表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
瞳の中のキセキ   作者: 夢遥
6/7

瞳の中の キセキ

環奈に海斗と婚約してると告白され、ショックを隠せない愛楓。

海斗の方は姿を消し行方が分からないまま月日が流れていく中、海斗を忘れる為に奏多とお試しで付き合うことになる。

でも、いつも海斗のことが心の片隅にあって忘れられないでいた。

そんな中、梨音に海斗の生みの親でもある梶木先生のサイン会のチケットをもらい、ひょんなことから2人で会うことになるがーー。

「この近くかな………?」


梶木先生が送ってきた、待ち合わせ場所が書いてあるメールを確認しながら、キョロキョロと見渡した。



先生に会いに行くか迷っていたけど、結局行くことに決め、日曜日に会うことになり、こうして休みの日に待ち合わせ場所近くまできている。


「えっ…と、ビルの隣の郵便局を左に曲がって……すぐのカフェが待ち合わせ場所になってる……あっ、あの郵便局ね!」


郵便局に向かって歩きながら、ふと道路を挟んだ反対側の歩道へ目がいくと、


「えっ…………」


見覚えのある姿が視界に飛び込んできた。


「か…い……と?」


私は、近くの横断歩道を急いで渡り反対側へ移動した。


人混みの中に見える海斗の後ろ姿を追う。


「海斗、海斗ーーー!!」


懸命に呼ぶ私を周りの人が、ぎょっとしながら注目するのにも構わず、呼び続けた。


どんっーーーーー!!!


「あっ…ごめんなさい!!」


走って追いつこうとしている途中で、人にぶつかり慌てて謝った。


何度か頭を下げて謝った後、海斗の姿があった方へ視線を戻すと海斗の姿は見えなくなっていた。


「っーーー…………」


力が抜けて、へなへなと地面に座り込む。


やっと、海斗に逢えたと思ったのに………。


がっかりした気持ちを抑えながら、梶木先生と待ち合わせしているカフェへ向かった。




「遅くれて、すみません!!」


約束の時間より遅れてカフェに着くと、梶木先生は既に来ていた。


サイン会の時と違って、また別の緊張感にドキドキ。



「そんなに、謝らないで。約束の時間5分だけ遅れだけだし、俺はしょっちゅう締め切りで遅れてばかりだけど」


「あー、あはは……」


先生の言葉に苦笑いしたものの、緊張のあまり次の言葉が出てこない。


「ここのカフェ、すぐにわかった?」


「は、はい!」


「心配してたんだ。何しろ路地裏にあるから」


確かに、知らない人からしたらこんな所にカフェがあるとは思えないかも知れない。


だからかな……ほとんど、お客さんが少ないのは…。


「とりあえず、好きな物を頼んで。ここは、俺の奢りだから」


「え、でも……」


ファンの人にこんな所を見られたら、睨まれそうだ。


躊躇していると、店員さんが水をトレーに乗せて持ってきてくれた。


「ふふ、ここのカフェほとんどファンの人はこないから、先生の隠れ宿みたいなものなんですよ~。周りは気にせず、どんどん頼んでくださいね!」


店員さんは、笑顔でそう言いながら水をテーブルに置く。


「はあ……じゃあ、お言葉に甘えて」


店員さんまで、そう言ってくれるなら遠慮なく頼んじゃおうかなー。


「抹茶ラテと…アップルパイを…」


メニューを見ながら、飲み物とデザートを注文した。


「よかった…突然、誘ったから来ないかと思ってたんだ」


注文が終わった私の顔を、梶木先生は真顔で見つめた。


こうして見ると、先生って鼻筋は通っていてキリッとした顔立ちだよね……。

サイン会の時に、ファンの子達が先生ってイケメと言っていたのも頷ける。


「いえ…最初は少し戸惑いましたけど、先生とお話したいと思っていたので」


「俺も君にもう一度会ってみたいと思ってたから、嬉しいな!」


「それは、どうも……」


流石、顔だけじゃないチャラそうなところも海斗に似ている。


何分か経って、注文した

抹茶ラテとアップルパイがトレーで運ばれてきた。


「うわぁ~、美味しそう!頂きます」


アップルパイを一口食べてみると、生地はサクサクで林檎のとろっとした感じと甘さが口の中に広がってきた。


「美味しいーー!!」


あまりの美味しさに、思わず声が漏れる。


「ふふ、そうでしょう?ここのおすすめメニューでもあるからね~」


まるで、先生がカフェの店員さんのような反応で満足そうに微笑んだ。


夢中で食べていると、先生の視線を感じガッついていた自分が急に恥ずかしくなってきて、お皿にフォークを置いた。


「~~~…………」



卑しいと思われたかな……?


