暗闇に囲まれる事も有る
今日も長そうです。
そのうち、これが通常になったりして。
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朝になった。
もう既にラントカイは起きてるみたいで、ベッドの上に姿が見えない。
昨晩の話を聞いてから、気持ちがモヤモヤする。あのラントカイの痛ましい表情を思い出せば、とてもじゃないけど追加で質問しようとは思えなかった…
話を聞いて分かった事は、物怪村は何らかの原因で滅んでしまったと言う事。
それは飢餓かもしれないし、災害かもしれない。
この世界にはモンスターが跋扈してるし、ドラゴンだって居るから、大きな村を一夜にして消し去ってしまう様なモンスターが現れたのかもしれない。
もしかしたら……人が攻めてきて、滅ぼされたのかもしれない。それなら僕の角や尻尾を隠す理由になり得るし……
あぁ、悩んでても仕方ない!!
6年間も生きてきて、全然自分自身の種族の事も、フィナーラに言われた貴族みたいなこの世界の一般常識の事も知ろうとしてこなかったから、そのツケが回ってきたんだよきっと。
これから、色々な事を知っていこう。
そうすれば、いずれお母さんやお父さん、ラントカイやみんなが話せる事は話してくれると思うし、昨日の寝る前みたいな失敗は少なくなる、と思う。
今迄散々溜まってきた壮大な疑問達もその内解決するでしょ!
一旦活を入れよう。
バチンッ
ウジウジ悩んでても進まない。とりあえず昨日の復習から始めよう。
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「シアト、そう言えば昨日聞き忘れてたんだけど」
「ん?ナニーカア?」
「なんか発音がおかしくない?」
朝ご飯を食べてる最中に、お母さんが話しかけてきて、思わず頭の中にあった貴族の名前で返事をしてしまった。
因みに、ナニーカアは王都に居る地主の1人。地主の中で1番覚えやすい。
この国の貴族は、王族以外に地主、領主、国が認めた地域の村長、町長とかが該当するけど、この地主が1番多い。
全く、何でこんなに多いんだろ……
「あ、えっと、それで聞き忘れてた事って?」
「剣の稽古を始めた時に、お母さんが言った事の2つ目覚えてる?」
「あぁー、覚えてるよ」
お母さんと剣の練習をし始める時に、2つの事柄を話された。1つは、僕はまだまだ剣術素人だし、体力も筋力も少ないから、暫くは素振りや体力作りばかりになる事。もう1つが、
「戦闘力で一定ラインを超える為には、トレーニングで身体を鍛える以外に、スキルで身体を強化する必要が有るから、その方法を探せって話でしょ?」
「そうそう。で、聞きたいのはその進捗よ。どう?何か成果は有った?」
「……いや、全く」
この話を聞いてから1週間、スキルで身体を強くする方法を考えてきたけど、何も良い案が思いつかなかった。
きっと地球、と言うかアルタナザでもそう言った方法は有ったんだろうけど、僕は落ちこぼれだったし、戦闘系の知識は全く入れてなかったし……
一応検討はついてる。でも、それでどうしろと?って話なんだよね。
「そっか〜、シアトでも流石に1週間じゃ無理か〜」
「う、うぅ」
「あぁ、ごめんね!誤解させる様な言い方をして。今までシアトは何でも直ぐに熟してきたでしょ?身体強化ももしかしたら……って思ってたんだよ。もしできる様になったら、直ぐに剣術の練習に入れるからね〜。元々小学3年生ぐらいに習得できたら良い方だなぁ〜って考えてたの!」
「え、えぇ?」
習得期間2年以上を想定してる技を、1週間でできるかなって……
お母さんの中では、僕の評価がどんな怪物になってるの?
「確かに早く習得した方が良いけど、絶対に急いで習得しようとしないでね。スキルが破綻しちゃ元も子もないから」
「は、たん……」
「あれ、知らない?ラン、学校で習ったりしてない?」
「おそらく、今日習うと思います」
「じゃあシアトが知らないの無理ないわね。『破綻』って言うのは、」
「いや、知ってるから……分かってるから大丈夫だよ、お母さん」
「ん?そう?それなら良いけど」
知ってるんだ。知ってる筈なんだ。
日本でも、アルタナザでもそう呼んでた、筈……
なのに、凄く曖昧で、思い出そうとしても、表面的と言うか、バックボーンが無い。
まるで後ろが空洞みたいな、最初から何も詰まってなかったみたい。
他の言葉は……分からない。
思い出そうとしても、どんな言葉なのかも分からない。
「破綻」も聞いた瞬間に、既知の言葉だって知ったみたいな、強烈な違和感が有ったから……
記憶が無くなるなんて事、普通で起こるわけない。
一体……いや、転生前に1回あった!
