4─12
「バカ兄、動かないで。そのままでいて。勝手に移動しようとしないで」
「…………」
背を向けて、李々華の足置きとなる俺。俺のベッドで漫画を読む妹様は、絶賛不機嫌中である。
「えっと、李々華さん……」
「黙って。石にでもなってて」
「………………」
李々華さんが何故こんな状態なのかと言いますと、昇の策通り、フルサワによって行動制限を課せられたからだ。
本人から聞かされた感じ、つい最近転んだらしくてそれを上手く利用されたようだ。多分、あんまり動くなーとでも言われたんだろう。
病院でも行かれたら、大袈裟なのバレると思うけど。
「ほんっと最悪。コタケ妹と噴水公園行く予定だったのに」
──見ての通り、お陰で李々華は今日死ぬことはない。和泉ちゃんとのお出かけも、諦めてくれたのだ。
ブツブツ言いながら足でぐりぐりされる肩が痛気持ちいいが、それだけで俺は充分に気が楽だ。
これをあと数日続けてもらう。その間に、呪いを解かなければほぼゲームオーバーだ。
「バカ兄、汗臭い」
「急に!? そりゃ学校行くため外出たし夏だから暑いし……」
「違うこっち」
「枕!! やめて臭いとか言わないで恥ずかしい!!」
「ちゃんと洗いなよ」
「洗ってるよ!? 3日に一回くらい洗ってる!! でも夏場だもん汗かくもん仕方ないじゃない!!」
「こっちも臭い」
「お布団の匂いは嗅いじゃダメーーー!!」
そこは多分別のにおいもついてるから! 実は帰宅して直ぐ矢吹への愛を解放したばかりだから!
──慌てて立ち上がろうとしたら、タイミング悪くほっぺに李々華の足裏がヒット。めっちゃ綺麗な足だけど、ちょっと汗ばんでて興奮。
「こっち見ないで。そのままでいて」
「またぁ!?」
くっ、何か動いてはいるんだけど、何してるか見えなくて怖い。足肩に置かれてて、チラチラ動いてるのが見える。触りたい。
汗かいててもいい匂いに感じるなぁ。つま先までとても綺麗だし、脚フェチな俺によくこんな仕打ちが出来るなぁ! また解放準備出来たじゃないか!
「……ん、ありがと。また後でね」
「ゑ?」
ふっ、と力が抜けたように足を下ろした李々華は、漫画を棚に戻して部屋を出て行った。
え? 本当に何事? 俺何で足置きにされてたの? ねぇ李々華たん、お兄ちゃんが興奮した責任を────。
♠
「なぁ矢吹、トマトパスタとデミグラスハンバーグならどっちがいいと思う?」
「え………………?」
昇と矢吹とミコトと、4人で買い物中。もう直ぐ訪れる流美たんの誕生日パーティーに向けて、準備をしているところだ。
てなわけで夕飯を選んでもらおうと声かけたのだが、矢吹から返って来たのは信じられないものを見る目だった。
「あの、花菱君?」
「どっちがいい?」
「いや、ケーキがあるでしょ? 時間も学校の後だし、お夕飯直ぐだよ?」
「え? つまりすなわち要するに要らないってこと?」
「うん、要らないと思うなぁ。僕達はそれぞれ自宅で食べると思うけど、流美ちゃんはケーキでお腹いっぱいになりそうだし」
「多分俺もお腹いっぱいになるぞ」
「うん、知ってる」
乾いた笑みを向けられた。恐らく「少食だもんね」って思ってるのだろう。知っての通り大正解である。
因みに矢吹は、知っての通り底無しの胃袋の持ち主である。
「それより、ケーキどれにするか決めないと」
袖を引っ張られた。そういえばそうだった。
「んー、流美たんが好きなのってどぅれだろう? ショート? チョコ? チーズ? 抹茶? それともモンブランとか?」
「取り敢えず、ショートケーキとチョコケーキにしとこうか?」
「流美たんに直接聞くのは……」
「それは何か、気が引けるなぁ。僕とかがさり気なく聞いとけばよかったね」
「俺もだなぁ」
「花菱君は無理でしょ」
「何てこと言うの?」
二人でケーキと睨めっこしながら、何気ない会話をする。……何気ないか本当に? 相談だよなこれ。今のなーし。
「うん、じゃあ……僕注文して来るから、花菱君は先に梅原さん達と合流してて」
「え、大丈夫? 1人で行ける? 俺がいなくても大丈夫?」
「大丈夫だから。ほら、何買うかも伝えて来て?」
「何買うんだっけ」
「もー……」
一旦矢吹と別れ、昇とミコトのいる雑貨コーナーだか何だかに向かう。こういうとこ何て言うの?
