈夫か?」


「大丈夫じゃねぇよ、この野郎! しばらく寝込んだくらいなんだからな!」


 足を引きずっているのはどうもセネカの蹴りが原因らしい。

「お前が住人をいじめなきゃもう危害は加えないから安心しろ。お大事にな」


 この場を立ち去ろうとすると、どういうわけだかピットは笑い声を上げた。

「そうそうカノ、やっぱりお前、騙されているみたいだぜ」


 カノは頭を傾ける。

「騙されている? どうせまた馬鹿みたいなこと口にするつもりでしょう、ピットさん」


 ピットはポケットから何やら書類を取り出した。

「聖騎士団に問い合わせてみたんだよ。ドン・ミチーノっていう男が聖騎士団に在籍していた事実はありますかってな」


 なんでもピットはわざわざ俺の映し絵付きの書簡を聖騎士団に送ったのだという。


「そしたらよ、こう返答があったわけよ。ドン・ミチーノなる人物が聖騎士団に在籍していた事実はありませんってよ」


 おそらく騎士団は元聖騎士を騙られることを防ぐために律儀に返答したのだろう。もちろんドン・ミチーノという名も、撮られた顔も俺の本来のものとは違う。外に出る時は常に「裏の顔」スキルを使っているから、ピットは俺の本当の顔を知らないのだ。


 ピットはまた笑い声を上げた。

「そりゃそうだよな! 聖騎士団に入れるくらいすげぇ奴なら公認ギルドでたんまり稼げるんだから、敗者の街区にはいないよな!」


 ピットはカノとセネカに顔を向ける。

「いいか、カノとセネカ。こんな嘘つきのよそ者を信用するなよ。それに、こいつは俺にタコ殴りにされた雑魚キャラだからな。こんな風によ」


 まさかと思っていたら、そのまさかだ。ピットは取り巻きの男に俺をしばけと指示をする。それと同時に、さらに面倒なことが起きた。


 ニーナの周りに黒い煙が漂い始め、セネカの髪もふわりと逆立っているのだ。間違いなく異端スキル発動の兆候。この場面では全く必要ない過剰すぎる力だ。俺は慌てて言った。

「お前ら、無駄にスキルを発動するな!」


 そして、ピットの指示通り、取り巻きの男たちは俺に飛びかかってきた。その飛びかかってくる様も弱々しく、なんとも言えない気分になる。


 まぁ、捕縛術講義の総まとめにお手本を見せておくのもいいだろう。


「セネカ、よく見ておけよ」


 俺は男らの拳を避け、一息で一人、二人、三人と関節を締め上げ、地面に倒れさせた。しばらく立ち上がれないほどには力を込めたが、怪我はさせてないはずだ。


 ピットは地面に倒れる取り巻きを見て驚愕の表情だ。俺が目の前に立つと、ピットは怯えた目つきでこちらを見た。


 俺は言った。

「またしばらく寝込むかもしれないが、悪く思うなよ。手下が痛い思いをして、お前だけ無罪放免ってのも不平等だからな」


 俺はピットの尻を優しく、優しく蹴り上げる。ピットは通り全体に響くほどの叫びをあげ、尻を押さえながら地面に倒れ込んだ。「い、いてぇよおお!!」


 俺は地面に倒れる男四人を見て、一つため息をついた。

「セネカ、最後の蹴りは余計だったが、こんな感じで娼館の女性たちを守ってやってくれ」

 

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