第14話『眼帯の男の真意』
「はぁ…っ、はぁ…っ!」
ソータは裏路地を走り続け、息を切らしていた。
托生が危険な目に遭っているかもしれない──不安に駆られるソータはそのまま走り続け、托生を追い続けた。
「2人の相手をしていた時間は僅かだったというのに、ここまで差をつけられるとは…」
今思い返せば、そこが最も不思議な点だ。一体どこに行ったというのだ。
ひょっとするとどこかに分かれ道があり、そこで撒かれたのかもしれない。
「(ここは…戻るべきでしょう…)」
ソータは今来た道を戻ろうと振り返る。するとそこには…──
「──ッ!?」
眼帯の男が、すぐそこに立っていた。
「疲れているので、この遅さも無理もないか…」
「なっ…!」
恐ろしいスピードで、近づいていることにさえ気づかなかった。
眼帯の長髪、彼の装飾は先程の者どもよりも控えめだが、彼からは身をすくませるほどのプレッシャーが放たれていた。
「(くっ…体力も魔力も、そろそろ底をつくのに!)」
絶体絶命の危機に立たされた人間は正気を忘れる──今のソータはその一歩手前だ。
だが、ソータは考えつく限りの最善の策をとる。
巨漢2人にもやって見せたように、地形を駆使し何とかこの場を脱しなければ…。
だがここから先は迷路のような道である。だが…──
「(逃げなければ…!)」
──ダダッ!
ソータは力を振り絞って走る。止まっている男からの距離は10m以上もある。ここから差を縮められれば…──!
「はっ、はっ…──あぁっ…!」
「体力が充分ならもう少し頑張れたろう…」
「くっ…ああっ」
3秒も経っていないのにもう追いつかれてしまった。驚愕の体力だ。
「いやっ、離してくださいっ…!」
「…手荒な手をとるが恨むなよ」
「…!?な…何を言っているんですっ──」
質問を言い切るのを遮って、男は後ろからソータの肩に腕を回し、掌で口を押さえた。
「んーっ…!ふっーっ!」
想像を絶する力だ。万全のソータでも振り解けるかわからない。そのまま首を折られれば終いだ。
ソータは男の足を踏みつけるが、痛がる素振りは一切見せない。
そのまま近くの家屋のドアを開けられ、その向こうに連行される。
「(このままじゃ殺される…!)んんーッ、フゥーッ!」
必死の抵抗も虚しい。もはやここまでか。ソータは托生を救えずに死ぬことが、ただ辛くて堪らなかった。
この先自分はどうなってしまうのか──売女として売られるか…臓器を奪うために解剖されるのか…考えるほどに恐ろしい。
「…死にたくなければ黙っていろ…これは警告だ」
「ッ!?」
プレッシャーに押され、言葉も発せなくなった。
すると、思いがけない事態が起きる。
「──おい!女はここに居るはずだろ!」
「い…いや、いねえ!?」
「そんな馬鹿な!」
盗賊が数を束ねて、ドアの前にやって来た。
「面倒くせぇ!向こうを探すぞ!」
「チッ、見つけたらブチ犯してやる!」
男はこちらに気付かず、向こうへと走っていく。
「…」「…」
黙っていると、足音は遠のいていった。
「…よし、もういいだろう」
男はソータを解放し、ソータは訳もわからぬ様子で立ち尽くすのだった。
「お前の進んでいた道をもう少し進めば、別の街に出られるぞ…──速く行け、二度とくるなよ」
「え…?」
理解が追いつかなかった。
まさか、助けてくれたのだろうか。服を見るにさっきの奴らと同胞らしいのに。
「おい、速く行かねぇか…」
「…」
この男の真意はわからないが、自分に危害を加える人間かどうかもわからなくなってきた。
だがそうでなくては、自分をここで見逃す気にはならないだろう。
「…好都合かもしれません」
「なに…?」
ソータは男にまっすぐ向き直る。
「疑ってしまい…すみませ」
「やめろ。必要ねえ」
男はその謝罪を途中で断って、ソータに早く帰るように言うのだが…──
「私のお願いを聞いてください!」
「…?」
ボロボロのソータは、その真剣でまっすぐな目で見つめる。
他に頼る者はない。不本意ながら、この男は信用に値する人物だと思える。
「私のパートナーが、盗賊に連れていかれたかもしれません」
「盗賊…──俺の同胞かも知れないな…」
男は次にこう言う。
「どうしても助けたいのだな…」
「はい、人を助けるのに、理由などいりません」
男は今一度、ソータの目に何かを感じていた。
そして彼は後ろを向き、小さく言う。
「…来い」
「!…はい!」