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瞳の中のキセキ   作者: 夢遥
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瞳の中の キセキ

やっと、海斗が元の世界から帰ってきて、逢えることができた愛楓。

でも、ある日のこと、仕事仲間である環奈と海斗が熱愛スクープで報道され、 環奈は海斗と婚約している事を、記者会見で発表する。

愛楓はショックのあまり、眠れない日々が続いていた。

昼休みーー。

天気が良かったので外で梨音とお弁当を食べることにした。


「はぁーーー」


お弁当を食べながら、溜め息が漏れる。


「もしかして、あの記事のことで落ち込んでる?」


心配そうに聞く梨音に、私は顔を曇らせる。


「何だか、あの記事が出てから海斗の事ばかり考えちゃって……海斗に告白されたことは嘘だったんじゃないかって………」


この前、海斗に告白されたこと梨音に打ち明けたものの、海斗のスクープ記事が出るとは思わなかった。


「愛楓の考えすぎだよーーって言いたいところなんだけど……何しろ、海斗さんモテるからな~~~」


「ーーーーー」


そう言われると、言葉に詰まってしまう。でも、海斗のことは信じたい。


「でも、これからどうするの?あの記事に書いてあることは事実じゃないって海斗さんは言ってたけど、もしそれが本当だとしても、愛楓には奏多がいるんだよ?」


「…………………」



「お試しで付き合う前から、奏多は愛楓のことが忘れられずにいたのに、もし別れるって言ったら奏多もショックが大きいと思うよ」


「…………………」


それは、分かってる。でも、やっと海斗に逢えて想いが通じ合ったのに………。



その1週間後、環奈ちゃんが記者会見を開いたーーー。



「カイトさんと結婚を前提にお付き合いさせてもらっています」


本当に海斗と付き合っているのか、記者の質問に迷いなく環奈ちゃんは応えた。


「ーーーー!!」


愕然と、テレビに映る環奈ちゃんを見つめた。


公園で環奈ちゃんが、海斗のことを婚約者と言っていたことを思い出す。


嘘だよね?海斗は婚約もしてないし付き合ってもいないって言ってたもの…………。


視界がぼやけ、お粒の涙が頬を伝わって落ちていった。


「……ひっく…ひっく……ふぇ…んわぁーーん………!!!!…」


余計に胸の痛みが突き刺さり、泣きじゃくることしかできなかった。





海斗と環奈ちゃんのスクープ報道が流れてから1週間が過ぎーーー。


学校の帰り道、奏多と待ち合わせしてファミレスにきていた。


「はぁーーー」


あれから、海斗と連絡をとろうとして電話をかけてるものの、繋がらないままだった。

梨音の話では、ホテルに一時避難しているって事だったけど、場所までは叔母さんも教えてくれないらしい。


「愛楓……顔色悪いぞ、大丈夫か?」


奏多は、心配そうに顔を覗き込む。


「う、うん……」


ホント言うと、なかなか眠れない日が続いて寝不足気味で最近、立ちくらみがするけど、奏多には言わないでおこう。


「愛楓が大丈夫ならいいんだけど…具合が悪かったら、すぐに言えよ?」


「奏多…………」


一日中、海斗のことが頭から離れないのに、私を思ってくれる奏多には申し訳ない。


「でも、元気がないのは気になるけど……やっぱり、アイツが原因だよな」


「……………………」


「愛楓のこと振り向かせる、なんて言ったけど、2次元の人物でも……やっぱりアイツには勝てないのか……」


「…………………………」