「やっぱり……君だ…」


真顔でボソッと独り言のように、先生は呟いた。


「え……………?」


「あ、ごめん。サイン会の日に、何処かで会ったことないか

君に聞いたよね?」


「………はい」


あの時は、ナンパ!?と思ったけど、今の先生の表情からすると、どうも違ったようだ。


「実は、夢に女の子が出てきて…その女の子が君にそっくりって言うより、君に間違いない」


「………………!?」


私が先生の夢の中に……?


「ほ、本当に私で間違いないんですか……?」


「ああ、1度だけじゃない何度も夢に出てきたし」


「えっ…………!?」


これって、やっぱり海斗と関係あるのかな?先生は自分をモデルにして海斗を生み出したわけだし…………。

もしかしたら、海斗のことも話したら信じてもらえるかも知れない。


「あの…実は…………」


海斗が現実に現れたことや、この世界でも芸能界で仕事をしていることを打ち明けた。


最初は驚いたのか目を丸くしながら、話を聞いていた先生だったけど、話を聞いているうち信じてくれたのか、真剣な顔つきに変わっていった。


「そうだったのかーー!!締切に追われてて、しばらく、テレビや雑誌を見る余裕がなかったから気づかなかった」


話が終わると、先生は落ち着いた様子で口を開いた。


「私の話、信じてくれるんですか?」


「信じるも何も、君を見てればわかるよ」


「良かったーー」


信じてもらえたとわかり、ほっと胸を撫で下ろす。


「んー、要するに夢に君が出てきたってことは………」


先生は鞄からペンを取り出すと、テーブルに置いてあったナプキンに何か書き始めた。


書き終わると、ナプキンを私の目の前に置いた。


ー願い叶うのは巡り合わせ そして統一感であるー


「えっと…これは…?」


「『君のスター』の新刊の海斗に送られた言葉の一部なんだ」


「えっ!いいんですか?そんなこと私に教えちゃって」


驚いて、ぱっと顔を上げると先生は、


「ん…まあ、まだ発売してないし企業秘密ではあるけど、君には教えておいたほうがいいと思って」


そう言って、真剣な眼差しで見つめた。


「……………………」


  この言葉に何か意味があるのかな?


「……想い人ともう一度、巡り合いたいと願った時、また巡り合い、その人とは身も心も通える運命で結ばれることかできた時、奇跡が起こる……と言う意味でもあるんだ」


「ーーーー」


奇跡が起こる……………。あくまで、小説の中だけの話だろうけど、何か引っかかるものがある。


「あくまで、俺の想像だけど現実にも関係してるんじゃないかと思うんだ」


「…………………」


カフェに来る前に海斗を見かけたことを、ふと思い出すのだった。





それから、梶木先生と会ってから1週間ーーー。


今日は学校帰りに、奏多とファミレスで待ち合わせをしていた。


「愛楓ーー!!」


ファミレスに着くと、私に気がついたのか、奏多は椅子から立ち上がるとぶんぶん手を振った。


「奏多、座って!恥ずかしい~~~」


周りのお客さんの視線を感じ、恥ずかしさのあまり俯いたまま、奏多と向かい合わせに座った。


「ごめんごめん、久しぶりに愛楓に逢えたものだからつい…」


「あはは~~!久しぶりって……3日前にも会ったじゃない」


3日前、奏多と梨音と一緒に図書館で勉強したことを思い出す。


「愛楓に…してみたら……そんなもんか……」


奏多は寂しそうに、ぼそっと独り言をいった。


「え?何か言った?」


聞こえるか聞こえないかの声によく聞き取れず、もう一度聞きなおす。


「あ、いや、何でもない…そ、それより何か注文しよう」


奏多は慌てて誤魔化すように

苦笑いをすると、メニューを覗き込んだ。


「そうだね……」


奏多に言われて、とりあえずセルフで飲み物を頼むことにした。


んー、何にしようかな~?


ドリンクバーへ行くと、少し迷ったけどアップルティーに決める。


店内は今日はまばらでほとんどお客さんいないので、のんびりアップルティーをカップに注いで席へ戻ろうとした時だった。


「あれ?愛楓……」


聞き覚えのある声に呼び止められて顔を上げると、目の前に帽子を被り眼鏡をかけマスクをした男性が立っていた。


「っーーー……………!!」


まさかとは思うけど、背格好からといい眼鏡の奥の目元が海斗そのものだ。


男性がマスクを外すと、懐かしい海斗の顔が眼鏡越しに笑っていた。


「海斗っーーー!!」


アップルティーの入ったカップを持っていたのも忘れて、嬉しさのあまり思わず海斗に抱きつきそうになり、慌てて踏みとどまった。


いけない!カップを落とすとこだった!!


