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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
85/87

4─15

「……遊ばないの」


「いや、流美たんの様子を見に来ただけだよ」


「そっか」


 一人屋内テラスで過ごす流美たん。遊ばせてあげたいが、陽に当たり過ぎたら死ぬ呪いにかかっているこの子は、屋外プールに出るのは危険だ。

 それを自分で理解しているから、ここにいるのだろう。


「屋内プールもあるみたいだぞ? 一緒に行くか?」


「大丈夫。今日は別に、遊べなくていい」


 首を横に振って、オレンジジュースを口にする。

 うーん、これはどっちだろう。遊びたいけど〜って方か、本当に遊ぶ気はないのか。

 だとしても、何か、せっかく来てくれたのに申し訳ない。


「やっぱ遊ぼうぜ流美たん! ほら、せっかく来たんだし。何時間もここでなんて……」


「いい。遊ばない。ずっとここでいい」


 バッサリと、叩き切られた。何だろうこの感覚。心閉ざされたとかじゃなければ、いいんだけど。

 そんな俺の心情に気づいたのか、流美たんはもう一度口を開いた。


「嫌なわけじゃない。俊翔と遊ぶのはきっと楽しい。屋内プールなら、そこまで日差しを気にする必要もない」


「だったら……」


「でも」


 流美たんは、前方に大きく手を伸ばす。一本だけ更に伸びた指のその先にいるのは──


「李々華ちゃんが、見えるから」


 流美たんはここから、遊んでいる李々華を見守ってくれていた。


「何かあれば直ぐに気づける。もしかしたら、呪いを解く方法が分かるかも」


 俺は散らばる皆に呼ばれるから、李々華に付きっ切りでいられない。不審がられないためには、自由にさせておくしかないし。

 だからなのかは分からないけど、流美たんはここから、ただ李々華を視界に入れ続けてくれているんだ。


「……だから俊翔は、たくさん楽しんできて」


 ほんのり。ほんの少しだけ、流美たんは微笑みかけてくれた。

 その笑みは女神のように感じて、俺は自然と、


「……俊翔?」


 流美たんを抱き締めていた。


「ありがとう、流美たん。本っ当に」


「……うん」


「俺、今日気が気でなかったから……今の言葉で、心から安心した。だからありがとう」


「……うん。俊翔」


 俺が放したわけじゃない。

 流美たんは自ら、俺の手を離した。


「行ってらっしゃい」


「楽しんで来るよ。そしてまたここにも来るから」


「また来てね」


 彼女の元から離れ、矢吹が待っているであろう屋内プールの方へ向かう。流美たんと話した後、合流予定だった。

 流美たんは、本当に優しい子だよな。何で俺なんかを好きになっちゃったんだろう。

 ありがとうな。これから、いい相手と巡り会ってくれ。


「あ、花菱君。流美ちゃん来なかったんだ?」


 ──その代わり俺は、この子を絶対に幸せにしてみせるから。


「おう、李々華を見守っててくれるみたいだ。感謝しなきゃ」


「そうなんだ、優しいね流美ちゃんは。僕はちょっと、花菱君と二人きりにもなりたい……ヤキモチ焼きだからさ」


「何それ可愛いんだが。むしろもっと妬いてくれていいんだぞ?」


「もー、これ以上妬いたら大変だって」


 そんなにヤキモチ焼いてくれてんの? 天使かよ俺の彼女。セフィとかと遊んでた時いなかったのは、その所為かしら?


