パフォーマー
本日2話目
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僕がこの日の為に練習していたのは、スキルを使ったパフォーマンスだ。
と言っても、短期間で習得できる様な一芸は、もはや一芸ではない。そんな簡単に可能になるなら、日本の1割ぐらいはパフォーマーになってるかもね。
僕が目をつけたのは、パントマイム。
昔、動画で見た事が有る、カバンが空中に止まって見えるあれ。あと、壁を押すやつ等々。覚えている事は少ないけど、大体止まると言う動作が入っていた気がする。
今更ながら、パントマイムって【眼力】ととても相性が良いのではないだろうか。本家と違って本当に止まるんだけど、それはアドバンテージでしかないよね!
そう思っていた時期が僕にも有りました。
そんな簡単には行かなかった。
カバンや壁が止まっている時の動作は、本物だから当然そう見える。
だけど、動かす時は違う。
カバンを動かす時は、カバンの下に空気の床を固めて、そこを滑らせる。
壁を動かす時は、その空気の壁を、【眼力】を高速でON OFFしながら押し込む。
どちらも動かす動作がぎこちなく、僕の記憶に残っている理想とは程遠かった。
何て言うの?緩急、みたいなのが全然物足りなかった。
流石に初心者には、真に迫った演技と言うのは難易度が高すぎたのかもしれないね。
カバンの方は、中身を重くする事で解決した。それでも、本当なのに本当に見えないから、記憶を振り絞って動きの練習をして、何とか形になった。
壁の方は……諦めた。動き以前に【眼力】の高速ON OFFを使った壁の動きが、連続的且つ段階的なので、短期間ではどうこうできないなと思ったんだよね。
この時点で、パフォーマンスを1本作るには、明らかに量が足りていない。だからパントマイム以外にも何かできないかな?と考えた。
時に、僕のスキル【眼力】は、赤ん坊の頃からだいぶ強力になった。それこそ、前世で複数の物を止められる様になったのは段階が上がったのではなく、ただの成長だったのではと思うくらいには、ね。
僕は物を部分的に止められる様になった。具体例を挙げて説明するなら、本の背表紙だけを止めて、空中で本を読む事ができる様になった。
これが何を意味するか、段階が上がった当初の僕はよく分からず、ただ喜び、ベッドの硬さを身体の部位毎に変えられるなぁと思いながら生活していた。
だが、今は違う。僕は真価に気がついてしまった。僕は空気を固める事ができる様になった。空気は一種の混合物で流体、謂わば超巨大な物質。この世界に、当たり前に、大量に存在するこれを使役する、即ち強者!ふっふっふっ、前世と比べて強くなったものだ…!
と言うのは置いておいて、この空気を固める仮称固形空気を使って何かできないかと考えた結果、たった今行った、「空気の型に花弁の玉を投げ込んで花とか動物とか作る」と言う芸になった。
やっぱりね、見栄えが大事なのよ。実験してた砂団子よりも、綺麗な花弁団子の方が良いよね。
パントマイムは、黙劇と言う劇だし、序破急とか起承転結的な流れが有った方が良いかもと思って、終盤手前に一度、一気に【眼力】解除したんだけど、みんなが悲しそうな表情になっててちょっと後悔したよ。でも、圧縮固形空気を使った花弁の噴出でみんな笑ってく………
ちょっと待って、何か忘れている様な気がする。
あっ、カバンの中に、最後に締めに使おうと思ってたらクラッカーが………………
ま、まぁ、良いや。みんな楽しんでくれたし。
「感服。こんな自己紹介は初めて見る」
そ、そりゃあそうでしょうね。僕も初めて見ましたし、しました。
「でもこの花弁の片付けは早急にする」
「あ、はい。大丈夫ですよ」
花弁は、全部、宙に落ちてるからね。こう、斜めの床を下に設置して、上の床を解除すれば、
「はい、掃除完了です」
「おぉぅ、神妙」
後片付けは考えておかないとね。料理の後の皿洗いと一緒。
さて、僕もそろそろ席に戻ろうかな。みんなこっちを見てるけど、一際、僕の真後ろの席の子が、絶望感に包まれながら、こちらを涙目になって見てきている。
あ、あぁ僕の後の自己紹介だから、ハードル上がり過ぎて気が重たいのか。それは……悪い事をしたなぁ。全く考えてなかったよ。…………頑張れ!!
すると、
「今日は時間が経ち過ぎたからここで終わる。明日、自己紹介の続きをゴードから頼む」
「は、はい!…………はぅ、よかったぁ」
後ろでホッと息を吐いているゴードくんの呟きが聞こえる。ほんと、ごめんね?
「それからシアトみたいに自分のスキル言う必要は皆無。言うのが遅れて申し訳なく思う」
あれ?ここスキル持ちの集いだから言う必要が有ると思ってたんだけど、そこはパーソナルスペース的な感じって事なのかな?
「僕は全然大丈夫ですよ」
「そう。感謝する」
僕が唐突に言い出したから困ってたっぽい。
何か色々とすいません。
「じゃあ今から配布物を配る。これが終わったら今日は解散する」
「「は〜い」」
「うむ、良い返答」
そして、放課後。
「ねぇねぇ、シアトちゃんのスキルってどんなの?」
「シアトちゃん、何でこっちの目が白いの?」
「シアトちゃん、おともだちになってもいい?」
「さ、さっきの、もういっかいみたい!」
「シアト、ちゃん。……呼び辛いからシアトと呼んでも良いか?」
「シアトちゃん可愛い!!ぜひお友達になりましょう!!」
「ぼ、ぼくグレースっていうんだ。これからよろしく」
放課後になった瞬間、一気に来たね。
うんうん、こんな風景が見たかったんだ。クラスの人気者になりたかったんだよ……
ふっふっふっ、このハイスペックボディにかかれば、聖徳太子擬きぐらいにはなれるのだよ!
「えっとね、物が動くのを止める事ができるスキルだよ!」
「これはね、オッドアイって言ってね、手術し…いや、生まれつき白いんだよ。かっこいいでしょ?」
「勿論!!友達になろ!」
「良いよ!でもみんなの質問が終わったらね」
「……?い、良いけど(なんか精神年齢高くない?)」
「うん!友達になろう!!」
「おぉ!これからよろしく!グレースくん」
その後も質問責めが続いて、その後はもう一回やって欲しいと言う要望に応えて劇をして……今日の学校は午前中で終わりだったのに、1時ぐらいまで残る事になってしまった。
「お母さん、お父さん。待たせてしまってごめんなさい」
「ふふっ、良いわよ。シアトがみんなから話しかけられてたのを廊下で見てたのよ」
「うむ、シアトは学校初日から人気者だな!友達もできた様で何よりだ」
そ、そうなのか。全く気がつかなかったよ。
「それに、シアト、凄く楽しそう」
「あぁ」
「そ、そんなに?」
顔に出るぐらい、そんなに滲み出てる?
「……子供がね、自由に楽しむ事は、権利なの」
「……」
自由……権利、権利か。
「だからね、楽しい時は思いっきり楽しんで!!」
「うん!!」
ありがとう、お母さん。
色々なperform