第12話『国への到着とまたの災難』
※いずれ托生に降りかかる事態から、5時間もの時を遡り…
托生はあの発狂以来ソータに眠らされ、そのまま起きる気配はない…。
そんな彼を背負いながら、ソータはいよいよ門の前へと到着していた。
「托生さん…あなたは本当に…どうしてこんなことになってしまったんですか」
聞こえないと判っていながら、眠る托生にソータはそう問いかける。
「…寝息さえたてないなんて…」
動いてはいるし温かいから、死んでいないだろうとはわかる。
だがソータの脳裏から、先程に見た托生の変貌が剥がれることを知らなかった。
托生が軽い体重であるゆえに疲れることもなく、暫く平野を歩いてから、ソータは門の前に立つ。
「それにしても…──」
ソータは門を見上げ、訝しげに黙った。
「こんな大きな国で、人の往来がこんなにも少ないなんて…」
この門は遠くで見たものよりも違うものらしいが、どこかそれが不思議でならない。
やはりあっちの門のほうがメインなのだろうか…──とはいえ、引き返すのも面倒だ。
托生を早く引き取ってもらい、精神状態の回復を行わなくては。
──門をくぐると、そこには何の人気もない閑静とした街が広がっていた。
「…」
あそこの門が使われていない理由にも、この景観を見て納得がいく。
「誰もいない…」
この国は崖から見たとおりあれだけ広い…──大移動等があったとすれば、こういったゴーストタウンが出来るのも不思議ではないが…。
「誰かー!誰かいらっしゃいませんか!」
ソータは念の為、声を出して助けを求める。
こんなに寂れた街でも、きっと誰かはいる筈だ。
「ぐ…ぅう…」
托生が目覚め始めたらしい。
だが、こうしている間は穏やかだ。死人のような有様ではあるが。
「──…っ、ん?」
ソータは、何かに気づいたように周囲を見る。
──コツ…コツ…と足音がする。
そこを見ると、男2人に囲まれていた。
「ど…どうかしました?」
「…なぁ、お嬢ちゃんよぉ」「ここに入ってくるってこたあ、そう捉えてもイイんだよなぁ」
身長ではソータよりも上というところか。
威張る様子に加え、その装飾は盗賊らしくジャラジャラと鎖があしらわれている。
「何を言って…」
「とぼけんのか?魂胆は見え透いてんだよ」「ココはうちのシマなんだよ。お前どこの鉄砲玉だ」
「シマ…──縄張りということですか…」
だが2人は、ソータよりも気になる人間がいたらしい。
「よぉ、その兄ちゃん…誰だ」
「彼のことは関係ありません!」
「同情なんざするつもりはねえぞ…どんだけ馬鹿だって、こんなとこに来ることはねえぞ」「ホントはその兄ちゃんも起きてんだろ?このアマ教育してやるぞ」
戦闘態勢に入った男共を見て、ソータは内心ウンザリする。
あちらがそう来るなら、こちらも迎え撃つまでだ。
「…こちらの理屈は通用しないらしいですね…」
托生を地面にそっと寝かせ、彼女も戦闘態勢に入る。
「おぉ…?女の癖に図太い精神しやがる…」「とんだ自殺志願者がいたもんだな」
「スゥ…──はぁ…」
ソータは溜め息に似た深呼吸をすると、勝てると信じて疑わぬ様子である連中に向き直った。
※
「かっ…ぁあ…」「ぐぁあ…」
ソータが倒した男は、口から泡を吹きながら倒れた。
「はぁ…はぁ…」
楽勝とは言えなかった。
クリフギャングとの激戦の疲労と、托生の傷を癒やしたのが響いている。
ソータと同等の力が2人にないにしろ、ここまで疲労すればこうもなるだろう。
だがこうしてはいられない。托生を運んでこの廃墟を抜けなければ。
「…──あれ?托生さん!?」
托生がいない。
「ど…どこに!?」
いくら探してもいない。
先程の戦いで見失ったのだろうか。
「だとすると…──?」
托生を寝かせた場所の近くには、路地に曲がる道がある。
「ひょっとすれば…」
ソータが路地裏を見詰める。
どうやら奥にわたって続いているらしい。
「托生さんが危ない!急がなくては──…はっ!」
裏路地を曲がると、巨漢が3人も立っていた。
「そんなに急いでどうしたぁ?」「ちと遊んでいけや」
「男を連れ去った連中の差金ですか…」
「まぁそんなとこだぜ」
ジリジリと追い詰められていく。
「く…」
残り魔力も僅かのこの状況…──托生を救いに行かねばならないのに、こんな所で足止めを食っている暇はない。
「…っ!」
ソータは高く飛び上がって、壁の取っ掛かりを足場に男どもの頭上を通り抜けた。
「あ…」「あぁ…」
「相手をしている暇はないんですよ!」
ソータはひたすらに走る。
一気に訪れた状況の変化に立ち尽くすマヌケ3人も、一気に正気に戻る。
「逃げたぞ!追え!早く!」「なんつう速さだ!追いつけねえ!」
いくら追いつこうと走っても、その差は広がるばかり。
怒りだけが高まる一方、その3人の怒りは次の一言で冷めることとなる。
「止まれ…」
「「「うっ!?」」」
男はその声を聞いた途端、逃げるソータを知らず、背後からの声に急に動きを止めた。
「魔力を消耗している女にも遅れを取るとは…」
「す…すみません!」「許してくださいボス!」
ボスと呼ばれる男は、巨漢3人に恐れられているとは思えない、托生よりも高身長の男という印象だが、右目に眼帯をする長髪の男だ。なかなかに若い。
「すみませんボス!もっと速く追いますんで!」
「必要はない…俺が追うからな」
「えっ!でもボス──」
それに男は急に舌打ちをして…──
「黙って俺の言うことを聞け…俺が絶対だ」
「「「っ!」」」
巨漢3人を黙らせて、男は3人は愚かソータをも凌ぐスピードで路地を走り始めた。
「…必ず捕まえるぞ…──必ずな…」