瞳の中のキセキ
2次元の海斗に夢中だった愛楓。突然、現実の世界に現れ、イメージと違う海人に幻滅していたけど、一緒に過ごしていく中、いろんな海斗を知るたびに、ますます好きになっていく。
梨音の叔母さんが経営している芸能事務所を手伝うことになった海斗だったけど、いっきに人気急上昇!そんな中、人気モデルの環奈ちゃんとのスクープされていることを知る……。
「……………………」
私だって、こんなことになってるなんて全然知らなかった…………。
「愛楓、大丈夫………?」
心配そうに覗く梨音に、私は動揺を隠せないでいた。
「こ…んなの……嘘だよね………?」
「私も始めて知ったからな……でも、海斗さんの様子は、いつもと変わらなかったよ?彼女がいるなんて訊いたこともなかったし」
「………………………」
「マスコミの人って、あることないこと書くのが仕事みたいなものなんだし、気にすることないって!」
私を元気付ける為に、梨音に励まされたけど気分は晴れないままだった。
何日か経った土曜日の昼下がり、久しぶりに海斗から電話がきた。
「愛楓、元気だったか?」
「海斗こそ元気だったの?週刊誌…見たよ……」
「ああ…見たんだ?」
「環奈ちゃん、綺麗だし2人ともお似合いだよね……」
こんなこと、言いたいんじゃないのに……。
自分がイヤになってしまう。
「何だよそれ……本当にそんなこと思ってるのか?」
「え………?」
「俺と環奈が付き合ってるとか思ってるのかってことだよ!?」
ムッとした海斗の声が、耳に響く。
「もう名前で呼んでるんだ?」
「まあ、何度か一緒に仕事してるからな」
「……………………」
いくら、何度か一緒に仕事したからって、急に名前を呼ぶほどになる!?
誰とでも仲良くなれるのが、海斗のいい所だけど、やっぱり他の子の名前を呼んで欲しくない。
「こんな話する為に、愛楓に電話したんじゃないんだけどなーー」
「じゃ、何?」
「んん…これはあくまで予感なんだけど、近々…元の世界に帰ることになるような気がするんだ」
「えっ、それって…一時的じゃなくて?」
「ああ…最近は元いた世界に戻ってるってことはなくなったけど、それが逆に怖いくらいなんだ」
「ーー…………」
奏多の言っていたことが、もうすぐ起こるかも知れない………。
チクッと胸が痛む。
「海斗が…帰っちゃったら、私…どうしたらいいのよ。いきなり現れて、急にいなくなるなんて私の気持ちはどうしたらいいのよ?」
本の中の海斗を好きだった気持ちより、今は言葉にできないくらい好きって気持ちが溢れてる。
「愛楓……とにかく、明日なら時間とれそうなんだ。だから、夕方逢わないか?いつもの公園で待ってて」
「わかった……」
電話を切った後、海斗に逢えるのが嬉しい気持ちと不安な気持ちが交わっまま翌日を迎えた。
「愛楓ー、今日バイトないんだ~。帰りにドーナツ食べてかない?」
「ごめん!今日はちょっと…また、後で誘って」
翌日、学校が終わると梨音の誘いも断り急いで家に帰って着替えて、海斗に指定された時間に公園へ。
でも、まだ海斗の姿は見渡らなかった。
「海斗も忙しいんだし、自分で言った時間にこれないか……」
仕方ないと思いつつ、待つこと1時間。 全然、海斗が来ない。
「遅いな……海斗」
急な仕事で来られなくなった?
スマホの画面を確認しても、メールも入っていない。
その時、帽子を被りサングラスをかけた女の人が私に近づいてきた。
「あなた、もしかして愛楓ちゃん?」
「はい、そうですけど……」
不審な顔で女の人をみつめた。
「あ、ごめんなさい!急に声掛けて」
女の人が、サングラスと帽子をとると海斗とスキャンダルになったモデルの環奈ちゃんだった。
「ーーーー!!」
どうして、環奈ちゃんがここにいるの!?
「驚かせちゃって、ごめんなさいね。でも、これだけは言っておこうと思って、あなたに逢いにきたの」
「ーーーーー」
「海斗なら、来ないわよ」
「どうして…そんなことが言えるんですか………?って言うか…どうして私の名前知ってるんですか?」
「海斗から名前は聞いていたし、妹みたいに可愛いがってる子がいるって」
「妹………………」
チクンと胸の奥が痛む。
「私ね…彼と結婚の約束してるの」
「えっ………………!?」
海斗と環奈ちゃんが結婚!?そんなの訊いてない!!
