第二章 闇の本質1
「グリースが行ってきたことの全てですか…それは一体どういうことでしょうか…」
「…聞いていればわかるよ…魚王国の姫君よ。」
…少なくとも今喋ったのが魚王国の姫だと知っている人物ではあるようだ。が、今はそこではないか…彼の話をじっくり聞こう
「この国は平和だった…海深くにあるが故に他国と関わりが少なかったが、当時の賢王は国民より広く慕われていた。ところが…突然の国王及び王妃暗殺の報が入った。そして、グリースが権力をフルに活用させて今の王になるようにしむけて世界へ宣戦布告しようとしている…ここまでは君達も知っているはずだ」
「ええ、金魚姫がそこまで語ってくださいました。」
「…が、グリースがこのような地位になったのは最近だ…おかしいと思わないか?偶然にしては出来すぎてる。」
「…?」
「考えてもみなよ、国王達を暗殺して1番得が来るのはその当時最高権力だったグリースだ。まだ歳もそこまで行ってない王の子2人に判断させる訳にも行かないから、グリースに全選択権が委ねられる。」
「言われてみれば…ですが、金魚姫はその犯人は捕まったと…」
「…犯人を偽装するくらい造作もないだろう。それに、それ以前から計画は始まっていた。」
それ以前から計画は始まっていた…?確かに国王達の暗殺に何かしらの裏があると考えるのはわかるが…
「…グリースの部屋を調べさせてもらったよ」
「くっ!?あの部屋に入ったのか!」
「グリースの両親は非常に野心家だったようだ。ところが、彼らには力がなかった…そこで、一族で随一の才能を持つグリースに帝王としての教育…帝王学を施した。」
「帝王学だと…!?その教育は既に滅びたんじゃねぇのか!」
帝王学…それはこの大陸では禁じられたものの1つとされている。理由は簡単、それを学んだ者は皆等しく暴君、帝王、支配者などとなり、国にとっても世界にとっても良い末路を辿らないからだ。
故にその内容を知っていることすら本来ならありえない話なのだが…
「でもどうしてそれがわかったんだ?」
「部屋にまではいられると思わなかったんだろう…グリースの机に帝国学の全てを記した本が置かれていた。しかもタチが悪いことにこの本…''この国とは全く関係のない第三者の作った本''なんだ」
「!?つまりこの本と同じものが他の誰かの手にも渡ってる可能性があるのですか…!!」
なんてことだ…そんな非道なことをするものがどこに…いや、今本題はそこではない。
「その帝王学を学んだグリースは何を…」
「…グリースは非常に狡猾で賢かった。まず、彼は王達の信頼を得ることにした。彼らの元へ就き王達にただひたすら媚びを売った。だが…それだけでは不十分だ。そこで…次に就けるであろう1つ位の高い役職の人間を順に殺すことにした」
「!?」
「そんなことをすれば普通はバレるだろう…でも、彼は自ら手を下すことは無かった。操りの術を使い他の誰かにやらせたんだ」
「なっ…!!」
「その結果彼は1年もしないうちにその当時国王の次に高い位である国王補佐になった。もちろん…前の国王補佐を殺してね。だが、国王も見逃してはいなかった。彼らは1年もしない間にここまで人が暗殺されるのを不思議に感じたんだ。」
「…考えてみたら不思議だよな。」
「だが、グリースは国王が調べ始めるより前に国王達を殺した。」
「!!父上と母上を…!」
「迷いはなかっただろうね。だが、それでも手に入れられるのは所詮国王補佐迄…では、ここから帝王になるにはどうすればいいのか?…グリースは''考えることすら出来ない木偶の坊に国王をやってもらい、自分が摂政となり国を操ればいい''と考えたんだ。」
「!!!!」
「彼は当時最高の権力であることを利用し、君の弟を無理矢理国王にしたあと、洗脳術をかけた。だけど、ほとんどの人々は洗脳にかけられたことを知らない…だからグリースの命令はまるで''国王の命令であるかのように偽れた''」
「とんだゲス野郎だな…」
「だが…彼は満足してなかった」
「!!??」
「帝王として施されたその野心は魚王国の支配だけでは満たされなかった。そう思った彼が目を向けたのが''他の国''だった。妖術について学びのない国を襲えばあっさりと支配できてしまう…そう考えた彼は準備を始めた。しかし…予想外の邪魔が入った。」
「内乱か…」
「そうだ。しかし、都合が良かったこともあった…それは、反乱因子を片付けるという名目で邪魔だった姫を処分できるというものだ。だから彼は姫を捕らえるのに必死だったんだ…直ぐに処刑すれば済む話だが、彼は絶望を見せたかった。そう、彼は姫を公開処刑するつもりだったんだ」
「!!助けてもらえなかったら今頃私は…」
「ああ、全国民の前で処刑されるだろう。そしたら彼の計画の完成はもう寸前だ。他の国を支配して邪魔になった国王を暗殺して自分が帝王となる。…これがグリースの考えていた全てであり、行ってきたことの全てだ。悔やむべきは…グリースの凶行に気がつけたのが国王達だけだったことだ。」
…私たちが思う以上にグリースは下衆のようだ。これが帝王学を学んだ者の末路なのか…?いや、例え帝王学を学んだとしてもそれを止めるような誰かがいたら…
こういうことを経験すると感じてしまう。過去に戻れないのがいかに残酷なのか…そして、私達は戻らぬ時を進むしかないということを