そう言われると、何も言葉が出てこない。


「あぁ~~、やめやめ!アイツの話はしたくない。それより、もうすぐテストだろ?母さんも愛楓に会いたがってたし、今からうちで試験勉強やらないか?」


「え?あ…うん……私も久しぶりにおばさんと会いたいしいいよ。あ、梨音も誘おうか?」


「んーー、今日は2人がいい。ダメかな?」


「そんな事はないけど………」


中2までは、奏多の家で2人で遊んだり勉強したこともあったけど、その後、告白を断ってから気まずくなって家に行きずらくなったんだよね……。




「愛楓ちゃん、いらっしゃ~い!さぁ、上がって上がって!!」


奏多の家に行くと、おばさんが嬉しそうに出迎えてくれた。


「おばさん、お久しぶりです。お邪魔します」


「ホントに久しぶり!愛楓ちゃんが遊びに来てくれないから、おばさん寂しかったわ~」


「私も、おばさんに会えて嬉しいです」


奏多のお母さんは、凄く明るい人だから、こっちまで元気をもらえるんだよね。


おばさんと和気あいあいしていると、


「愛楓、俺の部屋に行こう」


奏多は不機嫌そうに、私の腕を掴んだ。


「あらあら、私が愛楓ちゃんを離さないものだから、奏多ったらヤキモチ妬いちゃって~~~」


「母さん、余計なこと言わなくてもいいから!今から俺達、勉強するから邪魔しないでくれよな」


「ふふふ、はいはい」


満面の笑みを浮かべて、リビングの方へ戻って行った。



「奏多、ここなんだけど………」


奏多の部屋に行くと、教科書を広げて、苦手な英語を解き始めたものの、解らなくて途中でペンが止まってしまった。


「あ、ここは………」


私の呼び掛けに、奏多は教科書を覗き込む。


近いーー!!


いつもより、奏多の顔がすぐ近くにあって戸惑ってしまう。


「ーーーそれで、ここは定型文を……って、愛楓……聞いてるか?」


「えっ、あ、うん……」


集中していないのに気づいたのか、奏多に顔を覗かれ慌てて頷いた。


「愛楓、大丈夫か?やっぱり、今日はテスト勉強やめとく?」


「ううん、大丈夫。今度は、ちゃんと聞いてるから続けて」


まさか、奏多を意識して聞いていなかったなんて言えない。


それから気を取り直して、勉強を再開することにした。



それから、何時間経っただろう。

気づいたら、外は少し薄暗くなっていた。


時計を見ると、もうすぐ6時になろうとしていた。


「ん〜〜!!そろそろ帰らないと……」


腕を伸ばして伸びをした後、勉強道具を片付けていると、ドアをノックする音がしたかと思うと、おばさんが顔を覗かせた。


「奏多、そろそろ終わりにしないと、愛楓ちゃんが……って、あら?もう、片付けてるのね」


「あ、おばさん。私、そろそろ帰ります」


「また来てね、愛楓ちゃん。ほらほら、奏多…家まで送ってあげなさい」


「ん?ああ……」


おばさんに急かされて、奏多は急いで立ち上がった。


「家も近いし、大丈夫です!」


「そう言わずに、奏多に送ってもらって」


結局、おばさんの推しに負けて奏多に家まで送ってもらうことになった。



「愛楓、ごめん。こんな時間まで………」


奏多が申し訳なさそうに謝る。


「ううん、私も分からなかった所を教えてもらって助かったし……ありがとう、奏多」


「いや、また分からない所があったら言えよ」


「うん、ありがとう…じゃあね、奏多」


家の前まで来ると、奏多にお礼を言った後、家に入ろうとした時、急に腕を掴まれて奏多の胸の中へ引き寄せられた。


「…奏多………?」


突然の状況に、キョトンとしている私の肩を掴むと、顔を近づけてきた。


キスされるーーー!?