「多分、今日は報告する為にあなたを呼び出したのね。でも、ごめんなさい。海斗ってば、急に仕事が入っちゃって、代わりに私に伝えてきて欲しいって頼まれたの」
「ーーーーーー」
環奈ちゃんの言葉が、だんだん遠くなっていく。
嘘だよね?結婚なんて……。昨日はそんなこと一言も言ってなかったのに。
それより、近いうちに元の世界に帰るかもしれないの話だったじゃないーー?
次の日から、海斗からの連絡が途絶えた。
「ねえ、梨音…。海斗のことなんだけど………」
海斗からの連絡がないまま1週間が過ぎようとしていた。
「海斗さん?叔母さんの話によると、環奈ちゃんとスキャンダルが報道されてから、マスコミが殺到していて、収まるまで海斗さん海外に行ってるみたい。あっちで、活動もするみたいだけど…」
「えっ、そうなの?」
「もしかして、海斗さんから連絡ない?」
「う、うん………」
海斗、海外に行ってるの?どうして連絡してくれないんだろう…………。
「きっと、そのうち連絡があるって!そんなに落ち込まないの」
梨音に励まされたものの、気持ちが晴れないまま、その日の夜を迎えた。
今頃、海斗は海外なのかな……?まさか、環奈ちゃんも一緒とか……。
部屋に独りでいるといろんなことを、考えてしまう。
そうだ、こっちから電話してみようかな?
スマホの画面を広げると、海斗の名前を探す。
「ーーーーー」
指でスライドさせていく。でも、スライドさせても海斗の名前が見つからない。
「おかしいな……」
昨日まではあった、海斗の登録が消えていた。
消した覚えはないのに、どうして海斗のだけないの?
スマホを手にしながら、呆然と立ち尽くすことしかできなかった。
海斗の登録が消えてから、テレビや雑誌でも海斗の名前は触れることなく、月日は流れ半年が過ぎようとしていた。
「あいつから連絡こないのか?」
今日は、学校帰りに奏多と待ち合わせしていたカフェで、いちごパフェを美味しく頂いていたところ、奏多が急に海斗の話をもちだした。
「うん……」
消えた海斗の電話番号、まだ覚えていたから一度かけたこともあったけど、使用されていないことに代わっていた。
「何だよ、あいつ!愛楓のことほったらかしにしておいて」
悔しそうに、奏多は吐き捨てるように言う。
「奏多…………」
「……このまま、音信不通だったらどうするつもりなんだ?」
「どうするって……」
「俺は、いつもそんな顔してる愛楓を見ていたくない」
「…………………」
そんな顔って?私、そんな酷い顔していたかな?
「愛楓…俺とのこと、もう一度考えてくれないか?」
「えっ…………」
真剣な奏多の眼差しに、持っていたスプーンを落としそうになる。
奏多がそんなこと言うってことは、まだ私のこと想ってたってことだよね……?
「愛楓に断われた後も、ずっと愛楓のことが好きな気持ちは変わらない。俺だったら、アイツみたいに愛楓のこと悲しませたりしないし、いつも隣にいる」
「……………………」
てっきり、今まで通り幼なじみでいられたなんて勝手に解釈してた。でも、奏多はそうじゃなかったんだ。
「あいつの代わりでもいいし、お試し期間でもいいから。ね?」
「……少し考えさせて」
「わかった」
躊躇いながら言う私に視線を向けながら、奏多はこくりと頷いた。
海斗…今何処にいるの?環奈ちゃんも最近、雑誌やテレビでみかけなくなった。やっぱり一緒にいたりしてるの?そんなモヤモヤな気持ちばかりが募っていた。
一方その頃、海斗はというと………。
「海斗、次は雑誌の取材。それが、終わったらCMの撮影と……」
「マネージャー、それ以上言わなくてもわかったから」
スタジオでの仕事が終わり、俺はマネージャーの木内さんとスタジオから出る。
俺は今、元の世界にいる。
愛楓と逢う約束をした日の前日の夜中に、俺は仕事から帰ってきてベッドで眠りについたのはいいが、翌日の朝、目が覚めたら元の世界の自分の部屋にいた。
そして、前の生活が始まった……と言っても、愛楓がいる世界とはほとんど変わらない忙しい日々。
「それにしても、今まで海斗が別の世界にいたとはなーー」
木内さんは、まだ信じられない顔 をしている。
こっちに帰ってきてから、木内さんに根掘り葉掘り聞かれて訳を話した。
最初のうちは、信じてもらえなかったけど、俺の話を聞いてるうちに冗談に思えなくなってきたのか、やっと信じてもらえるようになったのだ。
