第一章 戦後1
-終わる時は意外とあっさりとしたもんだ。本当は長かったかもしれない戦も、俺は小説の10ページにも満たないくらいの長さしかないんじゃないかって思った。
兵士達は勝利の雄叫びをあげている。しかし、俺は盛り上がれる気分にはならなかった。なんでだろうな…勝ったはずなのによ。こんな終わり方で…本当に良かったのか?
「…シン、君の言うことに従おう。何をすればいい…」
アマリアは顔を俯いている…地面には濡れたあとがあった。ああ…所詮、勝者の気持ちなんてこんなもんなんだな。ラムの言う通りだ。昔のように戻れそうにはねぇや…
「お前のとこの怪我人を治療してやれ。」
「ああ…わかった。」
…たくさんの血が流れた。たくさんの涙も流れた…たくさんの命が散った。戦争が正しくないなんてことはハナからわかってる。だけど、こんなに虚しいのか?戦争の勝者ってのは。
俺のところに伝令兵が来た。恐らく、この後の行動の指示を待ってるのだろう
「どうされますか?草食王国の人々を生け捕りにしますか?」
「そんな必要は無い。お前達も治療の手伝いに行ってやれ」
「は…はっ!!」
俺はこの罪をどうやって無くしていけばいいのだろう。いや、無くせないか。一生この十字架を背負わなきゃな
-私達は戦に勝利したようだ。…おかしい、それが目的なはずなのに私は嬉しさを微塵も感じぬ。なぜなんだ…
すると、草食王国の兵士達がやってきた。どうやらラム殿とゲニア殿を運ぶらしい
「ラム様が危ない!急いで運べ!」
「…」
「うわぁ!?竜族!ゲニア隊長に何をするつもりだ!」
「医務室へ案内してくれ。お主らではこの者を運ぶのは荷が重い」
「えっと…あっちに…」
「かたじけない。」
私を信じてくれた兵士達には感謝せねばなるまい。私の威圧がそうさせただけかもしれぬが…。
母は1人で肉食王国へと戻ったようだ。母ならば大丈夫だろう。だが、一刻も早くゲニア殿を…この者は、この世から旅立つにはまだ早い。まだ果たせおらぬいつかを果たすために…
「へっ…悪いな…ドライトン…お前の怪我も…すごいだろ…」
「…ゲニア殿は…自分のことだけを気になされよ。私は…大丈夫だ」
「そうか…」
-私達は負けた。これ以上みんなが傷つくのを私は見たくなかった。臆病というのだろうか?それとも…それよりもラムだ。彼の怪我はすごく酷いようだ
「ラム…ラムは…」
「急いでお運びしています。とても危険な状態です…」
「…そうか。頼んだぞ、ラムのことを」
「最善を尽くします」
…頼む、無事でいてくれ…そしてまた…私の前に…いつもと変わらない笑顔で来てくれ
----翌日 草食王国 医務室
「ゲニア殿、ご無事で何より」
「あのなぁ、この足を見て無事と言えるか?しばらく動くなってよ。」
「そうであったか…私のせいでこのような事態に…」
「戦争に悪いも正しいもない。あの時は楽しめたんだ、それでいい。それに…もう潮時だってのは感じていたんだ。ちょうどいいきっかけだ」
「そうであったか…」
「そっちの国はどうだ?なんか変わったか?」
「こちらの国ではアマリア殿が来て条約を結ばれておった。が、国王殿は特にあれこれするつもりはなく賠償金や領地を取るなどということも無いと。」
「そっか…こっちもそんなに変わらねぇな。戦争が終わった後だってのに不思議だ…」
「…ラム殿は」
「一刻の猶予も許さない状態のようだ。しばらくは目覚めないだろう」
それもそうであるな…あれだけの攻撃を受けて生きている方が不思議だ。
「ところでよくここに来れたな?」
「ああ、止められたがゲニア殿の友人ともうしたら通してくれたぞ」
「…それ威圧でどかしただけじゃねぇの?」
「はて、なんの事か」
「槍ぶっ刺すぞ(((((」
そして、再び数日の時が流れ…
-ここはどこだ。そうだ…僕らは負けたんだ…負けてそして…
あれは!アマリア!シン!!!何をするつもりなんだ…やめるんだ…やめてくれ!!!うわあああああ!!!
「やめろっ!!!…はぁ…はぁ…」
…誰もいないか。どうやら夢を見ていたらしい。あんな悪夢を見ることになるとは…なんて情けないのだろう。
ん…あれは一体…黒い影…?
「お前は誰も守れなかった。」
「!誰だっ!」
「僕はお前だ。お前は僕だ…お前らの言う幻だろうな。けど、この幻を見せてるのはお前自身だ」
「…そうかもな」
「お前は知らないことが多すぎる。それで本当にアマリアが守れるのか?」
「…」
「お前は知らなければならない。多くのことを…なんのためか、何をしなきゃならないか…お前自身がよく知っているはずだ。」
「待てっ!!!…くっ」
あの影の言う通りだ、僕は知らないことが多すぎる。それで護れるのだろうか…?アマリアを、この国を…
………
-こんなこと誰にも言えない。自分の影に気付かされたから旅に出るなど。それに…反対されるのがオチだ。でも、僕は行かなきゃならないんだ、たくさんのことを知って…この国を、アマリアを…みんなを護るんだ。
…扉が開かれた。入ってきたのは、ラビトだった。僕が目覚めたことに当然驚いてみんなのところに行こうとしていた…しかし、僕はそれを止めた。せめて、1人くらいには言って置こうと思ったからだ
「ラム様…?」
「これから僕は暫く旅に出る。理由は話せない…」
「旅って…無茶です!そんな怪我で!!」
「…行かなきゃならないんだ。この国にもみんなにも迷惑をかける…。そんな僕を…許してくれ」
「ラム様…」
「じゃあ…またね」
-魔法で扉を開けてどこかへ旅立つラム様を止めることが出来なかった。果たして、あのラム様の悲しいような…後悔があるような…そんな姿を見て誰が止められるのだろうか?
僕には無理だ。なんで僕に伝えたんだろう…僕に伝えられたって、何も起きませんよ…ラム様。