反射的に顔を背けてしまう。


「ご…ごめん、奏多……」


「いいよ、謝らなくても…」


「……………………………」


「…………………………」


その後、気まづくなり私も奏多も沈黙が続いた。


「あ~あ、わかってた事だけど、やっぱり拒否されると、ショックが大っきい~」


「奏多…………」


「はぁ~~、俺の方に振り向かせようと思ってたのに、幼なじみ以上になれないのかなーー」


奏多は、大きな溜め息をつく。


「……………」


なんて言っていいかわからず、俯くしかできなかった。





「愛楓、海斗さんなんだけど、ここにいるみたい」


数週間が過ぎたある日、学校へ行くと、梨音が海斗の居場所を突き止めたのかメモした紙を私に渡してくれた。


「奏多には悪いとは思うけど、ずっとそんな顔されてるよりはマシだし」


「梨音…………」


「今日は授業も午前だけだし、午後に行くのも有りかも」


「うん、ありがとう梨音!!」


嬉しさのあまり、梨音に抱きついた。


「私が海斗さんの居場所を教えたの、奏多には内緒にしておいてね?」


「わかってる」


「じゃあ、そういう訳で私も一緒に行くわ」


「梨音も?」


「うん、だって……まだ記者がうろついているかも知れないし、独りよりは2人の方が何かと心強いかと思う」


「ありがとう、梨音!!」


学校が終わると、私達は梨音が書いてくれたメモを頼りに海斗がいるビジネスホテルへ向かった。





「このホテルじゃない?」


目的地近くに来ると、梨音が一際大きいホテルを指差す。


何階まであるのだろう、周りのビルから比べると凄く目立って建っていた。


「記者の人、いないみたいだね……これから、どうする?部屋の番号だと13-Aみたいだけど……」


梨音は周りを伺いがら、聞いてきた。


「…………行ってみる」


「大丈夫?一緒に行こうか?」


「ううん、独りで行ってくる。梨音はここで待ってて」


「わかった……ここにいるから。何かあったら連絡して」


「うん!」


大きく頷くと、ホテルの中へ足を運んだ。



エレベーターで海斗がいる部屋へ向かう。


「13-A……13-A……」


部屋の番号を確認しながら、進んで行く。


「ここだ……」


部屋へ辿り着くと深呼吸した後、呼び鈴を鳴らした。


ピンポン~~~♪♪


でも、ドアが開けられる様子もなく、静まり返っていた。


もう一度、呼び鈴を鳴らしてみたけど、やっぱり海斗が出てくることは無かった。


いないのかな……?


ガッカリ肩を落とすと、その場を離れようとした時、ガチャっとドアが開く音がしてドアが開いた。


「はーい、どなた?記者さんなら、お断りしてるんだけど」


中から姿を現したのは、環奈ちゃんだった。


「ーーーーー!!!!」


呆然と立ち尽くしたまま、環奈ちゃんをみつめた。


「あら?あなたは…………」


環奈ちゃんは、私に気づいて目を丸くする。


「こ…ここに……海斗がいるはずじゃ………」


「あら、よくわかったわね」


「……………………」


どうして、環奈ちゃんがここに………?


