エンターテイナー
プライくん視点。
こっちの方の書き方が楽な気がする。
何故私は、今作の主人公の様な精神年齢を設定してしまったのだろうか。
私の中では、1週間とは、月曜日から日曜日なので、今日はもう1話書きたい…気もするかもしれない。
◇◇◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆…
俺は、タオタオ町と言う町の町長の長兄として生を受けた。
タオタオ町は、町と言っても規模が並大抵ではなく、小さな都市ぐらいに広大な土地を保有している。実際、カマエル領の6割はこの町だ。
そんな町の息子として誕生した俺は、嬰児の頃から英才教育を施されてきた。それは、俺の両親の初子だったからと言う理由も有るが、それに加えて、俺が特技子だからだと言う事が大きかった。
スキルについて、古来より、それは己が経験によって鍛え磨かれると言う示教が存在していた。
技術が発達した近年、その説は数多の研究によって証明されたが、その過程において、そのスキルの名前に関する知識を深める事もまたスキルをより強力な物にする事が立証された。
世間一般で、特技子は大成しやすいとされている訳は、スキルに慣れる為の期間が一般的な子供より早く、多くなるからだとされているが、それよりも早々にスキルについての知見を広め、方向性を決定できると言う理由の方が大きい。
俺は【洞察】と言うスキルを授かっていた。
父、母共に「とても良いスキルだ(ね)」と言っていたので、物心ついた時からずっと誇らしく思っている。
いつかこのスキルを使い熟し、立派な町長になりたいものだ。
そして俺は6歳まで成長し、先程小学校に入学した。
式では、俺は大勢居る新入生の代表者としての挨拶を任された。カマエル領主の娘であるミザリーも同じく新入生なのだから、そちらの役目になるとばかり思っていたが、性格の面を考慮した結果、俺の方へ回ってきたらしい。
俺は30組に配属された。教室に入ると既に何名か生徒が座席に座っていた。クラス内は静かで俺は特に何かに阻まれる事も無く自席に着いた。
俺の今迄交流の有る同級生は、近隣の町や領地の長の子供ぐらいで、それこそこのクラスではミザリーしか居ない為、この様な互いが会話を図り兼ねている状況を理解して、大丈夫だと思考しても、不安から思わず緊張が走った。
暫く経った後、ある生徒がクラスに入ってきて、己の緊張感が増した。
意図せずそちらの方を向いてしまった。
それは彼女の可憐さ故か
――それも有る
それは彼女の目の色故か
――それも有る
それは彼女の違和感故か
――それも有る
一番に覚えたそれは、圧倒的な存在感。
言葉を語るでもなく、そこに居るだけで放たれる重厚な圧力。
……どうやら僕の他にこれを感じている人は居ない様だ。ミザリーも見ているが、あれは違う理由だろう。
さて、となるとこれは、【洞察】の影響と考えるのが妥当だ。一体俺は何を感じているのだろうか。
種族?いや、これほどの重圧、他に誰も反応しないのは考えられない。特に【洞察】の様なスキルが無くとも感じる筈だ。
身分?いや、俺の知る限りにあの様な薄桃色の髪の者は居ないし、今年の入学者一覧に書いてあった高位の新入生の名前はミザリーと俺だけだった。
考えられるのは、スキル。
このクラスに入ってきた時に理解したのは、このクラスは全員がスキルを所持していると言う事だ。つまり彼女も当然スキルを持っているのだろう。これだけのプレッシャーを放つ事ができる程、鍛錬を重ねてきたと言う事か。
はっはははは、あぁ、父、母、俺は今迄知らなかったけれど、市井にはこれ程凄い人が居るんだな。
身分の高い者として生まれ、エリート教育を受けてきた自分は、最早巷の者達とは隔絶した差が有るとばかり考えていた。早合点だった。舐めていた。
……これは、気合いを入れ直さないといけない。
――――――――――――――――
アニマーテ先生と言う担任の先生が入ってきて直ぐ、自己紹介をする事になったが、最初に指名された例の彼女(名を「シアト」と言うらしい)が、「前でやっても良いですか?」と言った。
一体、何をするつもりなのだろうか。
鞄を持って教壇の左端に立った彼女は、同級生の方に笑いかけて……何か始まった様子だ。
先程とは雰囲気が異なる。それでいて、楽しそうに微笑む彼女には、俺が抱いていた違和感が消えていた。
こちらに自慢する様に鞄を見せ、それを右手に持ち替えて教壇の中央に向かおうとする
が、そこでシアトは転びかけた……のだが、それよりも驚いたのは空中に佇む彼女の鞄。
どうなっている、んだ?