「あ、そういえばフルサワと何話してたんだ? てかあの人何処?」


「んーと、花菱君と上手くやれてるかー? みたいな。気にかけてくれてただけだよ」


「ちょっと何よあたしと矢吹のことが心配だっていうの。大丈夫よ! やんなっちゃうわっ」


「今はねー、何処行ったんだろう。さっきはのんびり流れるプールで流されてたけど」


「漂流してんのかおい」


 因みにフルサワの水着は下を隠すタイプのビキニだった。いやあれはビキニなのか? ごめん知識不足。

 色は意外にも白でした。スタイルはいいから男ウケはよさそう。

 俺はあの人には苦手意識が勝つんで無し。


「あー、矢吹にはこんなにも欲情するのに」


「ねぇ嫌だよこんなとこでもそんななの」


「ごめんなさいでもこんな所だからこそなのよ。今、肌色の方が多いんだから」


「パーカーもう1回着ようかな……」


「ダメよ! 水の中でそれは危険でしょう!? 大人しく俺に見せつけなさい!」


「やだ気持ち悪い!」


「気持ち悪い!?」


 凄ぇ悲しい。彼女からドストレートに言われるの、普通に拒否られるの、結構クる。

 あ、でも他の男がじろじろ見るのは普通に嫌だなぁ。昇の言う通りだわ。さっき見つめちゃったお姉様すみませんでした。


「やっぱり、視線気になるなぁ。公共のプールって苦手なんだよね」


「あ、そうなん? 矢吹発案だから全然平気なもんだと」


「うーん、あの人が経営してるから行きやすいってだけだったから……」


「なるほど。まぁ確かに俺ら9人、皆無料になったのもデカいしなぁ」


「まぁ、凄い人だよね改めて」


「凄過ぎるけどなぁ、権限の多さとかなんて特に」


 矢吹と手を繋いでプール内を歩くだけという、凄く照れくさいイチャつき方をしている。ナンジャこれ。

 あー、でも屋内プールいいな。日差しが殆どないから暑過ぎないし。

 いや暑い中水に浸かるのがいいんだろうけどね?


「え、何アレ矢吹見てみアレ。昔こんなんあったっけ、滝みたいなのあるんだけど」


「あー、僕も知らなかったかも」


 最近導入したのかしら。にしても首折れそうな勢いなんだがアレ。え、危険とか大丈夫ですかね。


「……行ってみる?」


「いや誰も使ってないぞアレ。間違いなく危険なんだと思うわ。やめとこうぜ」


「やめておこうか。ちょっと怖いし、関係ないとこで死ぬのもアレだし」


「ほんっとシャレにならんなそれ。流美たんに土下座もんだよそれ」


 2人して苦笑いして、その場から離れる。近くにいると水に流されそうだし。流されそうなだけだけど。

 さぁ次は何しようかねってタイミングで、頭にオモチャのアヒルさんがぶつかって来た。


「おーいイチャついてんじゃねーぞお前らー!」


「コタケぇえええ! ヤスダぁああ! 邪魔すんじゃねぇアホ共があ!!」


「いや俺は何もしてないだろ!?」


 アホ2人による妨害だった。え、ヤスダが何か言ってるって? 知らん知らん聞かん聞かん。

 矢吹が少し照れた様子で、再び手を握って来た。


「行って来てもいいよ?」


「いや、この時間は矢吹と過ごすね。あんなバカ共に邪魔されてたまるか」


「あはは、ありがとう」


「でもちょっと腹立つから……おーーーいコタケええええ!」


 アホ面で、人目も気にせずはしゃぐアホなコタケを呼ぶ。お前マジで恥ずかしいからな今。


「なんだーーーーー?」


「お前あの滝試してみーー!?」


「いやアレ滝じゃなくて、プールの水入れ替えてるやつだろよ」


「「え??」」


 俺と矢吹で、気の抜けた声を出した。

 コタケ曰くアレは、古い水と新しい水を入れ替えているもので、特大の管から出てる新しい水だとのこと。

 へー、滝じゃなかったんだ。新しいスポットではなかったのか。へー。

 えーと。

 流石俺達、馬鹿っプルと。はい。


 ♠


「めっちゃ笑われたな、他の人達に」


「誰も使ってないんじゃなくて、使うものじゃなかったんだね」


「何であんなとこにあるんだよもっと安全なとこに設置しろよ」


「よく見たらアレ、柵で遮られてたけどね」


「言えば言うほど自分が恥ずかしくなっていくの、恐ろしいよね本当にね」


 あのエリアから逃げて来た俺達カップルは、今度は流れるプールエリアへ。

 いやぁ、何だこの大量のクラゲみたいな光景は。みんな生気を失くして流されてるだけじゃないか。

 流石に過言だけど。


「あ、そう言えばフルサワはここにいるんだっけ? 一応声かけるか」


「いや、もう移動してる可能性もあるよ?」


「それもそうか。じゃあいいやスルーで」


「ここにいるが何か言ったか?」


「怖ぇよ真下にいるのは」


 何でこんな端の方で浮いてんのよ。俺らがここに来るの分かってたのかこの人は。不気味だな。

 てか、浮き輪……泳げないのか?