えーと、あいつらはどーこにいるのかーしら?
「あ、いたいた」
「ん、シュン。矢吹さんは?」
「今ケーキ買いに行ってるぞ。ショートとチョコ」
「そうね、谷田崖さんの好みまでは分からないし、それでいいと思う」
「そっちは? プレゼント決まった?」
「今探してるのはプレゼントじゃなくて装飾だよ俊ちゃん」
そっか装飾か。そういえばプレゼントはこの後一斉に探すんだったわ。
買い物袋あるし、もう諸々見つかって暇な時間だったのかも知れない。
「あんた決めるの遅そうだし、今の内に目処をつけてたら?」
「めど? あー、そうだなぁ。でも俺は既にこれかなってやつ思いついてるからなぁ」
「へぇ、意外。でもあんたが直ぐ決める時ほど不安なことはないわね」
「そこまで言う?」
「普段がふざけ過ぎてて、心配なの」
普段がふざけ……過ぎてるんですか僕。心配になる程、そんななんですか僕ちん。
ま、まぁそういう捉え方もあるよね。ってポジティブに行こう。
そんなショックを受けている内に、矢吹が合流。さぁてと続きましてはプレゼント探しだわいな。
「なーんかぁ? わたくしが選ぶプレゼントが心配だとか言われておりますがぁ? 流美たんにベリベリマッチングしてる物選んでるんでぇ? まぁ楽しみにしt……」
「矢吹さん、瀬川さん。迷子にはならないようにね」
「「はーい」」
「……」
昇の奴、絶対わざとだな今の。遠慮なく俺のイキりを邪魔したな。
きっと面倒くさいって思われたんだろう。それで正解だと思う。ハッキリ言ってめっちゃダルい奴演じてたもん。
だから不安にさせるのではないだろうか。ふざけ過ぎてるって言われたもんね。
てかあの2人は、迷子を心配されてて何とも思わないのだろうか。
「あ!!」
「何よシュン、隣で大声出さないで。うるさいなぁ」
「ミコトに小遣い渡してねぇや」
「早く渡して来なさい……」
♠
「流美たんの誕生日まであと2日か。そう考えると、全っ然進んでないんだな……時間が」
ベッドに仰向けで、スマホのカレンダーアプリを眺める。思わず溜め息を吐いた。
何日も前に、矢吹とプールの話をしたのだ。感覚的には間違いなく。
ただ、現実は殆ど日付けが進んでいない。李々華の死のループにより、同じ日を何度も繰り返したためだ。
「改めて、俺って無力なんだって感じるな……」
何回李々華を、死なせてしまったのだろう。直ぐに救ってやるとか意気込んでいたのに、未だに呪いを解く手段すら見つかっていない。
いや、何なら何故呪われたのかも分かっていない。
「……李々華が呪われたのは、多分最初に俺と矢吹のデートに着いて来た時だ。あの時、何があった……? 目は離してない筈なのに……」
このまま数日間、フルサワに頼って李々華の行動を制限したとする。呪いを解く方法が分からなければ、結局振り出しに戻るだけだ。
嘘はそう保たない。長く騙し続けることなんて不可能だ。やっぱり早く、呪いを解く手段を見つけなければ。
「流美たんの誕生日まですら、保つか分からないんだ。李々華はずっと、大人しく言うことを聞く程バカじゃない。何なら頭いい」
だとしても流美たんの誕生日は疎かにしたくないし、俺一人では……いや、俺達だけでは辿り着けるか怪しい。
「……何かやたら差別されてるから気が進まないけど、俺も単独で、フルサワに協力を申し出てみよう。何でか分からないけど、あの人はかなり神様に詳しいみたいだし」
矢吹のことではなく俺の妹のことだけど、俺が対象じゃない限り快く承諾してくれそうだよな。うんやっぱりヒドイ。
明日それに対しての文句も言ってみようかしら。やっぱ怖いからやめとこ。
「んお? こんな時間に花歌さんからチャット? てかめっちゃ珍しいな」
遠征終わって以来、花歌さんとは滅多にやり取りをしなくなった。当然といえば当然なんだけど。
だから、こんな夜遅くに送られて来るのはかなりビックリ仰天最高潮。一体何のご要件かしら?
