第13話『幽閉と傷の真相』
「くぅ…ぁぁ…」
ガラ…ジャラ…──と鎖が擦れるような音に、托生は目を醒ます。
気づけば前回の目覚めと同様の有様で、四肢を鎖に縛られているではないか。
「うぁ…あぉ…」
初見のこの状況には驚く托生だが、次回と同じ反応だ。いちいちの目覚めに、彼の思い入れなどあり得ない。
「起きやがったか…」
托生の腕を縛っている3人のうち1人が、托生の目覚めに気付いたらしい。
「なん…だ…これ…」
目の前の状況があまりにも信じられず、托生はあのときあれだけ叫んだこともあり、そう掠れた声で言う。
そんな托生を快く思わず、托生の胸ぐらを掴み顔をずいと近づけ睨みつけた。
「ゴチャゴチャ騒いでんじゃねぇぞ…」「ブッ殺すぞテメェ…」
「…」
托生は恐怖する様子はない。いやむしろ…──
「「「!?」」」
托生の目が男と合ったとき、連中は思わず言葉を失う。
「…」
…むしろ、恐怖したのは連中のほうだったらしい。
決して睨んでいはしないのに、彼の目のあまりの異質さが3人の精神を掻き乱したのだ。
「こ…コイツっ!?」
連中が手を離して仰け反ったその時…──。
「──!あらぁ、これはお客様じゃないの?珍しいわ」
かなり若い風貌の婦人が、牢屋に入ってきた。
「…ぁ…?」
「「「え…“エル様”!」」」
3人は女をそう呼んだ。
「エル…様…?」
「ここに来るお客様は、この数年であなたが1番最初よ?この国のことわかってないらしいわね」
そのグラマラスな身に纏うのは、布があまりにも少ない黒のボンデージ。どこか女王を思わせるデザインだ。
「こんなに痩せこけて…隈もひどいったらありはしない」
女王様とは言ったが、その理由は彼女の目が下賤な平民を睨むような目だからだ。
だが、その目が艶かしく光った。
「まあ…そんなアナタの無神経さ…、逆に気に入っちゃったわぁ…」
エル様は足を開いて腰を下ろすと、手を後ろに構え肢体を全てさらけ出した。
他の3人の男も、その扇情的な姿には鼻の下を伸ばしている。
「うふふ…外の方もきっと喜ぶでしょうねぇ…」
理由もわからずにさらけ出された肢体でも、普通の男ならどうにでもなってしまいそうだ。場合によっては拘束されている現状さえ忘れて飛びかかろうとするかもしれない。
しかし托生は興奮どころか、むしろ汚物を見るような目であった。
「…チッ!」
托生のそれは、怒りを買ってしまったらしい。
「気に食わないわ…えいッ!」
托生は次に不意打ちを食らう。
──バシッ!
顔を足蹴にされてしまったではないか。
「ブフッ…!」
鼻が砕けて、鼻血が溢れてくる。
托生はあまりの痛みに悶えることもなかった。
「チッ…この小汚ない男が…!」
エルはそこで初めて托生の目に見つめられた。
「くっ…!何なのよその目!気に入らないわッ…!」
エルはそのままもう一度お腹を蹴って、部屋を出る。
「例の部屋に連れていきなさい…!」
「なっ…!」「そんな…あの部屋は」
意外にも、男も乗り気ではないらしい。
あのとき拷問室では、あれだけ痛めつけてきたと言うのに。
「いいですねぇ…!?」
エルの目が急に煌めいたかに見えた。
すると男は急に言葉を発しなくなり、眼の色を変えた。
「「「…」」」
拘束をはずしたと思うと、托生の首に一瞬の痛覚がドンとのしかかった。
※…11話の冒頭に続く