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枯野と琴  作者: 村野夜市
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枯野に続いて、京まで行方を断ってしまった。

ソウビはあらゆる手を尽くしてふたりを探そうとした。

けれど、もうひと月近く、経ってしまっていた。


村の海人たちは、毎日のようにユラの海に舟を出して、京のことを探していた。

ユラの海のなずの木の森は、泳ぎの上手い海人たちでも、危険な森だった。

方向感覚を狂わせ、中に囚われて、水上に出ることすら叶わない。

その森に、京を探して、海人たちは、何回も何回も潜っていた。


ある日、からっぽの舟だけひとつ、浜に戻ってきた。

なかには何も残されていなかったけれど、京の乗っていた舟だと考えるのが自然だった。

それを見て、海人たちは、諦めてしまったようだった。


ただ、ソウビは、それでも、諦めなかった。


海人たちの報せを受けて、ソウビは浜へと駆け付けた。

舟はどこも壊れずに、静かに浜に打ち上げられていた。


舟には何も残されていないように見えた。

しかし、ソウビはその舟にむかって呪言を唱えた。

周囲に海人たちがいるのももはや気にしていなかった。

ソウビの全身は青白い光に包まれて、風もないのに、ふわふわと髪が波打つ。

それは最大級の妖力を使うときだけ見せる姿だった。


青白い光は、舟をも包み込み、ある一点に収束して、まばゆく輝いた。

ソウビはゆっくりとその光に近づいて、なにやら指につまんで持ち上げた。


ふ・・・


見つけたものを確かめて、ソウビは思わず、笑みを漏らした。

それは、久しぶりにソウビの見せた笑みだった。


息を呑んで様子を見守っていた海人たちから、一斉に拍手が巻き起こった。

それを見渡して、ソウビは皮肉な笑みを浮かべた。


「おい、お前さんら、まだ、京は見つかってないんだぜ?」


それでも、このお方なら、きっと京を見つけてくれる。

海人たちの目は、ソウビを信頼しきっていた。


ソウビは向けられた賞賛と期待の眼差しに、小さく肩を竦めて笑った。

期待に応えてやる義理はないが、応えられないとは思わない。


いや、期待などされていなくても、たとえ全員が諦めたとしても、ソウビは京を見つけるつもりだった。


京の髪にむかって、ソウビは呪言を唱える。

ふわり、と髪は浮かびあがって、青白い火になった。


「どうれ。案内してもらおうか。」


ソウビがそう言うと、青白い炎は、ふわりふわりと海へとむかって飛び始めた。


大勢の海人たちは、慌てて、炎を追いかけて舟を出した。

ソウビも、京の舟に乗り込んだ。


「ちっ、舟にだけは、乗りたくなかったんだけどね。」


小さく舌打ちをする。


ソウビと共に、海人のひとりが乗り込んで、舟を海に出した。

こうして、海人たちの船団が、青白い火を追いかけて、ユラの海へと漕ぎだして行った。




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