「でもさー、また急に別の世界に行くってことになったりしないのか?」
「さあ?」
「さあって……それは、困るよ!いきなりいなくなられると、後のスケジュールが対応できなくなるし。はぁ~、これ以上は勘弁してくれよーーー」
頭を抱えるようにしながら、木内さんは
大きな溜息をつく。
「…………………」
そうだよな…、いきなりいなくなったら、仕事にも穴が空くだろうし、マネージャーとしては困るのは当然だ。
でも、俺的には仕事中も愛楓のことが頭から離れない。できることなら愛楓のいる世界に飛んでいきたい。こっちに来てから、スマホに登録していた愛楓のアドレスも消えてスマホだけが手元に残っている状態だし、きっと俺のアドレスも消えているかも知れない。その時点で愛楓も気づいてるかな…俺が元の世界に戻ったかも知れないって……。
「海斗ー、車回してくるからここで待ってて」
玄関先までくると、木内さんが車を取りに行ってる時だった。
「海斗さ~ん!!」
急に名前を呼ばれ振り向くと、一緒に仕事したことがある女優の立川真琴が立っていた。
「お疲れ様です」
「お疲れ」
素っ気ない素振りで、彼女に挨拶する俺に満面の笑みで擦り寄ってきた。
「もぅ、逢えないのかと思ってました。最近、一緒の仕事もないし、寂しかったんですよ~?それに…いつお食事に付き合ってくれるんですか~?♡」
上目遣いで猫だて声で言う彼女に、俺は過去のことを思い出す。
そうだ、彼女に何度も食事に誘われてその度に上手く交わしていたんだった。
「ん、まあ、ずっと忙しいし暇ができたら」
「絶対ですよ~!!♡」
曖昧に応える俺の腕に、彼女は甘えるように触れたその時、
「海斗、お待たせー!!」
車を玄関口に停めた木内さんが、小走りで走ってきた。
「じゃ、連絡待ってますね~~♡」
彼女は木内さんと入れ替わりに、立ち去って行った。
「なんだ?また、食事の誘いか?」
遠くに立ち去る彼女の後ろ姿に視線をやると、木内さんは溜息をつく。
「まあな」
「はぁ~、いいよなモテる奴は。同じ事務所の紗奈ちゃんも、お前と食事に行きたいって言ってたぞ?」
「いつものように、木内さんから上手く断っといて」
「はいはい」
いつものように、木内さんは苦笑いする。
自信過剰になるかもしれないけど、近寄ってくる女はだいたいが俺の顔目当てだろう。高校の時に付き合っていた彼女が、顔とルックスがいいから告白したとか、グサッとくる言葉が返ってきたことがあった。
でも、愛楓はそんな事も忘れるくらい内面も見てくれていたような気がする。
はぁ~俺はもう一生、愛楓には逢えないのか!?
「海斗、行くぞ」
木内さんに急かされ、切ない気持ちでいっぱいになりながら、次の仕事現場へ向かった。
海斗がそんな事を想っているなんて知らず……………。
「はぁ~~~、どうしよう。奏多に返事しなくちゃ………」
学校のお昼休み、久しぶりに梨音と外でお弁当を食べることになった。
校舎裏のベンチに座りながら、お弁当のウインナーを食べながら溜息をつく。
「知らないうちに、そんなことになってたなんて、奏多も一途だよね~~~」
奏多にまた告白されたことを梨音に話したところ、感心したように頷いた。
「感心してないで、相談にのってよ~。どうしたらいいのかな?」
「奏多は、海斗さんの代わりでもいいって言ってるんでしょ?」
「うん………それに、お試し期間でって」
「だったら、迷わず付き合ってみるのもありかもよ。幼なじみやってたぶん、愛楓のことよく知ってるし。始めて付き合う人達よりは、分かり合える部分もあるんじゃないかな?」
「………………………」
確かに小さい頃からの付き合いだし、お互い良いところや嫌なところも知っていることが多いと思う。
「……愛楓、海斗さんのこと忘れられないのもわかるけど、この何ヶ月も連絡がつかないだよ?これ以上、愛楓に辛い想いしてもらいたくない」
「梨音…………………」
心配してくれる梨音の気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
奏多も梨音もこんなに心配してくれてるのに、私は自分のことばかり………。少しは、2人の気持ちにも応えてあげてあげたいけど、いま一歩踏み出せない自分がいた。