「違う。この方が気楽に流れられるだろう」


「漂流物かよあんた」


「何も考えずにいる時間もいいものだろ」


「李々華のこと気にかけてくれてたんじゃなかったの?」


「お前こそ矢吹とイチャついてて妹は見殺しか?」


「嫌な言い方すんな! まだ別にその時間じゃないんだからいいだろ!」


「ふん、甘い奴だなお前は」


「んぬぉおおおおおおっ!?」


 プールに引っ張られた。超危ねぇ何だこの人。本当に教師かよ。

 水中で目を開けたら、至近距離にフルサワのオヘソがこんにちはしていた。形は綺麗。


「ぶへぁっ! 何スか、何が言いたいんスか」


「お前らの呪いも、そんな単純なものか? 少なくとも回避条件は単純だが、そんな油断していられるものなのか?」


「……何か、知ってるんスか」


 まさか、李々華の呪いにはまだ何か、他に条件が……? だとしたら一体、どんな条件が。


「特に知らんが」


「知らんのかい! じゃあ何が言いたいんだよ!」


 ギロりと、鋭い眼光に捉えられる。この人の威圧感は、生徒に向けるもんじゃない。

 何かずっと感じてることだけど、やっぱ俺にだけ冷たいよな。何かした覚えはないんだけど。

 俺のこと、敵視してないか? この人。


「花菱李々華から目を離すな。それだけは気をつけろ、いいな」


「……自由に遊ばせてるのは危険ってことスか?」


「私も何か分かっているわけではないんだが、引っかかることがあってな。谷田崖だけでは何かあった時、どうしようもない」


「流美ちゃんは、日差しに弱いから……」


「だからお前達が目を離すな。何か分かれば、私も直ぐに教えてやる。行け」


「……ちゃんと教えてくださいね!」


 結局、矢吹とのイチャイチャはここで終わりか! 悔しいけど、あんなこと言われたら俺だって不安になって来る!


「行こう花菱君。僕らが何か分かるかも知れないし」

 

 矢吹に手を引かれ、李々華達が遊ぶ屋外プールエリアに戻る。

 屋内テラスにいる流美たんと目が合って、不思議そうな顔をされた。ありがとうな、見ててくれて。


「シュン、矢吹さん戻って来たの?」


「あ、バカ兄」


「俊ちゃーん! 矢吹さーん!」


「二人で遊んでたんだね。だからないなかったのか」

 

 4人が各々声をかけてくれる。えーと、李々華の違和感違和感違和感はっと……。


「何でじろじろ見んのキモいんだけど」


「あ、悪い。その、ちょっとな」


「は? 何? 変なこと考えてないよね」


「考えてねぇよ! 水着可愛いな、くらいだよ!」


「キモ」


「なぁぁああんでだよ!!」


「わっ」


 バシャーンと水面を叩いたら、ミコトにぶっかかった。ごめんごめん。

 ミコトも水着可愛いね。脚長いのが目立つね。よしよし。


「うぇぇ、なんで撫でるのー」


「あ、何かペットを愛でる感覚でつい」


「ペット扱い!?」


「瀬川さんは愛でたくなる愛嬌あるよね」


「矢吹さんも!?」


「あー、ごめん瀬川さん。私も同じかも」


「昇ちゃん!?」


「なるほど、瀬川さんは皆のペットなんだね」


「セフィさん違うよ!?」


「皆のペットって何か卑猥だなぁ」


「「何で??」」


 全員から総ツッコミを受けたので、何食わぬ顔で潜ってみた。危ねぇ危ねぇ、本気で危ねぇこと言うとこだった。

 シャレにならない下ネタ言うとこだった。

 あ! 待ってここで潜るのヤバい視界がヤバい!


「ぶはぁ!! 危険過ぎる」


「何言ってんのバカ兄。さっきから意味分かんない」


「いや、何でもねぇさ何でも。刺激強かったってだけ」


「変態」


「すみませんでした」


 全員が身構えてしまった。仕方ないじゃない、みんなの下半身が目の前にあったんだから。

 ここにコタケとヤスダがいないことで、悪い方向に進みませんように。主に俺の感情が。


「ああ、そういうこと? 花菱君はえっちだなー」


「やめてセフィ! セフィの声でそのセリフは普通に興奮する!」


 更にドン引きされた。全員から。すみません正直で。

 いや普通に、目の前に彼女がいるのにアホなこと言ったからか。後で土下座します。


「俊ちゃんのえっちー」


「ミコトぉお!」


「花菱君のえっち」


「矢吹も!?」


「ド変態」


「キモすぎ死ね」


「……」


 昇と李々華のは、胸にグサリとクるだけなのよ。トーンがガチだから泣きそうになるだけなのよ。

 セフィの可愛らしい言い方の、ご褒美的なのとは大きく違うのよ。

 あと、周りの人達から凄ぇ見られてるんでやめて下さいお願いします。皆にクレープ奢るんで。


「皆さん、バカ兄が興奮して鼻血出す前に、もっと遊びましょうか」


「李々華、大丈夫だ。今ので悲しくなって興奮は時空の彼方へ飛んだ」


「プールで鼻血出されたら、お水汚れちゃうよ……」


「安心しろ出ないから。興奮して鼻血出るのは二次元だけだから」


「本当に出ないのかな? 表現に使われるってことは、有り得たりするんじゃないのかな?」


「あーどうなんだろう」


「セフィ、矢吹。それ絶対無駄な話題」

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