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琴音はひとり静かに座敷に座っていた。
その手には、誰かが握らせた櫛がひとつ握られていた。
紅葉の柄の散る、螺鈿細工の櫛。
何度も何度も表面を撫でられて、少しだけ色が褪せている。
無表情なまま、琴音の手は、その櫛を撫でていた。
何度も。何度も。
見開いた瞳から、ほろほろと涙が零れて落ちた。
その手から、ゆっくりと櫛を取り上げた手があった。
大きくて温かな手は、その櫛を琴音の髪にさした。
琴音は嫌がらずに、じっとしている。
櫛が髪に綺麗にささったとき、虚ろなその瞳に、光が戻った。




