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君のいない夜空なら今日僕は死ぬ  作者: 源 蛍
第四章 新たな呪い
84/87

4─14

「クーラー効いててすぅずしいいいいいいっ!」


 まだまだ真夏真っ最中。きっつい日差しの炎天下。ハッキリ言って冷房ガンガンにして引き篭もりたいくらいだ。

 しかしこの電車内、すんばらしく気が利いていてめっちゃ涼しくなっている。ありがたやありがたや。


「ちょっとシュン。この車両にはいないだけで他に人いるんだから、静かにしててよ恥ずかしい」


「おぉっとついつい。最近くっそ暑いからなぁ、そろそろお天道様にクレーム入れるところだったわ」


「入れたところで届きもしないから。本当に恥ずかしい」


「そんな恥ずかしがるなよ、昇っ」


「恥ずかしい男」


「そうなると色々変わってくるじゃないの」


 酷いわ昇ちゃん。誰が恥ずかしい男よもうっ、失礼しちゃうわ?

 取り敢えず騒がないようにはしよう。みんなにも迷惑がかかるし。


「ハナシュン、相変わらず尻に敷かれてんなぁ。彼女じゃなくて幼馴染みにだけど」


 背中合わせの形で座るコタケが、ククッとバカにした笑い方をする。何じゃこんにゃろ、より長い付き合いなのはお前だぞおい。

 あ、ちなみにヤスダクンは女の子だらけなので、コタケの隣で縮こまっています。ヘタレ野郎め。


「てか俺ら、本当について来てよかったん? セフィとかは特に、あんまり話したことないんだけど」


「いいんだよ、つーか居てくれよ。女の子ばかりで俺も割と気まずいんだよ」


「ま、みんながいいなら。俺らもお言葉に甘えて楽しませてもらいますけどっ」


「来てくれてありがとう。楽しんでね」

 

 コタケに目を向けられて、矢吹はにこっと笑む。まぁ可愛い。凄く可愛い。

 いやぁ、俺を通して関わることが増えたからなのか、慣れて来てくれたっぽいな。矢吹もコタケも、互いに。

 俺としては凄く有り難い。だからヤスダが情けなく見える。


「……てか流美たん電車酔いとか大丈夫そう? 俺はまぁ、もう着くし全然平気なんだけど」


 向かう駅は王都駅から二つ先。隣町だからかなり早く辿り着くのだ。

 ……あ、これ矢吹の家の方向じゃんよく考えたら。だから矢吹、そっちで待つって言ったのか。今気づいたわ。

 おっと、直ぐ別のこと考えちゃう俺ほんとバカ。これお約束。いや〜なお約束。

 流美たんどうかしら?