「海斗…久しぶり………」


店内ってこともあるし、ここは冷静にならないと。


「うん、久しぶり。愛楓は元気だったか?」


「うん、海斗は?」


「元気だったぜ」


「そ、それは良かった…………」


聞きたいことがいっぱいあるけど、何から聞いたらいいか迷っていると、


「愛楓、何やってるの?」


私を見つけて、奏多がこっちに歩いてきた。


「奏多…………」


「いつまでも、戻ってこないから迎えにきたんだけど……ん!?」


海斗に気づいたのか、奏多は驚いた顔で呆然と立っていた。


「久しぶりーーー!!」


海斗は笑みを浮かべて、奏多の肩をぽんと叩いた。


『ね、あの人…カイトに似てない?』


近くにいた女性のお客さんの独りが、一緒にいた人とひそひそ話しているのが聞こえてきた。


「ここじゃなんだから、あっちで話しようぜ!それにしても、会わないうちに、前にテレビに出てたカイトにますます似てきたな~~~」


奏多も気がついたのか、わざと聞こえるようにいうと、人違いか~と言った顔で彼女は苦笑いしていた。


とりあえず、席へ移動したけど何だか落ち着かず、5分も経たないうちに私達は店を出た。


「ふぅ~~」


外へ出ると、思わず溜め息が盛れる。


まだ、ほとんど人が少なかったからいいけど、時間帯によっては大騒ぎになっていたかもしれない。

早く店を出るのは先決だったかも。


「まだ、俺のこと覚えててくれる人がいてくれたのは嬉しいけど、悪かったな…ゆっくりできなくて」


申し訳なさそうに海斗は肩を落とした。


「別に、海斗のせいじゃないよ~!!……………………」


慰めるように明るく言ったけど、久しぶりの海斗との会話が続かない。


「……なんだよ、逢わないうちに随分、大人しくなったんだな」


「そ、そんなことないから!これは…久しぶりに海斗に逢えたから…なんて言うか、聞きたいこといっぱいあって……」


何て言っていいかわからず、言葉に詰まってしまった時、海斗が私の頭をくしゃっと撫でた。


「俺だって、愛楓に聞いて欲しいこといっばいあるんだけどな」


そう言って、今度は頭をくしゃくしゃと撫でた。


「ちょっ、髪ぐちゃぐちゃ!」


慌てて髪を整えていると、急に奏多が私の肩を引き寄せた。


「こいつに、ちょっかい出していいのは俺だけだから!」


ムッとさせながら、奏多は海斗を睨みつけた。


「まあ、幼なじみの特権だしな~」


海斗は苦笑いすると、やれやれという顔で奏多に視線を向ける。


「違う……幼なじみだからじゃない。俺の彼女だからに決まってるだろ?」


「は?彼女って……愛楓がか?」


「そうだよ!だから、愛楓に近づくなよな!?」


「ーーーーー!!」


奏多の言葉に海斗は、何処か愕然としたような表情をさせた。


「行くぞ!愛楓」


「えっ、ちょっと………奏多!?」


奏多は私の腕を掴むと海斗から背を向け歩き出したので、慌てて止めようとしたけど、奏多は振り向こうともせず、強引に腕を引っ張った。


こんな奏多、始めてみた……。


戸惑いながらも、奏多の後を着いていくことしかできないでいた。




しばらく歩いて人気がまばらになった頃、奏多はやっと腕を離した。


「ごめん、愛楓……。腕痛かったよな?」


申し訳なさそうに、奏多に謝られて私は首を振る。


「ううん、大丈夫だけど……」


「アイツが現れなければ、今日は2人でデートする予定だったのにな~」


「や、やだなぁ~、デートするの今からでも遅くないと思うけど?」


「ん……でも、今日はやめとく。こんな気持ちじゃ、愛楓だって嫌だろうし」


「奏多…………」


「ごめん、愛楓とアイツがイチャついてるの見てたらムカついた……」


「ーーーー」


奏多もヤキモチ妬くんだ………。でも、何でだろう…好きならヤキモチ妬いてもらって嬉しいはずなのに、何とも思わないなんて私って変なのかな……?





