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実の息子にブチギレる。


「婚約破棄、ですって?」


 その報告を受けた王妃ベルベリーチェの手の中で、ミシ、と音を立てた扇は、次の瞬間、跡形も残さずに消滅(・・)した。


 怒りのあまり、うっかり漏らした魔力の圧に耐えきれなかったようだ。


 側にいた侍女が、表情も変えずに新しい扇を差し出し、ベルベリーチェは顔を青を通り越して白くしている夫……国王陛下であるバロバロッサを睨みつける。


「待て落ち着け。君の怒りは分かる。分かるが落ち着け」

「何故?」

吾輩わがはいが身の危険を感じるからだ」


 素直な夫に、深呼吸して気を落ち着けたベルベリーチェは、詳しい事情を尋ねる。


「うむ。どうもヨーヨリヨは貴族学校で出会った聖女に懸想し、浮気したようだな。そして卒業記念パーティーで婚約破棄を申し渡し、その聖女を娶ることを宣言したようだ」

「処刑いたしましょう。聖女と共に」

「待て」


 バロバロッサは、足早に近づいてベルベリーチェの手を取る。


「気持ちは本当によくわかる。愛するお前の気持ちはおそらく吾輩と同じだ。リリリーレン伯爵令嬢には、既に彼女自身に非はない旨、正式に丁寧な手紙をしたためて届けさせてある。そして聖女とヨーヨリヨ、伯爵家を含んだ謁見の予定ももう組んだ」

「良いでしょう。陛下の迅速かつ的確な行動に免じて、処刑はやめて差し上げます」


 ベルベリーチェの言葉に、バロバロッサはホッと息を吐く。


 彼は基本的に名君だ。

 ベルベリーチェも支えているが、多少、息子に甘い点を除けば全くもって、夫としても国王としても申し分ない。


 顔も良いし頭も良い、そして優しい。

 そうでなければ、いくら二人きりの部屋で土下座されて妻に迎えたいと懇願されたからといって、ベルベリーチェも求婚にうなずきはしなかった。


「ですが、罰は与えます。よろしいですね?」

「当然だ。リリリーレン嬢を迎えることを条件に、君にあの子を王太子として認めさせたのだから」

「ホワホワール側妃にお話は?」

「当然、既に話を取り付けるように宰相に命じてある。吾輩はリリリーレン嬢への手紙を認めた後、君の元へ真っ先に赴いた」

「愛されていて嬉しいですわ」


 ベルベリーチェが微笑んだことにホッとしたのか、バロバロッサも口髭を歪めて笑みを浮かべると、肩に手を置いてそっと頬を寄せてくる。


 ヨーヨリヨは、ベルベリーチェが結婚して五年もしてから授かった子だった。

 溺愛してくれるバロバロッサとの仲は良好だったものの、三年経ち、ホワホワール側妃を迎えることを側近やベルベリーチェ本人が勧めるのを、最後まで嫌がったのが彼自身だ。


 血筋の者から養子を取ると頑固なバロバロッサを説き伏せて、年下の友人だったホワホワールが来ると、彼女はあっさり懐妊した。


 自分に問題があるのだろうか、と悩んだこともある。

 ベルベリーチェ自身、ホワホワールとの仲も悪くなく、彼女の子を次の王とすることになんの不満もなかったのだけれど。


 二年後に自分も懐妊して、話がややこしくなった。

 バロバロッサは当然のように正妃の子であるヨーヨリヨを推し、ベルベリーチェは第一王子であるホワホワールの子、フロフロストを推した。


 最大にして初めての夫婦喧嘩は、ホワホワールと、7歳にして聡明だったフロフロストが辞退したことで終わり、ヨーヨリヨに決まったのだ。


 その息子が、長じるにつれて凡庸であることを悟ったベルベリーチェが、王太子とする条件として選んだ婚約者が、リリリーレンだった。


 ーーーそれを、あの馬鹿が。


 内心で実の息子をボッコボコに殴り倒しながら、数日後。

 謁見の間に揃った人々を前にして、バロバロッサが宣言する。



「ヨーヨリヨを廃嫡し、フロフロストを王太子とする」


 と。

 

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