あの時は、柏くんが記憶を戻してくれたんだ。
だけど、今回とはちょっと違う様な気がする。あの時は上手く表現できないけど、表面にメッキ加工されたみたいに記憶が上書きされた感触だった。
今回は記憶自体が無くなってる。
また別の要因って事?どれだけ記憶弄られてるの!?
……まさか、柏くんが犯人だったりしないよね?
でも、それだと目的が分からない。柏くんの記憶を覗いても、特に変な事は無かったし……まぁ、特定の記憶を抜く事ぐらいはできるだろうけど。
正直、彼ぐらいの献身的な思考の持ち主は他に知らないから、なんとも言えない。けど性格的には考えられないんだよね。
うーん……柏くん関係で何かあったっけ?
『どう?やってみない?異世界転生』
そうそう、突然異世界転生に誘われて、
『いずれ戻って来る予定なら旅の話とか聞かせて』
そうだ、帰った時に沢山話せるネタを用意しておかないといけなかった。ターミナルを通れば元の世界に帰れるだろうし、今のお母さんとお父さんを地球の両親に会わせたいな……まずは僕が転生者だって伝えないといけないけどね。
と言うか、転生前の記憶は結構明瞭な覚えて
……いや、
『ちょっとやる事を思い出したんだ。もう少し待ってくれない?』
ちょっと……待っ
『分かってる。仕送りと遺書でしょ?』
誰宛ての?
勿論、両親宛ての――――両親?
「うっ」
「シアト!大丈夫?!」
嫌な事を、知ってしまった。
「…だいじょうぶ」
「大丈夫じゃないでしょ!ラン!」
「毛布と袋なら既に」
心配、かけてるみたい……駄目だなぁ、僕。
落ち着けシアト。
ゆっくり深呼吸して、息を整えて、
「落ち着いてきたみたいね。今日の学校、休む?」
「……ほら平気だよ。学校は行くよ」
「私は休んだ方が良いと思うわ」
「もう元気になったから!」
「でもさっき、顔色真っ青だったのよ?」
「さっきは……ちょっと嫌な事を思い出しただけで、体調は万全だよ?嘘はついてないから」
さっきは、ちょっと怖くなっただけだし……
「っ、…………」
あ、お母さん……
「……今日1日、ランと一緒に過ごして、ね」
「う、うん」
◇◇◇◇――――――――――――
「シアトちゃん、だいじょうぶ?」
「全然大丈夫だよ」
「ほんとに?」
「本当だから!」
僕とラントカイとタクトとフィナーラは、近所に住んでると言う事もあって、毎日一緒に登校している。
1番学校に近いフィナーラの家の前で集合なんだけど
……早速、先に来てたタクトに心配されたなぁ。
そんなに分かりやすいのかな?
もっとシャキッとせねば。
「みんなおはよ〜。今日はシアトちゃ…って、どうしたの?元気ないよ〜」
まだ会話すらしてないのに……
「フィナーラ、実は――――」
「何、カイちゃん?――――ぅぅ、分かった…」
ラントカイがフィナーラに何か吹き込んだみたい。
一体何を……
「シアトちゃん!昨日はごめん!」
「……」
「昨日、シアトちゃんがきぞくのこと、なんにも知らないって分かって、それで……シアトちゃんにも知ってほしいって思って、そしたら自分でも分かんないぐらい話したくなって…」
「うん」
「シアトちゃんが、と中からぜんぜん聞いてないって気がついた時にちょっとムカッてなって、とっさにわたし、テストとか言い出しちゃったの」
「……うん」
「あの後、ミザリーちゃんから良くないって言われて、今もカイちゃんからシアトちゃんが昨日夜おそくまでべん強してあんまりねてないってこと教えてもらって、やっとゆう気が出たの。本当にごめん!」
昨日の事で、フィナーラは随分悩んでいたみたい。
自分のしてしまった事に対して、向き合って、反省して、その結果僕に謝罪したんだろうな。
……大丈夫だよ。
「大丈夫だよ。全然気にしてない」
「……え?」
「僕、貴族の名前とか全員知らなかったから、この機会に一気に覚えられてラッキーだったよ!」
「……」
謂わばフィナーラはオタクなんだから、元日本人、厨二病罹患者の僕にとって、ああ言う事は些細な事でしかない。寧ろ、元オタクとして、可愛い友達に教えてもらえるなんて最高じゃん、と思わなかった僕の方に責任が有るね!
「自分の好きな事を伝えたいって気持ちが生まれるのは当たり前の事なんだからさ、これからも沢山話そう!」
「……ぅ、うん」
「あ、あと昨日途中から聞いてなかった事は、ごめん。ちょっと思ったよりも時間が長くて疲れてたんだ…」
こんな少女が謝罪できたんだ。
僕も見習わないといけないね。
そう、疑問は沢山残っているけど、その内解決するだろうから。
今日の朝に活を入れたばっかりじゃないか。
まずは目の前の事を解決する。
それしか道は無いからね。
危うく闇に突っ込む所でした……
危なかった。