あれがシアトのスキルなのか?
疑問は尽きぬまま、彼女は動き始める。シアトは体勢を立て直すと鞄に向かって頬を膨らませて、鞄を左右上下に引っ張り始めた。梃子でも動こうとしない鞄に対して涙目になりながら、はぁはぁと荒い息をしている。
ふふっ
誰かの笑い声が聞こえた。
シアトは懲りたのか、鞄を背凭れにして休憩すると、考え込み、突然手をポンと叩いて飛び起きた。どうやら何か思いついたらしい。
シアトは鞄の右側面を掴むと、鞄を全力で引っ張った。
すると、先程全く動こうとしなかった鞄が空中を、空中に架けられた道を滑る様に移動した。
これは……………何が起こってる?
何も無い。何もそこには存在しないのに!
教壇の中央に来たシアトは、鞄を机の上に置き、椅子に座って息を整えている。
透明な机が、椅子が見える。まるで実在しているかの様に。
あぁ、これは……そうか。
彼女が、シアトが今行っているのは、寸劇。
一種のパフォーマンスなんだ。
何の為に?それは――――
鞄を開けて、中から取り出したのは、シャボン玉?
息を吹いて、教室全体に広がった泡は、彼女が手を握り込むと同時に動きを止め、どこか幻想的な雰囲気を作り出す。
目の前でシャボン玉が静止している光景は、生徒達の心を一気に奪った。
――楽しませる為。
シャボン玉に夢中な俺達を見て、シアトは、楽しそうに笑っている。
…………凄い、凄い!すごい!!すごいよ!!!
どうやってるの?ふしぎだ、なぞだ!
見えない。見とおせない。だけど、楽しい!
シアトちゃんは花びらがつまったふくろをとり出して、花びらを思いっきりなげた!
空に、お花がみちていってる!きれい…
あっ!あそこにお馬さんもいる!!
あっちには鳥さん!かっこいい鳥さんも!!
わらっているシアトちゃんは、花びらをなげながら、おどってる。きょうだんの上だけじゃなくて、きょうしつの中を右に左に、うごいて回って、たのしそう!
おれたちも、たのしい。
こんなたのしい気もちになったのは、いつぶりかな?
すごい、これを同じクラスの人がやってるんだ……
シアトちゃんは、次に、ぼうをとり出した。
あれは、音がくの、しきのぼう?なんで?
上にあげたそれは、少ししてから、ふり下ろされて――
――世界が終わった
シャボン玉が一斉に破壊された。
花や動物達は、形状を保てないまま、崩壊して床に落下した。
視線は自ずとシアトの方へ向く。
俯いていて、どこか悲壮感を漂わせるシアト。
だが、
前を向いて、見えたのは、彼女の笑顔だった。
再演とばかりに、指揮棒が一気に昇って、同調した様に花弁が噴き上がる。
悲しげな雰囲気に包まれていたクラス内にも、明るい顔が戻ってきた。
花弁は、空中を踊り、舞い、昇る。
やがて、その悲壮感が完全に無くなった頃、シアトは漸く口を開いた。
「1年30組、シアト・イル・ルシフェイアです。スキルは【眼力】と言います。友達沢山欲しいです!これから長い付き合いになるとは思いますが、どうぞ宜しくお願いします!!」
一礼と共にそう語るシアト。
そうだな、この様な人を多分、「エンターテイナー」と呼ぶのだ。
演技中、思わず童心に帰ってしまった。気を張っていたのに、解かれてしまった。凄いな、この人は。緊張していた皆の為に、ここがスキル持ちを集めた教室内だと見抜いた上で、この短劇を決行したのだろう。
シアトには、長い拍手が贈られた。
凄かった。俺には到底出来ない事だった。
スキルは、自分自身の為だけに使う物ではないと教え示された気がする。
この人の様に、俺も将来、人を笑顔にする為にスキルを使ってみたいものだ。
この人、本当に小学1年生?
転生者か?!(違います)
逆に転生者の方が精神年齢低いと言う謎。