第04話『現在状況の理解』
托生は10分の懊悩の末、辿り着いた状況の理解に強く絶望していた。
そんな彼は、光のない目を前髪に隠して、どうにかして帰れる場所を探すのだった。
心花がいるあの場所には、もう戻れないのだろうか…──
「…おい…何で帰れねぇんだよ…──夢なら…とっとと醒めろよ…っ」
フラフラとした足取りで歩くそのさまは、まるでゾンビのようである。
藁の価値にも満たない希望に縋りながら、辿り着けるかもわからない目的地を見据え、生ける屍はひたすらに歩くのだった。
※
結局、辿り着けるわけがなかった…──
托生が20分も草原を走って辿り着いたのは、せいぜい高く降り立つ崖という始末だ。
「(もう足は…限界…か)」
虚弱体質の彼は、急な道を走るだけで足の節々が悲鳴をあげていた。
「(こんだけ走って…辿り着けねぇのか…)へっ…へっへっへへ…もう…駄目だぁ…」
傷心と絶望のあまり笑みさえ溢れ始め、托生はそこに崩折れる。
だが、彼は最後の希望を胸に前を向く。
「あ…っ!アッハッハ…!?」
托生が前を見ると、そこにはこの状況の打開法があった。
それを見て、托生は狂ったように嗤う。
「見つけたぁ…ぁ…見つけたっ…!」
崖の下に広がる世界へ飛び出して、こんな下らない人生を、とっとと終わらせるのだ。
このまま進めば…何もかも綺麗さっぱり終わってくれる筈だ。
ただ前に進み、上半身を乗り出して前のめりになればいい。
その降り立った崖まで、酩酊状態のように這って進む托生。
だが…──
「キシァァアーッ!!」
突然、謎の鳴き声が響き渡る。
「…はっ!」
一瞬にして托生は平静に戻される。
加えて、彼は後方からの強い危険と、同時に生命の危機を察知した。
「っ!?」
托生が慌ててそこを見ると…──
緑斑模様の巨大なトカゲが、大きな口から涎を垂らしながらこちらを見据えていた。
「シィーイッ!」
「ひっ…!?ぅあっ」
このままでは食われて終いだと察した彼は、すぐに走って逃げようとするが、彼の足はボロボロで使い物にはならない。
トカゲの巨大な掌が抵抗できない托生に振り下ろされる。
「あぁあ…っ──ぁあーッ!?」
今まで受けた暴力が遊びに思えるほどに、その痛みは尋常ではなかった。
その一撃だけで、意識が飛びそうになる──早く殺してくれと嘆願しもした。
だが、その心には、弱くも尊い光が残っていた。
「し…──く…ぬぇ」
彼のそのかすれた声は、届くことはない。
散々痛めつけ動きを止めたことで、トカゲはいよいよ飲み込もうと、めいっぱい広げた口を近付ける。
「…かっ…ぁあ…」
喉をいかに動かしても、何も出てこない。
ただ飲み込まれるのを待つばかりで、いよいよ自分の終わりだと、托生は希望など捨てて、近づいてくる死を迎えようとしていたが…──
──そんな時、トカゲに何かが迫ってきた。
「ゴァッ…!?」
頭が緑色の発光体に貫かれ、トカゲの巨体はそこに音をたてて転がった。
「(な…何が…お…き)」
托生は途絶えかける意識の中、朧気な視界でその状況を目にしていた。
「──大丈夫ですか!」
曖昧ではあったが、そう聞こえた。
托生の視界に、緑色が差し込んだ。
「──応急処置をしますので!どうか意識を保っ…」