「あ、これ俺にだけじゃないな? プールの招待券作ってくれたんだ助かる。俺ら9人無料で遊べるぞこれ」
凄い太っ腹だな。流石矢吹を愛してやまないお母様だわ。ほっそいのに太っ腹だわっ。
つまらないジョークを言ってすみません食べないで下さい。
「俊ちゃーん、お勉強教えてー?」
「え?」
うとうとし始めていたところに、扉をノックする音と俺を呼ぶ声。
えーと、ミコトさんマジで言ってます? この俺に勉強を教わろうと? 絶対得策じゃないぞそれ。
「まぁ、分かるとこなら」
「入るよー」
「いつも勝手に入ってるだろよ。何で今日に限って遠慮してんだ」
「ん? りりちゃんが、今お取り込み中だからちゃんとノックしなー? って」
「いや別に取り込んでなかったけども」
何も考えてなさそうな顔で、ミコトが入って来た。もこもこのパジャマ可愛いなぁ。下なんか短くて美味しそう……何か最近の俺いつも以上に変態じゃね?
「おっとミコト、その美味しそうな格好で真横に来たら危険だぜ。今の俺は満月の夜に獣と化す狼さんだ」
「どゆこと? 狼って獣じゃないの?」
「……ミコトはそのまま育ってくれ。いいこいいこ」
「……んぅ?」
頭を撫で撫で撫で撫で。恥ずかしそうに声漏らしてるの可愛いなぁ。
いい加減俺はミコトをペット感覚で見るの、やめた方がいいと思うんだ。自分で思う。
それと、そのまま純粋に育っても、ミコトの神スタイルと顔と声を考えると、男に狙われそうだから少しくらい知識は持って欲しいかも。
「さぁ早速だが、ミコトよ。これってどうやって解くの?」
「いきなり!? これ一問目だよ!?」
「仕方ないだろ、分からないもんは分からないんだ」
「フルサワ先生が気を遣って作ってくれたプリントなんだけど、これ昨年の問題らしいよ!?」
「仕方ないじゃないか。バカなんだから」
「俊ちゃん!? 将来が心配になるよ!?」
俺のあまりのポンコツさに焦るミコト。
ポンコツのくせに全く焦りを感じない俺。
俺が教える筈だったのに、2人で復習することになった。そしていつの間にか、俺がミコトに教わる形に逆転していた。
♠
「花菱君、近い内にデート行きたいんだけど……」
「あっ、アレな? 月1くらいでって決めたやつ。多分、しばらくは無理そうだなぁ」
「そっかぁ。何か忙しそうだもんね、最近」
「流美たんの誕生日パーティーとかもあるしな」
「そうだね。それと、プールにも誘ってくれたもんね」
「そうそう。矢吹発案なんだけど」
午前中だけの授業を終えて、教室で補習。セフィは一緒に帰りたいとのことで、目の前の席でのんびりしている。
セフィとのことも、ちゃんと決着つけないとダメだよなぁ。本当に。どうしたらいいのか全く分からないけど。
「……花菱君の妹さんって、李々華ちゃんだっけ。名前」
「おん? そうだけど、どした?」
「んーとね」
セフィが申し訳なさそうな表情をして、椅子の向きをこっちに変える。
至近距離で見るセフィのご尊顔、本当に綺麗過ぎる。前世何をしたらこんな美人に生まれ変われるのだろうか。
「最近、李々華ちゃんのことで何かあったのかなって、気になって」
──凄く鋭い一言に、ついバッと顔を上げる。
「何で……?」
「何となく、かな。李々華ちゃん最近図書館にも残らないし、何かあったのかなって」
「えっと……まぁ、ちょっとな。セフィは気にしないでいて大丈夫だよ。気にしてくれてありがとうな」
「そっか。大変なことかも知れないけど、あんまり無理しないでね」
「おう、ありがとう」
明後日は流美たんの誕生日があるけど、更に2日後くらいにプール行くけど、まだ李々華の呪いはどうにも出来ていない。
あと何日、フルサワの強制自宅待機で凌げるか分からない。早い内に決着をつけたい。
李々華、そろそろ本当に、助けてやるからな……っ!