戸惑いながら、ぎゅっと拳を握り締めた時だった。



「おい、勝手に出るなよ!!」


中から声がして、海斗が姿を現した。


「…………………!!」


半信半疑だった私の目の前に2人の姿を見て、現実が突き刺さる。


「愛楓ーー!?」


驚いた顔で、海斗は呆然と立ち尽くす。


「も…もしかして……ここに2人でいるの……………?」


喉の奥から、つんとした物が込上がって、目頭が熱くなる。


「いや…違っ………」


海斗が何か言いかけた時、環奈ちゃんは笑みを浮かべた。


「一緒にいるのは、当たり前でしょ?私達、婚約してるんだから~~~」


「ーーーーー!!!!」


環奈ちゃんの言葉が、ハンマーで頭を殴られたような感覚に襲われた。


「お前な……勝手なことばかり言われても、俺はそんな気は全然ない」


「何言ってるのよ、記者会見まで開いたのに。もう、全国に知れ渡っちゃったのよ?」


「それは、そっちが勝手にやったことだろ?今からでも、訂正の記者会見を開いてもいいんだぞ?」


海斗はムッとしながら、環奈ちゃんを睨みつけた。



どうやら、環奈ちゃんが勝手にやったことらしい。


「そんな……私はカイトのことが、本当に好きなのに……」


環奈ちゃんは、ショックのあまりガックリと肩を落とした。


「もう、話は終わりだ!帰ってくれ」


海斗は無理矢理、環奈ちゃんを部屋から追い出した。


「えっ、ちょっとカイト!?」


環奈ちゃんは、慌てて引き返そうとしたけど、海斗はドアを閉めてしまった。


「カイトーー!!!」


環奈ちゃんは、まるで悪い事をして家に入れてもらえない子供のように泣き叫んだ。


「環奈ちゃん…………」


躊躇しながら、環奈ちゃんに声をかけると、環奈ちゃんは私をキッと睨みつけた。


「あんたと比べて、カイトは住む世界が違うんだから、弄ばれて捨てられるだけなんだからね!!!」


そう言い捨てると、つかつかとエレベーターの方へ歩いていった。


環奈ちゃんが行った後、何だか冷や汗をかいてしまう。


今までは、優しくてキラキラしてる環奈ちゃんのイメージが、崩れ落ちる。


「はぁ~、環奈ちゃんが、性格キツイなんて知らなかった……」


溜め息をつくと、ガクリと肩を落とした。


海斗も中に入っちゃったし、帰ったほうがいいのかな…………。


諦めて帰ろうとした時、海斗の部屋からガチャっと音がしてドアが開いたかと思うと、腕を掴まれ中へ連れ込まれた。


「きゃーー………!!」


驚いて声を上げようとした時、手で口を塞がれもがいていると、


「しぃっーー、静かに!!」


目の前で海斗が唇に人差し指をあてながら、困った顔をしていた。


「………………」


次第に肩の力が抜けて、海斗に促せるままになってしまった。


「ごめん!!通路で誰かに見られるとマズいものだから」


海斗は、慌てて私の口を抑えていた手を離した。


「ううん、こっちこそ騒いでごめん……」


「でも、驚いたな………。よくここがわかったな」


「梨音に教えてもらったの…」


「そっか……」


「海斗の携帯に電話しても繋がらないから、心配したんだよ?」


「悪い、携帯は社長が預かってて連絡できなかった」


「そうだったんだ……」


だから、繋がらなかったのか………。


理由がわかって、少しほっとする。


ううん、ほっとするのは、まだ早い。まだ、環奈ちゃんの問題が残っている。


「海斗……私の質問に応えて欲しいんだけど」


「ん?」


「環奈ちゃんと本当に婚約してないの?」


「当たり前だろ?あれは、勝手にアイツがやった事だし、そんな約束もしていない」


海斗は私の目を見ながら、真剣に応えた。


その瞳はとても嘘をついているように思えない。


「それより、俺の質問にも応えて欲しいんだけど?」


「な、何?」


「アイツとは別れたのか?」


「…………………」


まだ、奏多には言えていないから、何て応えたらいいかわからず戸惑っていると、海斗に腕を掴まれた。


「言ったよな?アイツとは別れろって…別れないなら、俺がアイツのことぶん殴るしかない!!」


「………ーーーっ!!!」


今までとは違う怖い顔で言われて戸惑っていると、海斗は急に何かを堪えるように肩を震わせた。


「ふっ……あははは~~~!!」


「海斗ーー!?」


訳がわからず呆然としていると、


「愛楓が、そんなに困った顔するとは思わなかった~~」


「なっ……もしかして、からかったの!?」


海斗の可笑しそうな顔を見たら、何だかムッとして睨みつけた。


「悪い……そんなに、困らせるつもりはなかったんだ」


「もぅ、本当に殴りに行くのかと思って焦ったんだからね!?」


駄々をこねる子供のように、海斗の胸をぽんぽん叩く。


「ごめん………」


宥めるように、海斗は私を抱き締めた。


「アイツとは長い付き合いだもんな…なかなか言えないのもわかる」


「……………………」


奏多とは幼なじみから、お試しで彼氏に発展したけど、恋愛感情は今でもない。


「アイツと別れられなくても、俺は君を奪いにいくだけだ」


「ーーーー!!!」


海斗の言葉に、ドキドキと鼓動が高鳴った。


何で、こうも違うのだろうーー。

奏多にどんな言葉を言われても、こんなに胸が弾まなかったのに、海斗の一言で胸の奥がきゅんとして、こんなにも心動かさられるなんて。


「俺、待ってるから……アイツと別れたら、正式にまた、お前に告白する………」


「海斗……………」


そこまで言われると、早く奏多に言わないといけないよね………。


キュッと唇を噛み締めた時、


♪♪♪♪♪~~


携帯から、着信音メールが鳴り響いた。


メールを確認すると、梨音からだった。


『まだ、時間かかりそう?そろそろヤバいかも!記者が来たかも』


ヤバっ、もう帰らないと!


「海斗……私、そろそろ帰らないと」


ドアを開けようと、ドアノブに手をかけた。


「ちょっと、待った!」


海斗は、ドアをそっと開けると通路の方を伺った後、またドアを閉めた。


「はぁーーー」


「海斗……………?」


「ごめん、愛楓………記者がいる」


「えっ…………!?」


記者がいるのは、外だけじゃないの!?


環奈ちゃんがいた時は、誰もいなかったのにーーー。

たまたま、いなかっただけなのかな………。


どうしようーーー!!


