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消えたレオン(セシル視点)

 レイモンド王子に遠征の報告を終えると、足早に自邸に向かった。


 私は何より、一刻でも早くレオンの顔が見たかった。遠征中、何通もレオンの退団を確認する書簡を騎士団に送った。その度に同じ答えが返ってきたけど、私はいまだに信じられなかった。 

 あのレオンが一言もなく私の前からいなくなるなんてあり得ない。家に帰ればレオンが待っててくれる、そんな希望を私は抱いていた。


 巨石城から直接自邸に向かい、勢いよく玄関の扉を開ける。

「レオン、ただいま! 今帰ったよ! お土産もあるよ!」


 返ってきたのは、果たして部屋を包む静寂だけだった。すぐにレオンの使う部屋に向かう。


 扉を開き、その光景を前にして私は立ち尽くした。本当に、レオンの部屋はもぬけの殻だったのだ。レオンはもともと多くの物を持たない人だったから、残されたものは少ない。もちろん、レオンの愛剣も姿を消していた。


「本当にレオンいなくなっちゃったの?」


 私の自室や修練室を回るがどこにもレオンの姿はない。部屋を回る間、レオンに投げかけた「私の前から消えて欲しい」という言葉が頭を巡る。


 私は居ても立っても居られなくなり、騎士団の駐屯地に向かった。もしかしたら私の暴言に腹を立てて、騎士団の営舎に移っただけかもしれないじゃないか。それに、この時間はレオンは駐屯地の修練場で剣を振るっていることも多い。

 

 だけども駐屯地で聞かされたのは変わらぬ現実だった。レオンは仲の良い騎士らに騎士団を退団すること、これからは冒険者になるつもりだと言い残していた。気落ちした様子で駐屯地を去っていたとも聞かされた。

 

 その話を聞いて別の希望が生まれた。冒険者になるというなら話は早い。王都では公認ギルドに登録しなければ冒険者にはなれない。ギルドに聞けばレオンの所在はすぐに明らかになるだろう。すぐさまレオンを見つけ出して、騎士団に引き戻そう。


 自分の右腕として使っていて、この度の遠征にも同行した女騎士のリリスに公認ギルドに出向くよう命じた。


 それほど調査に時間はかかるまい。その間、修練場で汗を流す騎士達を参観していたら、副団長のナダエルと顔を合わせた。


「お帰りなさいませ。聖女様は今日も実にお美しい」


「遠征中の代理の勤め、感謝しています」私はできるだけ私情を消して端的に言った。「ただ一点、レオン・シュタインの退団は無効です。聖騎士団長である私の許可を得ずにそのような勝手な決定がなされることは許されません。あなたはレオンを引き止める必要があった」


「本人が退団を希望したのですから引き止める理由はないですな。私は規則通り、団長不在時の責任者として彼の退団を受理しました。それに聖騎士団としても能無しのお荷物が去ってせいせいしましたよ」


「レオンはお荷物なんかじゃありません。レオンは歴史的に類を見ない成績で入団試験に合格し、聖騎士訓練学校では主席。スキルの発現が遅いだけで、将来有望な聖騎士です」


 ナダエルは皮肉っぽく鼻で笑った。

「あの孤児出身の男には元々聖騎士としての資質がないのですよ。前例がありませんな。騎士団をやめたその日のうちに聖職者の女に暴行を加えるとはね」


「聖職者の女に暴行?」


 次にナダエルの口から飛び出したのは、耳を疑うような話だった。なんでもレオンは僧侶の女性に暴行を加えた上に、仲間の若い女エルフと聖騎士団の追走を振り切って逃亡したのだという。


「当然、聖職者に対する加害は重罪。我々聖騎士団を管轄するレイモンド王子は気分を害し、直ちにあの者を捕縛し、厳罰に処するよう求めておりますぞ」


 本当にあのレオンが?いや、そんなわけがない。私の知るレオンは理由もなく暴力を振るう人じゃない。そもそも仲間の若い女エルフって誰なのよ?私は首を横に振った。


「いいえ、それは何かの間違いです。その件については直接彼から話を聞きますので、全て私に一任してください」


 その時、私の命を受けたリリスが調査を終えて帰ってきた。

「セシル様、レオン・シュタインの名はどの公認ギルドにも登録されておりません。それよりも気になる話が。修道院でシスターが殺害されたとのこと。担当騎士によればその形跡が異常らしく、団長に直接検分して欲しいと申しております」


 私はレオンが見つからずショックを受けるとともに、ふと凱旋通りで見た得体の知れない雰囲気を放つ少女のことを思い出していた。


 少女が目に入った瞬間、私はすかさず聖術を発動して、異端者かどうか検知した。結果、異端スキルが発現している兆候はなかったが、何かいつもとは違う感覚が体に残った。

 もちろん、聖女である私の聖術を妨害できるスキルの持ち主なんてそういないことはわかっているけど、違和感は違和感だ。


 そしてその少女と一緒にいた強面の男。なぜ私は一瞬、まるで顔つきの違う彼をレオンと見間違えたのだろう。彼と同じ剣を持っていた、それだけの理由で私が間違えるだろうか。


 隣に立つナダエルは例の皮肉な笑みを浮かべた。「セシル様、なんにせよレオン・シュタインのことは早々に忘れた方がよろしい。ウェイブ家の令嬢、そして今や聖女であるあなたが、何処の馬の骨かも分からない無能と懇意にしてたことがおかしかったのです。それよりも修道院の件は即刻調査が必要ですな」


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