「えっ!海斗さんに会ったの!?」


翌日、梨音と一緒に学校の帰り道ー。


昨日、海斗に会ったことを梨音に打ち明けたら、梨音は凄く驚いた表情をさせた。


「うん…でも、海斗と話してたら奏多が不機嫌になっちゃって……」


「あの、奏多もヤキモチ妬いたりするんだぁ~~」


いつもクールな奏多から想像できないのか、梨音は意外と言う顔で頷いた。


「やっぱり…ヤキモチ妬かれると、彼女としては嬉しいものなのかな?」


ぽろっと出た言葉に、梨音は小さく頷く。


「そりゃあそうでしょ、それだけ愛されてるって証拠じゃない~、嬉しいと思うけど?」


「………………………」


やっぱり、嬉しいのか………。


「………愛楓は嬉しくないの?」


「ん………どうだろう?なんにも感じないっていうか……」


「今までの奏多のイメージからしたら、ピンとこないせいもあるから、戸惑っているだけかもよ」


「………………」


本当にそうなのかな?

今だって、戸惑ってる感じはしないんだけどな……。




「あ、じゃあね、愛楓~、また、明日ね!」


「また、明日!!ばいばいーー!」


いつの間にか、梨音の家の近くまできていた。


私は、梨音に思いっきり手を振り梨音と別れると家へ向かって歩き出した。


公園の前を通って行こうとした時、見覚えのある姿が視界に飛び込んでくる。


「……………!!」


そこには海斗の姿があった。


「お帰り~、愛楓!!」


海斗は私に気がついて、笑顔をみせる。


「海斗…………」


海斗がいるとは思わなかった為、呆然と立ち尽くす。


「驚いたか?待ち合わせた日に行けなかったから、これでチャラな」


「……覚えててくれたんだ?」


てっきり忘れていたのかと思っていたけど、海斗が覚えててくれていたことが凄く嬉しい。


「当たり前だろ?元の世界に戻っていた時も忘れたことなんてなかった」


「えっ…元の世界に……」


「そうなんだ…待ち合わせした日に気がついたら元の世界にいたってわけさ」


「……………………」


近々、元の世界に戻るかもしれないとは言っていたけど、本当に戻っていたなんて……。


「環奈ちゃんと一緒に海外に行ってたわけじゃなかったんだ……………」


私は、ほっと胸を撫で下ろす。


「は?どうして環奈のことが気になるんだよ」


「環奈ちゃんと……婚約したんじゃないの?」


「誰がそんなこと………」


「環奈ちゃんに聞いた……」


海斗と待ち合わせをしたあの日、公園に環奈ちゃんがいたことを打ち明けた。


「何だよ、それ………そんなの嘘に決まってるだろ」


海斗の言葉に、ほっとしていると、


「もう、環奈のことは気にするな。それより、俺はアイツのことが気になるけどな」


不機嫌そうに、海斗は眉をひそめた。


「アイツ?」


「幼なじみの…………」


「奏多のこと?」


「ああ……本当に付き合ってるのか?」


「うん…………」


小さく頷く私をみて、海斗の表情が固くなる。


「付き合ってるのか……」


「で、でもお試しでだから……」


海斗の様子が気になって、顔を覗き込んだ時、急に腕を引っ張られ海斗の胸の中に飛び込むような形になり、私は慌てて離れようとしたけど、ぎゅっと抱き締められてしまった。


「お試しでも、付き合ってることには変わりないだろ…?アイツとは別れろよ」


海斗が耳元で、ぼそっと囁く。


「…………ーーー!!!」


思いがけない言葉に、息が止まりそうになる。


「向こうにいても、ずっとお前のことは忘れたことなかった…………離れてみて分かったんだ。俺は、お前のことが好きなんだって…なのに…こっちに来られたと思ったら、アイツのものになってるし」