梨音に急いでメールする。


『緊急事態!中にも、記者がいる!』


『え!?わかったーー何とかするから、待ってて』


「ーーーーーー」


待っててって………梨音、どうするつもりだろう。


「梨音が、そう言うなら待つしかないな」


私と梨音のメールのやり取りの画面を覗きながら、海斗は言う。


「そんな呑気な……………」


不安に思いながらも、梨音の連絡を待つこと30分が経とうとした時、梨音からメールが届いた。


『お待たせ!もう、大丈夫だと思うから、部屋から出てきて』


「俺がドアを開けて様子みるから、合図したらその隙に出たほうがいいみたいだな」


海斗に梨音から届いたメールを見せると、少し考えてからドアをそっと開けて部屋の外の様子を伺った。


「今は、いないみたいだ。今のうち!!」


慌てた様子で、海斗は手で合図すると促した。


私は、急いで部屋から出ていこうとした時、


「落ち着いたら、連絡する。それまでに、奏多と別れてることを祈ってるよ」


帰り際、耳元で海斗の声が残った。



周りを確認しながら、そそくさとホテルの外へ出ると、報道陣の群れが視界に広がった。


報道陣に囲まれ、海斗の事務所の社長(梨音の叔母さん)が立っていた。



「2人の結婚はいつ頃になりそうですか?」


独りの記者が、社長に質問しているのが、聞こえてきた。


「それは、事務所の方針で企業秘密です」


しれっとした表情で、質問を返す。


そんな中、少し離れた所で、こっちに向かって梨音が手招きしていた。


私は、急ぎ足で梨音の方へ向かう。



「愛楓ーー、心配したんだよ~。誰にも見つからずに出てこられた?」


「うん……」


「よかった~、叔母さんを呼んだかいがあったわ」


安心したように、梨音はほっとした顔をさせた。


「ありがとう、梨音」


「これくらい、どうって事ないよー。それより、どうだった?海斗さんと話せた?」


「う、うん……」


「よかった、これで、心置き無く奏多と付き合えるね」


「……………………」


海斗と話したこと、梨音には言った方がいいのか迷うけど、いつかは分かることだし、海斗と話したことを言おう。


梨音に、海斗と話したことを打ち明けた。



「海斗さんが、そんなことを……」


「本当にごめん、梨音……これ以上、奏多とは………」


言葉に詰まり躊躇する私に、梨音は小さな溜め息をついた。


「はぁーー、仕方ないわね。海斗さんが姿を消した時も忘れられなかったものね……」


「じゃあ………」


「奏多には悪いけど、愛楓の気持ちも尊重しなくちゃ。それに、海斗さんとは両想いだし」


「梨音…………」


「奏多には、上手く言えるように、協力してあげる」


「ありがとう!!」


それから、梨音に協力してもらい日曜日に、奏多に会うことになったのだった。




「愛楓、ごめん。遅くなって」


家の近くの公園に奏多を呼び出し、ベンチに座って待っていると慌てて奏多が走ってきた。


「ううん、私も今来たところだから」


「梨音から聞いたんだけど、大事な話があるんだって?」


「う、うん…………」


「…………もしかして、期限つきの付き合いを解消したいとか?」


「ーーーっ……うん……」


躊躇しながら、小さく頷く私に、


「正式に彼女になってくれるのか!?」


奏多は、ぱあっと顔を輝かせた。


「ち、違うの!!そうじゃなくて……また、幼なじみに戻りたいの」

「ーーー!!……どうして……幼なじみに戻りたいなんて……」


あまりのショックに、奏多は呆然と立ち尽くす。


「ごめん……奏多、私…やっぱり、海斗が好き。だから、もうこれ以上は、奏多とは付き合えない」


「どうしてだよ……もといた世界に帰るかも知れない奴だぞ?」