「私も、大丈夫そう。今日は少し……日差しが怖いけど」


「……そうだな」


 二人で改めて、窓の外を見る。初めに描写したように、今日も炎天下だ。

 流美たんは日に当たり過ぎると死んでしまう。屋内プールでしか遊べなそうだな、申し訳ない。


「あんまり無理しないでいいからな。プール入りたかったら、屋内のもあるから。俺もそっち行くよ」


「ありがとう。大丈夫。私は日陰で休んでおく」


 そもそも、あんまり水着になるのも好きではないらしい。何故今日、誘ったのを受け入れてくれたのか。

 あ、多分みんなで遊びたいって思ってくれたのかな。流美たんは確か、内気なのをどうにかしたいって感じだったし。

 そしてふと、視界の端で揺れる美脚が気になった。


「楽しみか? ミコト」


「えっ……うんっ!!」


「可愛いなお前は本当に」


「えぇっ!? き、急に!? 何!? どうしたの怖いよ……?」


「段々怯えてくのやめてくんない?」


 そんな珍しくもなくない? 俺は女の子に可愛いって言いがちらしいし。もーう矢吹に申し訳ない。

 ウキウキなご様子でパンフレットを眺めるミコト。何か凄く微笑ましくて、自ら誘ってくれた矢吹に感謝しかない。

 正面の昇も、菩薩のような微笑みを向けている。


「いやぁ本当にもう、花歌(はるか)さんありがとうだわぁ。いやいやマジ。この人数特別にタダって、太っ腹にも程があるって」


「矢吹さんのお母さん、すっごい人だったんだねぇ」


「凄いなんてもんじゃないぞ本当に」


 矢吹がいないからと、ミコトの反対側の隣に座るセフィは、そわそわしてるからはしゃぎたいんだと思う。俺とテンションの高さは競えるくらいだし。

 ……ぶっちゃけセフィの水着は楽しみnmいやなんでもないです。

 もう1人。昇の隣にクールな態度で腰かける少女に、目を向ける。


「……李々華」


「ん? 何?」


「李々華も、楽しんでな」


「まぁ、こんな機会滅多にないしね。楽しませてもらうけど」


 日差しが反射し、キラリと輝くネックレスを下げ、李々華は珍しく微笑む。

 珍しくって何だよ。うちの妹無愛想過ぎない?? よく考えたら。


「お、矢吹はもう駅着いたっぽいな。俺達もそろそろ到着致しますよっと。送信っ!!」


「うるさいっての。全く」


「あ、ついいつもの独り言してる時のテンションで」


「俊翔の独り言うるさそう」


「何てことを言うのよ流美たん。客観的に見てうるさいとは思うけど」


「驚いたな。お前が客観的に物事を考えられるなんてな」


「うん、驚きだよ。本当にあんたが来てるなんて」


 車内中央付近で仁王立ちしている、うちの第二保健室担当医・フルサワ。今朝連絡が来て、ついて来ることとなりました。

 テンション下がるわぁ。


「実費なんだから文句は言うな」


「いやでも、先生がいるのってだいぶ萎えるというか〜」


「私がわざわざ来たのは、お前のためでも自分のためでもない」


 フルサワはチラッと視線を移した。ガッツリ目が合っていた俺くらいしか気づけない程、一瞬だけ。

 視線の先にいるのは李々華だ。つまりこの人は、李々華の呪いについて探るため、来たってことか……?

 だとしたら、邪険にするわけにはいかないな……。


「えっとじゃあ、保護者としてよろしくお願いしまっする」


「頼むなら最後までちゃんと言え」


「俺、先生にはとことん反発反抗抵抗したくなっちゃうんですよね」


「張り倒すぞお前」


「いやぁんやめてぇんあたしの体をどうするつもr……っ」


 物凄い勢いで、ペットボトルが顔に突っ込んで来た。鼻血出たらプール入れなくなるでしょうよ昇ちゃま。

 ……待って普通に痛い。泣いちゃいそう。


 ♠


「海だああああああぁぁぁぁあああ間違えたプールだああああ!!」


「ほんっとに恥ずかしいからやめて!」


 おまけに「人として」と追加されて、昇にぶん殴られた。グーパンだった。そのままプールに落ちた。

 いきなり痛いじゃないの。傷があるから入っちゃダメとかになったら泣くよ俺。


「それにしても……」


 共にやって来た皆の水着姿を、チラりと見る。おお、おおおお……oh……。

 えっぐぅ……。


「何つー顔してんだハナシュン。鼻の下伸びきってるぞ」


「あ、助かるよコタケ君。君が遮ってくれたことで、僕の命は助かった」


「鼻血でも出して死ぬのか?」


「いや、彼女達からの渾身の一撃が来そうだなって」


「こーわっ」


 だってあんなん、一度見たら目を離せないって。あんな神々しいもの。

 美少女達の水着姿ですよ? 流美たんは上着ありだけど。

 え? フルサワの水着? そんなもん興味無い興味無い。


「はーなびーしくんっ。ボール持って来たよ遊ぼっ」


「あららセフィ、早速はしゃいでるわね。可愛らしい白の水着だこと。フリルがあって、清楚な感じがまたいいわね」


「何で説明みたいなことしてるの? あと何その喋り方」


「こっちの事情よ」


「その喋り方も??」


「これは何となく」


 セフィに手を引かれ、昇とミコトも待つかなり広いプールへ着水。ここは他の人達もたくさん居るから、気をつけて遊ばんとな。

 うおっ、あそこの美女スタイルえっぐ! 大人っぽ! 並んだら短足目立つから近寄らないでおこう。


「ちょっとシュン、他のお客さんジロジロ見ないの気色悪い」


「失礼とかじゃないんかい。今ちょうど、神は平等じゃねぇことを憂いでいたとこだよ。もう見れない悲しくて」


「何の話してんの」


「俊ちゃんあっそぼー! ばしゃーん!」


「おげぶぉあっぶぁ! おめっ、危ねぇだろ水の中でいきなり乗っかるな!?」


「えー、ごめんなさーい」


「二人共もうちょっと周りを気にしなさい……」


 水だからか、いつにも増してミコトのテンションが高い。元々川の神様だったんだし、喜んでくれてるのかな。

 矢吹、そして花歌さん本当にサンキュ!