「ーーーっ……私だって海斗のこと忘れたことがなかった。海斗のことが好きな気持ちは、変わらない……でも………」


海斗の言葉に、凄く嬉しい気持ちが溢れて目頭が熱くなるいっぽう、複雑な気持ちでいっぱいだ。


「愛楓………」


そっと髪を撫でられ、いつも意地悪な海斗とは反対に真剣な瞳で覗き込まれ、胸の鼓動が高鳴る。


海斗のこと忘れる為に、お試しでいいから付きあい始めたことは、奏多も承知の上のことだけど……。海斗が現れたからお試し期間終わりにしたいなんて

、奏多を傷つけてしまうかもしれない。


「でも…………私……」


「やっぱり、別れられないか………?」


「ごめん………いくら、お試しでも…すぐには……」


「わかった……気長に待つことにする」


「ーーーーっ」


唇を噛み締めたまま、海斗の顔を見ることができないでいた。



それから、1ヶ月後ーーー。


「はぁ~~~~…………」


日曜日の昼下がり、奏多と図書館で一緒に勉強した帰り道、思わず大きな溜息が漏れてしまった。


「勉強で疲れたか?」


心配そうに奏多に顔を覗き込まれて、慌てて首を振る。


「う、うん……苦手な数学がちょっと……」


奏多にお試し期間を終わりにしたいなんて言えないでいることに、思わず溜息が出たなんていえず、慌てて誤魔化した。


「じゃあ、本屋に寄ろうか?愛楓に合う参考書、選んであげるよ」


「あ、ありがとう……」


ぎこちなくお礼を言うと、奏多と本屋へ寄ることに。



「愛楓~!これなら、わかりやすいんじゃないか?」


数学の参考書を手に取ると、奏多は私に広げて見せた。


「うん……そうだね」


「何だよ、気のない返事だな~、気に入らないのか?」


奏多は不審そうに、私の顔を覗き込んだ。


「そ、そんな事ないよ!解りやすそうだし、これにするから奏多は外で待ってて」


参考書を手に取ると、慌ててレジへ向かった。


会計が終わると、奏多がいる方へ向かおうとした時、週刊誌に目が止まる。


表紙には海斗の熱愛発覚が書かれた文字が…………。


あれから、また芸能界に復帰したとは、海斗から聞いていたけど……熱愛発覚って嘘だよね……?


震える指先で恐る恐るページを捲った。


何枚か捲っていくと、スクープ写真に目が止まる。


そこには、『カイトと環奈ラブラブスクープ発見!!破局したと思っていたが、久々に2人が仲良くデートしているのが発覚した』と書かれた文字がー。


モザイクはかけられているけど、2人が至近距離で話している写真が何枚か載っていた。


ちょっと待って……こっちの写真は2人が顔を近づけている……どう見ても、キスしているようにしかみえない。


「ーーーーっ」


喉の奥に熱いものが込み上がり、ズキンと胸に突き刺さる。


震える手で週刊誌を置くと、奏多と店を出た。



「どうしたんだよ?さっきから黙り込んで」


無言のまま歩いていたら、奏多が心配そうに顔を覗き込んできた。


「え?あ、別に……なんか良い天気だな~と、思ってつい喋るの忘れてた……あはははーー」


誤魔化すように苦笑いしたけど、不審そうに奏多に見つめられ、慌てて視線を逸らした。


「もしかして…カイトの記事のことか?」


「えっ、知ってたの……?」


「まぁ、あんなに記事がでかでかと載ってれば、イヤでも目に入るさ」


「……………………」


確かに記事は大きかった。その分、胸の痛みが大きくなっているのが自分でもわかる。


「あぁ~、そんな顔させてるのは、またアイツが原因かーー」


ガックリと奏多は肩を落とした。


「そんな顔って……………」


「本屋から出てから、顔が暗いし…泣きそうな顔してる」


「ご、ごめん!!」


慌てて背を背けると、自分の両頬を軽く叩いた。


「愛楓…………まだ、アイツのこ………」


「え………?」


私は、慌てて振り向いたけど、奏多は何か言いかけて口ごもった。


「ん………、何でもない」


奏多は、小さく首を振る。


「あ、ほら!愛楓の好きなクレープ屋がある。行こう!」


奏多は、店のある方を指差すと歩き出した。


「ちょっと、待ってよ奏多ーーーー」


慌てて奏多の後を追って行った。




一方その頃、海斗はというと事務所に呼び出されていたーーー。


「カイト、これはどういうことなの!?」


社長に雑誌を突き出されて手に取る。


「何だよ、この記事………」


週刊誌を手に愕然と立ち尽くす。


確かに環奈と会っていたことは確かだ。でも、環奈が俺のこと婚約者だなんて愛楓に言ったことを問い詰めるため。

それに、この写真……キスしているように見えるんだけど、この時は確か…………。


考え込んでいると、社長が小さく息を吐くと口を開いた。


「カイト、復帰してからファンが戻りつつあるのに、今スキャンダルを起こすこと、どうなるわかるわよね?」


「社長、確かに環奈と会ったのは事実です。でも、これには事情があって……この記事に書いてあることは事実ではありません!!」


真剣な表情で訴える俺の姿に、社長は少し考え込む。


「叔母さん、カイトは嘘ついてないと思うよ」


事務所に手伝いに来ていた社長の姪の梨音が口を挟む。


「わかってるわよ、この業界ヤラセだってよくあることだし…でも、こう記事が載ってしまってはね…とにかく、家の近くは記者の群れがあふれているだろうから、しばらく騒動が落ち着くまで仕事以外は何処かに身を隠しているほうがいいわね」


社長の提案で、俺はマネージャーに連れられてホテルに身を隠すことになったのだった。





































































評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