「…………それでも、いい。それまで海斗と一緒にいられれば……」


それは、分かってる……。また、いついなくなるかわけらないし、戻ったら帰ってこないかも知れない。


「それに、他の女と婚約してるのにそれでもいいのか!?」


「あれは…環奈ちゃんが勝手に言ったことで、海斗の気持ちは違うの……」


「本人から、聞いたのか?」


私の肩を掴み、真剣な瞳で問い詰められて、大きく頷く。


「ーーーーー」


「…………………」


しばらく、私達は沈黙が続いた後、奏多が口を開いた。


「分かった……愛楓がそれで幸せなら…幼なじみに戻るよ」


怒られた子供のように、奏多はしゅんと肩を落とした。


「奏多……………」


ごめんね、奏多ーー。


申し訳なさそうに、視線を逸らした。





翌日、学校へ行くと奏多とのことを梨音に報告する。


「そっか……言うことできたんだ?」


「うん」


「あとは、海斗さんに報告するだけだね」


「そうなんだけど……梨音、叔母さんに頼んで、携帯を海斗に返してもらえないかな?」


昨夜、メールを入れたけど返事も

返ってこないし、まだ、手元にないって事だよね。


「んー、できるか言ってみるね」


「ありがとう~、梨音!!」


嬉しさのあまり、梨音に抱きついたのだった。





それから、一週間経ってのことー。


海斗は、環奈ちゃんが勝手に開いた記者会見だったことと、訂正とお詫びの記者会見を開いた。


「これで、一件落着だなーー!!」


記者会見の発表後、早速、海斗から電話がかかってきた。


梨音が叔母さんに頼んでくれたものの、そんなに簡単に携帯を返してもらえず、環奈ちゃんとの誤解を解く記者会見を開くのを条件に、携帯を返してもらえることだったらしい。


「俺の気持ちも分かって、記者会見を開いてくれたんだから、社長に感謝だな」


「ふふふ、そうだね~~」


海斗の安心した声が電話口から漏れてくると、私も自然と笑みがこぼれてしまう。


「今日は夕方から仕事が入ってるから、その前に愛楓に逢いたい」


海斗に言われて、すぐOKの返事を返す。


「私も逢いたい!話したいこともあるし……」


海斗と逢う為には、人目がつかない場所じゃないとダメだよね……。


ふと思ったのは、前に梶木先生と待ち合わせした裏路地にあるカフェが脳裏に浮かんだ。


今日は土曜日だけど、あそこなら、ほとんど人もいないと思うし、待ち合わせの場所には適している。


早速、海斗に提案すると即答でOKをもらったので私達は14時に路地裏にあるカフェで待ち合わせすることにした。






それから数時間後、待ち合わせの時間にカフェで待っていると、少し遅れて海斗が慌てて店に入ってきた。


「悪い、遅くなって」


「道に迷ったのかと思った」


「一応、記者がいないか確認してかから来たからなーー」


「えっ、大丈夫だった?」


よく考えたら、まだ記者がいるかも知れないよね……。


「朝はいたけど、来る時はいなかったし…多分、大丈夫。後をつけられてる気配もしなかったし」


「良かった~~~」


「それより、本当にここのカフェ、ほとんど客がいないのな」


海斗は、店内を気にしながら、周りに視線を向けた。


私が来た時から、おじいちゃんおばあちゃん数人はいるけど、海斗のことは気にしていない様子だ。


「お年寄りがいるくらいなら、大丈夫か……俺のこと知らない人もいるし」


海斗は、ほっと安心した表情で、アイスコーヒーを注文する。


「それで、愛楓の話したいことって?」


海斗に聞かれて、奏多とのことを言おうとしたけど、期待の眼差しの表情にピンとくる。


「………………」


もしかして、知っててわざと聞いてる!?


