第06話『少女の名は』
「歩けるようになったみたいで、よかったです!」
「ぁ…ああ…」
ここに来て初めて出会った親切な少女と、托生は一緒に並んで進んでいた。
年の差は1-2しか変わらないというのに、托生は恥ずかしさなども何も感じていなかった。
「…」
少女は、托生の伸びる髪から覗く目を気にしていない様子だった。
普通、こんな幽霊のような青年は、こういった歳の少女に気味悪がられるだろうが、それも彼女の清純さだろうか。
「今、どこに向かってるんだ…?」
「この近くに街があるので、私はそこを目指しているのです」
「街…か──お前は…旅でもしてるのか…?」
「旅というか…流浪という感じですかね」
「…」
托生にとって、彼女の心情はわからなかった。
だが、彼女の清純な笑顔に、ほんの少しの影が差したのを感じ取り、疑念を抱かずにはいられなかった。
「そうだ!お名前お聞きしてもよろしいですか?」
「…名前か…」
托生は、1つだけ間を置く。
名を教えることをなぜ恐れたのかは知らないが、それは托生でさえわからない様子だった。
「托生…」
「タクセーさんですか」
この世界にとっては、変わった名前なのだろう。
「タクセーさんの故郷では、その名前にはどんな由来があるのですか」
心外なことを聞かれた。
名前の由来──そんなこと気にしたこともなかった。
そもそもこの少女は、何をもってそれを聞いているのか。この世界の文化でもあるのだろうか。
托生が何も言わず止まっていると、少女は「あっ」と口に手を携えた。
「かくいう私が名前を言ってませんでしたね…」
「…?」
「私、ソータと申します」
少女の名は、ソータというらしい。
だが、托生は名前を知ったところで、ソータに向けた何かが薄れることはなかった。
──2人は、ただ進んでいた。
「ソータ…あまりその目は──」
「…え?」
「…」
突如そんなことを言われて、わけがわからず、思いがけず問い返す。
ソータは托生を見ると、険しい目がこちらを睨んでいるかに見えた。
「…!」
だが、一度瞬きをすると、その目はいつもの虚ろなものに変わっていた。
…幻覚だったろうか──にしては、彼女は托生から、やけにリアルで強い、何かを感じ取っていた。