「……ってその矢吹さんはいずこ?」


 パッと見、周囲にはいない。俺と来たかったんじゃないのあの子。

 水着も買ったって言ってたし、絶対遊ぶ気はある筈なんだが。


「矢吹さんならさっき、先生と話してたよ。ちょっとしたら来るんじゃない?」


「あ、マジ? んじゃそれまでもたくさん楽しみましょうかね!」


「せっかく来たんだから、そうしよ」


 ミコトとセフィ、そして昇の三人とキャッキャうふふ楽しんでいたら、コタケとヤスダのアホコンビが突撃して来て、男VS女の勝負になりましたとさ。

 何の勝負かって? ボールを弾き合うだけの簡単な遊びさ。水中でやると疲れるねこれ。


「バカ兄ー、ちょっと来て」


 そう言えば何故か一緒に遊んでいなかった、我が妹の呼び声に振り返る。水着かわちぃわね、水色のチェックだわ。

 皆控えめな水着だなぁ、ビキニは誰も着てない。そんなん着られたらプールから上がれなくなるけど。


「李々華どしたー? 一緒に遊ばんのかい?」


「上級生に混ざって遊ぶの、難しいし」


「それもそうか、気が利かなくてごめんな? じゃあ今からはしばらく一緒に遊ぼうな」


 昇に視線を送ったら、口パクで「行ってらっしゃい」って言ってくれた。流石昇さん、助かるわ。


「ん? 李々華お前、ネックレス付けたまま遊ぶのか? 失くさないようにな?」


「え、ああ……」


 李々華は、この間……もうループし過ぎて何日前だか覚えてないが、矢吹と三人でデートした日に買った、少し濁ったエメラルドグリーンの宝石がついたネックレスをしていた。

 これ、最近ずっと着けてるよな。気に入ってくれてるみたいで嬉しい。


「うん、大事にする。買ってくれてありがとう」


「何だも〜改まっちゃってぇっ。気に入ってくれて何よりだ! んじゃ遊ぼうぜっ」


「あれがいい。ウォータースライダー」


「いきなり失くしそうなやつ選ぶのねあなた」


「行こ、バカ兄」


 珍しく年相応な軽やかな足取りで、李々華は駆けて行く。俺の腕を引いて。しかもちゃんとコケない様、早足程度の走り方で。

 兄としては、楽しそうな妹の姿を見れるのは幸せだ。矢吹には、改めて感謝を伝えないとな。

 皆楽しそうだぞ、矢吹。


「のおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」


「きゃーーーーー」


「んぬぉデンジャラスッ!!」


 ウォータースライダーで、ひたすら悲鳴を上げる俺。対照的に棒読み悲鳴の李々華。

 李々華さんそれ本当に楽しんでる?


「楽しいねこれ」


「悲鳴が機械なのよ李々華たん。本当に楽しい?」


「楽しいよ? じゃないとこんな何回もやらない」


「それは確かに……もう4回やったもんな」


「もう1回行く?」


「お兄ちゃんそろそろ吐いちゃうかも」


「プールで吐いたら最悪だからやめてよね。一回上がろっか」


「ふえええい休憩じゃ休憩じゃああ」


 ドリンクバーに行きましょう。李々華は別のとこ行ったけど、あたしはドリンクバーに行くわっ。


「あ、花菱君どう? 楽しめてる?」


「おお矢吹、どこに居たん? 俺は吐きそうなくらい楽しんでるよ」


「心配なんだけどそれ」


「李々華がはしゃいでて何よりさね」


 各々ドリンクを準備して、だ〜れもいない休憩ルーム的なところで、椅子にまったりと腰を下ろす。ふぅ疲れた。

 矢吹は、前を開けたパーカー姿。覗く水着は地味目な感じだけど、矢吹って感じがして俺は好きだ。

 やっぱり最高に可愛い。素敵だぞ矢吹。


「……李々華ちゃん、今日大丈夫かな」


 静まり返った空間を割いたのは、矢吹の暗い声色。

 それに関しては俺もまぁ、不安がないわけではなかった。


「『午後6時までに、家に戻らなければ死ぬ』呪い……」


 そう、李々華の呪いは当然まだ続いているんだ。今日だけ特別なわけじゃない。

 家に着く時間も考慮すると、そこまで長く居られないんだが……李々華にどう説明して早い内に帰宅するか。


「李々華ちゃんからしたら、別にそんな早く帰る必要はないもんね。でも……」


「俺の家は、駅からも遠いからな。母さんが迎えに来てくれる手筈だとしても、結構かかる」


「遊べても、3時半までかな?」


「まぁ、そのくらいにするべきだよなぁ……短ぇ……」


 現在は正午を少し過ぎたばかりだ。だとしても、夕焼けを見る前に帰らなければならない。

 事情を知らないセフィもコタケもヤスダも、李々華本人も、不思議に思うだろう。


「んー、やっぱ別の日がよかったのかな」


「でも、呪いがいつ解けるか分からないよ? 永遠かも知れない。そうしたら、この夏皆と遊べないし……僕は寂しい」


「……だよな、俺も同じだよ」


 そうだ、条件はもう明確なんだ。どうしても短くはなってしまうけど、ギリギリまで遊んで余裕を持って帰る。そうすればいい。

 そして李々華の呪いを解けたら、来年また改めて来ればいいんだ。


 何より、あんな楽しそうな皆の笑顔を見れてるんだから、やっぱり来てよかったんだよな。

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