「愛楓?」


「海斗……もしかして、私の事からかってる?」


「ん?」


「だって……これから話すこと想像ついてるよね?」


「なんだ、バレてたのか~。やっぱり、奏多のことで正解なんだな」


海斗は失敗したと言う顔で、苦笑いをした。


「意地悪なんだから……奏多とは幼なじみに戻ったこと報告しようと思ってた、私がバカみたいじゃない………」


ムスッと口を尖らせると、軽く海斗を睨みつける。


「ごめんごめん……本当にただの幼なじみに戻ったんなら良かった」


「うん……」


「アイツと別れたなら、改めてもう一度言わせてもらう、俺は愛楓の事が好きだ。彼女になって欲しい」


真剣な瞳で見つめられ、私は大きく頷こうとした時、


「あれ?君は………」


背後から聞き覚えのある声に、ぱっと振り向くと、梶木先生がにこやかな表情で立っていた。


「やっぱり、愛楓ちゃんか〜〜!!」


「梶木先生……」


「久しぶり、独り?じゃ……ないか」


梶木先生はチラッと海斗を見るなり、驚いたように目を丸くさせる。


「ーーま…さ…かとは思うけど…………………彼…海斗…なのか………???」


先生の質問に私が頷くと、先生は信じられないと言う顔で海斗の肩に手を置いた。


「愛楓……この人は誰?俺に似てるけど………」


海斗も驚いた顔で、先生を見つめる。


「小説家の梶木先生だよ……海斗を生み出した……」


先生が自分をモデルにしただけあって、2人並んでみると顔立ちも本当に似ている。


「…………でも、信じられないな…俺を創った先生に再会することができるなんて」


「ははは、本当にそうだな~!最初に彼女から聞いた時は、信じられない気持ちだったけど、こうして実際に会ってみると実感が湧いてきた」


先生は納得した顔で、海斗の隣に座った。


「私も最初は何が起きたのか理解できなかったもの。先生の気持ちわかります!!」


梶木先生の言葉に共感していると、


「そうだよな。最初、幽霊でも見たような顔してたもんな~」


クククッと思い出し笑いをする海斗を、私は軽く睨みつけた。


「ところで、2人とも親密そうに何話してたんだ?」


先生が私と海斗を交互にみながら言うので、海斗が一息つくと口を開いた。


「今、愛楓に告白して返事をもらうところだったんだ」


「そうなのか!?」


先生は驚いた顔で、私の方へ視線を向けた。


「え…えっと、そうなんです…」


顔を赤らめながら応えると、先生は興味津々に私を見つめた。


恥ずかしくなって、思わず俯いた時、海斗が口を挟んだ。


「今、返事を聞きたいんだけど」


「えっ…………」


先生の前で告白の返事するのーーー!?余計に緊張しちゃう!!


「俺のことは気にしないで、返事して」


躊躇している私に、先生は笑顔で言ってくれたけど、やっぱり恥ずかしい。


「先生もこう言ってくれてることだし」


海斗は別に気にもせず、返事を待っているので、覚悟を決め返事を返すことに。


「海斗……あの…私も海斗のことが好きだよ。だから、彼女にして」


恥ずかしい~~!!


何だか、顔から火が出そうなくらい、真っ赤になってしまう。


「やっと、愛楓が俺の彼女になった~~~!!」


海斗が嬉しそうに、私の手を握り締めた。


「こんなこともあるんだな~、俺が創った人物が現実世界の女の子と付き合うことになるなんて、他の人が聞いたら、バカにされそうだけど」


先生は、目を丸くさせながら信じられない顔で私たちを見た。


「ふふ、私もこうなるなんて夢みたいです。でも、この後の事も心配ですけど……」


自然と笑みが零れてしまう反面、海斗がいついなくなるのか、不安な気持ちもあった。


「心配って………もしかして、俺がまた元の世界に戻るかも知れないって気にしてるのか?」


海斗は、急に顔を曇らせると眉をひそめた。


「だって、この前も急にいなくなったし………」


海斗がこの世界にいるまでは、一緒にいようと決意したものの、やっぱり急にいなくなったことを考えると凄く辛い。


「せっかく、両想いなのに2人とも辛気臭いぞ」


私と海斗の様子を見て、先生は苦笑いする。


「そう言われても……時々、考えちゃうんです。海斗が、私の前からーーー」


「ストップ!愛楓ちゃんの言ってることは、わかったから、俺の話も聞いてくれるかな?」


先生に言われて、私は小さく頷く。


「俺の勘なんだけど、もう海斗は元の世界に戻らないような気がするんだ」


「えっ…………………」


「前に、俺が言った小説の言葉を覚えてる?」


「確か……願い叶うのは巡り合わせ そして統一感である。意味は、想い人と巡り逢い、身も心も通えるその人と運命で結ばれることができた時、奇跡が起こる……だったかなーー?」


思い出しながら、淡々と言葉にすると、先生は何度か頷いてみせた。


「そう、君と海斗が両想いになった今が、その時だと思ってる」


「えっ………………!!」


「ーーーー!!」


先生の言葉に、私と海斗は顔を顔を見合せた。


「だから、俺は奇跡が起こるんじゃないかと思ってる」


「先生…………」


まだ、確信した訳じゃないのに、胸の中がじーんと熱くなる。


先のことは、まだ分からないけど、海斗と一緒に過ごしていきたい。本当に奇跡が起こるとを信じてーーー。


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